モブNo.209∶「それが正しく正当な貴族のやり方なんだろ」
衛星ショータムの近くに停泊させてあるグリムゲルデさんの本体から発進すると、直接惑星イッツに降り、傭兵ギルドの駐艇場に向かった。
船を駐艇場に止め、ギルドの建物に入り、受付に向かう間、なんとなく視線が向けられていたような気がした。
新人とでも思われたのだろうか?
が、結局は何も無く、受付のローンズのおっちゃんのところにたどり着いた。
「こんちわ」
「おう。船はどうなった?」
「無事手にはいりました」
「それで早速仕事か? もう少し休んだらどうだ?」
「必要経費とはいえけっこう減りましたからね。がんばって取り戻さないと。まあその前に内装を整えないといけないからもう少し休みますよ。今回は船の登録に来ただけです」
僕がそういうと、
「そうしろそうしろ。お前はワーカーホリック気味だからな。モリーゼなんか報酬を使い切って生活がやばくなってからしか働かないからな」
おっちゃんは船体の登録用ホロ・ペーパーを用意しながら渋い顔をしていた。
「それはそれでまずいんじゃないの?」
モリーゼとは仕事でよく出くわすから、熱心なのかと思えば、どうやら違っていたらしい。
そのあとはくだらない話をしながら書類を仕上げ、船『パッチワーク号』をギルドからドルクのおやっさんの店『ドルグ整備工場』に移動させた。
キュリースさんのところより敷地が広いのと、船の内装を整える時に人員が借りられるからだ。
その後は、以前から気になっていた『カプセル式シェルターベッド』を見に行くことにした
これは、要はカプセルホテルの経営者が購入する『カプセルホテルの個室』だ。
シェルターと付いているのは、緊急時には避難用カプセルシェルターになるからだ。
僕はこれの長方形タイプを買い、船に設置することにした。
以前は普通のベッドを置いていたが、空間が無駄な感じがしていた。
しかしこれなら、上の空間に物が置けるので多く荷物が置けるようになる。
しかもこの『カプセル式シェルターベッド』は宇宙船のエンジン爆発にも耐える代物で、この中に大事なもの(ラノベ・アニメのデータカードなど)を入れておけば、失う確率はぐんと減るだろう。
他にも冷蔵庫・食品貯蔵庫・水のタンク、ろ過装置、シャワー、トイレ、簡易シンク、衛生用品、椅子とテーブル、寝具、医療用品などを買いそろえ、明日の午後にはドルクのおやっさんのところに届けてもらう予定だ。
その翌日の午前中は、船にストックする分の食料や替えの服、サイズ調整できる大きいサイズのパイロットスーツなんかを買いそろえた。
そして午後になり、全ての内装が『ドルグ整備工場』に届いたので、おやっさんのところの人員を借り、設置と補充を完了させた。
その日はそのまま家に帰り、翌日に改めてギルドに向かうことにした。
夕食は、休みの間に買った食材を全部消費し、部屋を掃除し、ゴミをゴミ捨て場にだしておく。
指定日外にだしてもいいようにしてくれている大家さんには感謝の言葉しかない。
翌朝は一切の家事はせず、船に乗せるものだけを持って、外に朝食を食べに行き、その足で傭兵ギルドに向かった。
まずは荷物を船に載せてから、受付に向かった。
「ういっす」
「なんだ。もう少し休んでりゃよかったのに」
「あんまり長いと腕がなまりそうで」
「ワーカーホリックめ……。旧ネキレルマ星王国内にある資源惑星の一つ・惑星ノイヒスの警備ってのがある」
おっちゃんは呆れた表情を浮かべながら、依頼書を見せてくれた。
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業務内容:旧ネキレルマ星王国内にある資源惑星の一つ・惑星ノイヒスの軌道衛星上での警備。
業務期間:銀河標準時間で、正規職員が決定するまでの約2週間。
3交代制の8時間連続勤務で16時間の待機休憩。
業務環境:ノイヒス宇宙港内にある警備隊基地内にある宿泊施設の無料使用・食事の無料支給。
宇宙船の燃料支給。
業務条件:宇宙船の持ち込み必須。
持ち込み宇宙船が破損した場合の修理費は自腹。
緊急時には、待機休憩時でも対処・出撃すること。
上記理由により、待機休憩時の宇宙港外への外出不可。
報酬: 25万クレジット・固定。危険手当は別途支給。
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短期の警備、しかも基点が宇宙港なら買い物やアミューズメントやジムなんかでリフレッシュもできるから、施設集中型作業基地コロニー、いわゆる管理コロニーより快適だ。
なかなかいい仕事だから、受けてもいいと判断した。
とはいえすぐには出発はしない。
移動にもそれなりに時間がかかり、少し前までは他国であった場所に出向くのだから、情報は仕入れておくべきだ。
つまりは『闇市商店街』にあるパットソン調剤薬局に情報を買いに行くわけだ。
途中であの肉屋さんで『ミノタウロスとオークの死肉合体! 紅き血の池煮』というのと炭酸飲料とを買っていった。
薬局内に入ると、ゴンザレスのやつはいつも通りカウンターに座ってプラペーパーの新聞を広げ、火のついてないタバコをくわえていた。
「よう」
「なんだお前か」
いつものやり取りに安堵し、『ミノタウロスとオークの死肉合体! 紅き血の池煮』をカウンターに置き、
「黒飴を5袋と、旧ネキレルマ星王国内にある資源惑星の一つ・惑星ノイヒスの情報をくれ」
代金の入った封筒もカウンターに置いた。
ゴンザレスは封筒の中身を確認すると懐にしまい、黒飴の袋を5個カウンターに置いた。
そして、大型端末にコードを挿し込み、その反対側を自分の首にあるコネクターに繋げた。
それから30分ほどして、ゴンザレスは電脳の世界から返ってきた。
「まず言えることは、惑星ノイヒスはかなり貧乏だ。掘り出した資源の利益の全ては、領主が管理し、国が徴収する。その利益で掘削の機械に投資されることもなく、従業員の給与や福利厚生に還元されることもなく、領主は利益を誤魔化して懐にごっそり溜め込んだ。しかも、ネキレルマが戦争に敗北した時に、領主だったスクラモン伯爵が現金・データマネー・貴金属・その他金目のものを総ざらいして逃げ出したために、資源採掘の再開が自力で出来なくなったらしい。お前もしってると思うが、我が国はそんな元ネキレルマの国民達に支援を行うと同時に、重要施設の確保・投資も行い、採掘の再開にこぎつけた。ここまではお前も知ってると思う」
「まあ、ニュースで大々的に報道してたからな。今回受けた依頼はその再開した採掘惑星の軌道衛星上の警備なんだ。まあ、地元民の正規職員が決定して、引き渡しをするまでの間だけどな」
僕がそう答えながら炭酸飲料を飲み干すと、
「なら気をつけろよ。帝国は管理を地元民に任せると発表してるけど、それを信じてない連中がいて、そいつらは施設を奪還しにくる可能性がある。しかもその主犯は、このノイヒスの領主だったスクラモン伯爵だってのが有力だ」
「それって、帝国が採掘用の機械を新しいのにしたから、それを奪い取ってまた儲けようって話? 流石に厚顔無恥が過ぎない?」
「それが正しく正当な貴族のやり方なんだろ」
僕もゴンザレスも呆れてしまい、思わずため息をついた。
どうやら今度の依頼は警戒しておく必要がありそうだ。
年末年始は更新は休ませてください。
1週間しかないけど……
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