モブNo.199∶「あの世にいるタイアスから許可をもらってこい。貴方を一騎打ちで破った相手を、複数人で不意打ちをし、嬲り殺しにしてよいか? とな」
海賊共の駆逐艦は、ダメージは負ったものの、まだまだ動けそうだ。
しかしそれ以上に問題なのは、この明らかにどこかの貴族の配下らしい戦闘艇の編隊だ。
さらにまずい事に、一旦逃げようかなと思った矢先に、艦隊が姿を現した。
少なくとも極大型戦闘艇が1隻、超大型戦闘艇が4隻、大型戦闘艇が6隻、中型戦闘艇は10以上はあった。
そしてその艦隊の艦には編隊と同じクロスした片刃斧に稲妻のマークがあった。
慌てて調べたところ、惑星ブロスラントの領主のサークルース伯爵家の紋章なのが分かった。
とくに関わりのない貴族なのになんでと思っていると、
『こちらはサークルース伯爵家の私兵艦隊だ。我々の管理地であるナジナス宙域を荒らしていたのは貴様らだな? おとなしく捕縛されるか宇宙の藻屑になるか選べ!』
という無差別通信が入ってきた。
画面に現れたのは、口髭をたくわえた岩のような印象の人物だった。
その顔をみて思い出した。
たしか惑星コルコス近隣の宙域にある、小惑星群の収集作業の仕事のときに、見学に来てた貴族だ。
名前はフイガス・サークルース伯爵。
調べたところ、艦隊司令官・戦闘艇パイロット・白兵戦のプロフェッショナルとしても名前の挙がる凄い人だった。
正直こんなとんでもない人物とことを構えた事は無いはずなんだけど?
ともかく海賊とは違うことを相手に伝えないと、まとめて捕縛されかねない。
「あーもしもし。こちらは傭兵ギルドの傭兵です。海賊の捜索中にこの連中に襲われたものです」
とくに艦隊の前にいる戦闘艇の編隊がとくにヤバい気がする。
すると画面に副官っぽい人が出てきて、
『了解した。しかし、ギルドに照会して確定するまではその場を動かないでいただきたい。あと、貴殿の身分証明の提出を』
「了解しました」
僕はおとなしく身分証明を提示し、エンジンも切っておいた。
これで怪しまれないだろう。
勿論すぐに点火できるようにはしておくけどね。
海賊達のほうも、流石にこの火力に囲まれては観念したらしく、接舷されて捕縛されたようだ。
そのうちに、
『お待たせした。貴殿が惑星イッツ所属の傭兵であることが、確認できた。遅れてしまったが、こちらの戦闘艇編隊が攻撃のニアミスをしてしまった事を謝罪したい。それと、この連中は我々が連行してもよろしいかな?』
「はい。私の探しているターゲットではありませんので、では失礼します」
ここでさらなる謝罪を要求したりごねたりしたら、絶対にヤバい事になるので即座に受け入れ、迅速にその場を後にした。
☆ ☆ ☆
【サイド∶第三者視点】
サークルース私兵軍の旗艦『シールドクルス』の艦長室に、先行部隊として出撃し、傭兵であるジョン・ウーゾスを襲撃した戦闘艇編隊のメンバーが集められていた。
まずは副官であるトーバル・サークルースが、
「何故あの場にいた傭兵を攻撃したのかね?」
と、質問したところ、
「何故攻撃してはいけないのですか?」
と、質問が返ってきた。
「あやつは間違いなく傭兵であり、まっとうに海賊退治の仕事をしていた。それを、治安維持のために海賊を捕縛に来た我等が襲撃しろ。と? さらにいうならば、その相手に対して仇討ちである事を通告し、正面切って戦いを挑むならともかく不意打ちをするというのは問題だな」
その返ってきた質問には、司令官であり、旗艦の艦長であり、サークルース伯爵家頭首である、フイガス・サークルース本人が返答した。
この理由は正しく、治安維持を目的とするものが、同じく治安維持を目的としている傭兵を攻撃するのは問題である。
しかし戦闘艇編隊のメンバーの1人、ロングヘアの女性であるマリー・フレイアフィルはそれに異を唱えた。
「あの男はタイアス様の! 御領主様の御子息の仇なのですよ?!」
彼女は怒りを露わにし、声を張り上げた。
「正確には、あの男、ジョン・ウーゾスに動きを止められたところを、別の人間に砲撃されたために死んだのだ。厳密にはあの男のせいではない」
フイガスの発言は真実であり、タイアスの使用していた機体の色と雀蜂のマークから、傭兵ギルドでは『青雀蜂』のコードネームがつけられ、撃墜ホルダーは司教階級の某になっている。
