モブNo.201∶『それでは皆様! ツーショットチャンスをかけて、じゃんけん大会をやりますわよー!』
何日かの休みを経て、『プラネットレースファン感謝イベント』の開催日になったので、会場である市民文化ホールに足を向けた。
人気のイベントなのか、市民文化ホールに向かっている最中にどんどん人が増えてくる。
交通の混雑を避けるため、『会場にお越しの際は、交通の混雑をさけるため、公共交通機関のご利用をお願いいたします』というホームページのお願いが効果があったらしい。
その様子は、まるでコミックマルシェの会場に向かっているようだった。
会場内は実に華やかで、ブースはレースチームごとに分かれていて、全部で30を超えるチームが参加していた。
各チームのブースでは、レースに使用した機体やパイロットスーツの展示、メンバーの紹介ディスプレイ、人気レーサーの等身大ホログラムなんかが設置してあった。
ほかにも、レースマシンのコックピット体験、現役レーサーとのフリートークなんかで盛り上がっていた。
レースチーム以外のブースでは、レースの歴史や創始者の功績、レース会場となった惑星の紹介といった地味な内容だったが、僕としてはレース場になった惑星の情報はなかなか面白い内容だと思った。
岩石の峡谷・溶岩の大河・高さ1千m越えの樹木のジャングル・だだっ広い草原のようにみえる海草のある海など、人間が住むには適さない惑星の風景、しかもレーサーからの視点映像もあり、なかなか見応えがあった。
ほかには、協賛会社の様々な販売ブースがあり、ここでは食品の屋台と休憩所も併設され、食事もできるようになっていた。
コスメブランドの『シルフィードゴスペル』がダイエット用のローカロリーフードなんか販売していたのは知らなかったなあ。
まあダイエットというよりは、太らないための食品だね。
試食したら案外美味しかったので、少しだけ買ってみたりもした。
販売ブースには、色んなチームのロゴなんかが入ったタオルやらTシャツやらは勿論、キーホルダーだのチームデザイン仕様の汎用端末なんかが売られていた。
ちなみにそれに紛れて人気レーサーのフィギュアまで売っていたのはどうかと思ったけど、ここにあるということは、許可が出たってことなんだろうね。
当然だけど、ノスワイルさんのフィギュアも並んでいた。
『それでは皆様! ツーショットチャンスをかけて、じゃんけん大会をやりますわよー!』
不意にそんな声を上げていたのは、プラネットレースチーム『ヴァイオレットドラゴン』のエースパイロットのプリセリセル・アリラウス・ファリナー伯爵令嬢だ。
名前はディスプレイに写真付きで載っていたし、さっきのフィギュアにも、彼女が並んでいたはずだ。
金髪碧眼でロングのストレートをうなじのあたりで結んでいて、口調はお嬢様なのに、髪型は縦ロールではないようだ。
その彼女の横には、他のチームのブースでも見たように、男女共に見目麗しいパイロットの人達が並んでいた。
そのなかには、イベント中であるにもかかわらず、もきゅもきゅとドーナツを貪っている娘や、恥ずかしそうに俯いている娘などがいて、なかなかバラエティに富んでいるようだ。
そんな感じで色々見回っていると、『クリスタルウィード』のブースにたどり着いた。
いまはレーサーは休憩中らしく誰もおらず、メカニックらしい女の子が機体の説明をしていた。
あのメカニックの女の子はなんか見覚えがあるような……。
誰だっけと考えていると、急に黄色い声が上がった。
見てみると、等身大ホログラムのパターンが変わり、ノスワイルさんがなぜか白のタキシードを着ているパターンになっていた。
すると女性達が争うように横に並んで画像をとりまくりはじめた。
改めてノスワイルさんの女性人気は物凄いなと実感してしまった。
暫く見ていたけれど、レーサーの人達は出てくる様子もないのでお暇する事にした。
まあ、ノスワイルさんに会ったところで話すこともないわけだし、話なんかしてたらあの女性ファン達に殺されかないしね。
その会場からの帰りには、『アニメンバー』に寄ったり、久しぶりに『百貨店』にいってみたり、普段あまり行かないような飲食店に行ってみたりと、リフレッシュはできたような気がする。
☆ ☆ ☆
【サイド∶エーリカ・ランドルト(エリサ・ラドゥーム)】
公爵閣下の所から逃げ出し、パイロットスーツだけで宇宙空間を漂っていた私を救助してくれたのは、プラネットレースチームの『ヴァイオレットドラゴン』の所有するコンテナ船『ドラゴンオーブ』だった。
意識を取り戻した後、名前や住所を聞かれたが、正直に答えるわけにはいかない。
なので咄嗟に、エーリカ・ランドルトと名乗り、孤児院出身で、荷物運びの仕事の最中に犯罪組織に誘拐されたが、どこかのエージェントらしい眼帯にバンダナの男性に助けてもらって、貨物船を奪って逃げ出したはいいものの、追っ手に貨物船を撃墜され、脱出したものの気絶をしてしまった。
と、答えた。
我ながらよくペラペラと話がでてきたものだ。
この偽名は我ながらいいチョイスだと思った。
実は偽名というのは、自分とかけ離れすぎたものだと、話しかけられたときに反応ができなくて怪しまれてしまうことがある。
そして元の名前に近似している場合、元の名前を呼ばれて反応しても、『似た名前だから反応してしまった』という言い訳が通る可能性がある。
公爵閣下が撃たれたのはニュースで確認した。
この隙にあの執事長が何をするか分からない。
しかし追っ手がかかってないところをみると、死んだと思われているのかもしれない。
そこで私はこのレーシングチームを隠れ蓑にすることにした。
まずは、運送会社に連絡したふりをして、クビになったことを伝えたあと、チームの人にここで雇ってもらえないかと頼んだ。
すると意外にもあっさりと承諾され、操縦テクニックを見せてくれというのでみせたら、新人パイロットとして雇ってもらうことができた。
それに伴い、髪を黒く染めてイメージチェンジをしてみた。
本当はカラコンもしてオッドアイを隠したかったのだけれど、メンバーやスタッフの反対で却下された。
なので髪を伸ばすことにした。
しかし、ヴァイオレットハウンドだった私がヴァイオレットドラゴンのメンバーとはね……。
そんな感じで新人用のレースで勝利し、少しづつ溶け込み始めた頃にこのイベントがあった。
そこでまさか、『土埃』に遭うとはおもわなかった。
まあ私は彼の顔を知っていても、『土埃』は私の顔を知らないから大丈夫ではあるけれど、なんとなく顔を伏せてしまった。
姉さんが死んでしまったのは、確かに『土埃』が原因だ。
しかし今現在、私の敵意はあの執事長に盛大に傾いている。
それに、姉さんが亡くなったのは戦場だ。
あまり恨みがましくするものでもない。
事実、私達姉妹は『土埃』を殺そうとしていたのだからお互い様だ。
勿論機会があれば挑戦兼姉さんの仇討ちを仕掛けたい。
しかし今の私ではどうにもならない。
あの時彼を追い詰められたのは、姉さんとの二人がかりだったからだ。
幸い、プラネットレースには戦闘もある。
このレーサー生活で、暫く腕を磨くことにしよう。
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青犬妹の現状でした。
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