モブNo.198∶『お前だな! 最近俺達を嗅ぎ回っているのは!』
文書の一部を修正しました
初日の情報収集は空振りに終わった。
まあこれは初めから分かっていたことではある。
海賊の目撃証言、襲撃された事がある話ならともかく、観光地の繁華街にある風俗店や飲み屋に、堂々と現れる海賊はまずいない。
フィクションに出てくるような、民衆に絶大な人気のある、義賊的な大海賊なら話は違うだろうけどね。
それでも、このナジナス1のサービスエリア『リングシティ』にも情報屋がいる事が分かったから、明日にでも行ってみることにした。
どうせならホテルに宿泊してみようかなとも思ったけれど、流石に観光地のホテルはどこもいっぱいだったので、自分の船で寝ることにした。
こんなときは、汎用型戦闘艇にベッドとトイレとシャワーを乗せておいた自分を褒めたくなるお。
夕食を買い、自分の船でアニメを観ながら楽しんでいると、外が不意に騒がしくなった。
ここの駐艇場は24時間発着可能なので、人の動きがあること自体はおかしいことではないし、船で寝泊まりしている人自体少ない、というかいるはずはないので、大きな音を出しても問題はない。
が、それを考慮したとしてもやかましかったので思わず外を見ると、観光に来て酒に酔った大学生らしいのが、自分達の船に乗ろうとしているらしいのが見えた。
駐艇場で寝泊まりする方がおかしくはあるので、文句を言う権利はないし、関係もないのでほうっておくことにしよう。
翌日は、教えてもらった情報屋に行くことにした。
勿論罠の可能性もあるので油断は禁物だ。
その情報屋は、『西の居住区』にある住民相手のピザショップで『ジャンクピザ』といい、市民公園の多目的広場で、キッチンカー営業をしているらしい。
僕は移動板に乗り、『西の居住区』に向かった。
ここは名前の通り、東の観光地で働いている人達の居住地で、市民生活に必要なものは全て揃っているそうだ。
そのなかの市民公園は、多目的グラウンド、テニスコート、屋内プール、体育館、屋外アスレチック、遊歩道、児童公園、多目的広場などがある複合施設で、観光客でも利用が可能だ。
その多目的広場には何台ものキッチンカーがあり、そのなかで青を基調としたキッチンカーに『ジャンクピザ』という看板があった。
この『ジャンクピザ』で情報をもらうには、ある行動が必要だ。
それは、この店のメニューに『おまかせピザ』というメニューがあり、それを頼むとアフロにサングラスのラテンな感じのマスターから、『好きな具材、嫌いな具材、アレルギーのあるものを書いてくれよブラザー&シスター!』と、印刷された紙とペンを渡されるので、それに欲しい情報を書く。
すると、欲しい情報の入ったデータチップが、箱の下に貼り付けられているピザボックスを渡してくれる。
ちなみにここで普通に答えると一般の客と判断され、普通にピザを出してくれる。
代金の支払いは、怪しまれないために情報のみで、代金は提示された金額の100倍(2500クレジットなら25万クレジット)を支払うルールになっている。
僕もそれにならい、情報をお願いした。
船に帰ってデータチップを確認すると、近隣で発生した全ての小規模らしい海賊の出没ポイントが詳細に記されていた。
やっぱり小規模なだけあって特定は難しいらしい。
ここから本格的な虱潰しが開始となる。
ちなみに、カモフラージュとして入っていたピザはマルゲリータで、本当に美味しかったので、今度は普通に食べにこようと思う。
そうして情報を確認してピザを食べ終わり、点検と補給をして出発しようとしたとき、管制塔から情報が流れてきた。
なんでも、昨日の夜中に出発した連中が、海賊の襲撃を受けたらしい。
恐らく夜にでていったあの、大学生達だろう。
船そのものは奪われなかったが、船内の金目のもの・衣服・食料・燃料を奪われ、船内に残った空気だけで彷徨っていたところ、巡回中の警備艇に発見されたらしい。
もし発見されなかったら、彼等は苦しんで死んでいたことだろう。
生きているうちに救出されたのは不幸中の幸いだね。
ジャンクピザからもらったデータチップに入っていた、近隣で発生した全ての小規模らしい海賊の出没ポイントを一つ一つ周り、何かの残滓がないかと探していくのは、正直苦行に近い。
本当なら、昨晩襲われた連中に話を聞きたいし、襲撃ポイント(ナジナス1の間近だったらしい)にも行ってみたいが、観光地なだけに巡回も頻繁なはずのナジナス1の間近で、その巡回の間隙を突いてきたこの海賊に警察はかなり躍起になっていて、下手に近づくと犯人扱いされかねないので近寄れない。
警察の邪魔をするつもりも、犯人にされるつもりもないので、地道にポイントを探っていくつもりだ。
そうして7日間かけて、もらった出現ポイントの7割を調査し終わり、そろそろ違うアプローチをするべきかなと考えながら、ナジナス1に向かっていると、不意に何者かから通信がはいってきた。
なんだろうと思ってででみると、
『お前だな! 最近俺達を嗅ぎ回っているのは!』
画面の向こうに現れたのは、闇市商店街を闊歩してそうなトゲトゲの服を着て、金髪やら赤髪やら青髪やらを、ハリネズミやモヒカンやらにし、顔全体に変なペイントをした青年達だった。
恐らく身バレしないためにやっているのだろうが、正直無駄でしかない。
『まあ。俺達に見つかったのが運の尽きだ。おとなしく宇宙の藻屑になりやがれ!』
そうして彼等の船、中型戦闘艇が接近してきて、砲撃を放ってくる。
その砲撃を避けながら、一つ聞いておく事があった。
「少し前に大学生の船を襲ったのはあんたらかい?」
『そうだ! 面白かったぞ? 女が何人かいたが、男どもが『女はヤッて良いから俺達は見逃してくれ』とか言ってきたからたっぷり楽しんで、男の方も可愛がってやったぜ!』
すると彼等は自慢げに、とんでもない内容を返してきた。
コイツらは僕の標的ではないが、襲われたなら反撃しないわけにはいかない。
流石に警察も文句は言いづらいだろう。
砲撃されながら追い回されるような形になっているが、回避は簡単だし、小型の戦闘艇が出てくる気配もない。
では如何にして彼等を無力化してやろうかと考えていると、突然前方から無数のビームが飛んできた。
僕は咄嗟にかわしたが、海賊の中型戦闘艇は避けることが出来ずに直撃してしまった。
その攻撃をしてきたのは、マックスボーグ社製G-32『ディリタ』の5機編隊で、その機体にはクロスした片刃斧に稲妻のマークがあった。
えっと……誰の紋章だっけ?
平民にはわからないねえ。
夏バテ気味……
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