「たしかにそうです! しかし! あの男がタイアス様を死に追いやった原因なんですよ?! あの男がいなければ、タイアス様は死ななかったんですよ! 今からでも追いかけて撃墜を……」
マリー・フレイアフィルは、声を上げ、必死に追撃を訴えるが、フイガスはじろりと彼女を睨みつけ、
「我が息子タイアスは、政敵に謀殺されたわけでも、街中で不意打ちをされたわけでも、毒殺されたわけでも、弱者を助けようとして殺されたわけでもない。戦場での一騎打ちで敗れたのだ!」
声を荒らげながら、デスクをガン! と叩いた。
その行動に、室内にいた全員が固まると、
「戦場での事は仇にはせぬもの。しかし、息子が亡くなったのは悲しい。それは間違いない」
声のトーンを落として言葉を続けた。
「でしたら! 絶対にあの男を撃墜するべきです!タイアス様が殺害された原因なんですよ! タイアス様も仇を取ってほしいとおっしゃっているはずです!」
「そうか……ならば」
フイガスは立ち上がると、黄色の刀身のビームサーベルをマリー・フレイアフィルの首に突きつけ、
「あの世にいるタイアスから許可をもらってこい。貴方を一騎打ちで破った相手を、複数人で不意打ちをし、嬲り殺しにしてよいか? とな」
と、言い放った。
それを聞いたマリー・フレイアフィル旗下の戦闘艇編隊のメンバーは、タイアスがそんなことを許可するはずがないことを十分に理解していた。
結果、マリー・フレイアフィルは謝罪し、戦闘艇編隊は暫くの謹慎を言い渡された。
艦長室でため息をつきながら、椅子に倒れ込むフイガスに、弟であるトーバルが声をかけた。
「よかったのですか? 絶好の機会でしたが」
「それで殺せたとして、あいつに顔向けができん。せめて、明確に敵対していたならともかくな……」
ジョン・ウーゾスが、息子の仇の1人であることは間違いない。
今回遭遇したのが、互いを敵とした戦場ならばともかく、自領の治安維持のための行動をしている時に、完全な不意打ちでジョン・ウーゾスを殺せたとしても、絶対に釈然としないし、何よりもあの世で息子に合わせる顔が無くなる。
「しかし、完全に不意を突いたタイミングで放ったビームを、あんな最小限の動きで躱すとはな……。タイアスが負けたのも納得がいく。部下に欲しいくらいだ」
「納得しないものは多いでしょうがね」
しかし同時に、ジョン・ウーゾスの実力を理解し、兵士として賞賛しているのも事実であり、部下としてスカウトしたい。
しかし部下たちの感情を考えるとスカウトは出来ない。
フイガス・サークルースはその相反する様々な感情に少々悩んだ。
「先行部隊の連中は少し気をつけておいてくれ。特にあの小娘をな」
「了解しました」
フイガスは棚からウイスキーのボトルとグラスをとりだし、
「とりあえずは海賊捕縛の祝い酒と行くか」
「お付き合いしますよ兄上」
弟と軽くグラスを鳴らした。
☆ ☆ ☆
【サイド∶マリー・フレイアフィル】
私はシャワールームで冷水を浴びながら、さっきまでのやり取りを思い返していた。
御領主様はどうしてあの男の殺害の許可を下さらないのだ!?
タイアス様が死んだのは、あの男がタイアス様を行動不能にしたからだ。
だが確かに、不意打ちはタイアス様は好まないだろう。それは反省せねばならない。
しかし一番、腹が立つのは、公式な記録では、タイアス様の足下にも及ばないゴミみたいなやつがタイアス様を撃破したことになっている。
あの男がだめなら、こちらのゴミは構わないのだろうか?
いや、こいつも戦場にいたからには文句が言えない。
どうにかしてタイアス様の仇が取りたい!
そのためには戦場であの男やゴミ共と相対する必要がある。
そのためならどんな事でもやってみせる!
そのためには、この謹慎をおとなしく過ごす必要があるのがもどかしい。
タイアス……ぼ……私が必ず仇を取ってみせます!
★ ★ ★
御領主は、息子の死亡の原因のため、恨みがない訳では無いが、戦場だったこと、邪魔の入らなかった一騎打ちだったこと、最終的には命を奪っていないこと、などがあるため、そこまで頑なではありません。
マリー女史は……お察しください
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