モブNo.197∶『これからが大変なのだがね』
ゴンザレスのとこで話をした翌日。
僕は小規模海賊の捜索に出かけた。
とくに有益な情報もないので、出現宙域を虱潰しに調べるという地味な作業を開始した。
この地味な作業の流れはいつも同じだ。
海賊が出現する宙域の近辺にアジトがあるのは明白だから、辺りを軽く流してから近くのサービスエリアに聞き込みに行く。
これが一番当たる確率が大きい。
今回の小規模海賊の出現地はナジナス宙域。
ここにはナジナスと名付けられた中性子星があり、その近くには巨大な超新星残骸がある。
そのことから、おそらく何万年も前にナジナスが超新星爆発を起こしたのだろうと言われている。
爆発の中心に中性子星がいないのはよくあることらしい。
発見から現在も調査・観測は続けられており、専用観測船『サードアイ』は超新星残骸の安全圏ギリギリの場所を移動しながら常駐しているそうだ。
その超新星残骸からの安全圏で、一番超新星残骸に近い惑星であるナジナス1には、サービスエリアと呼ぶにはおこがましいくらいの巨大な施設がある。
その理由としては、ナジナスの超新星残骸が、様々な色彩のリングを重ねた形状をしており、ナジナス1の位置からだと、ナジナスが丁度リングの中央にあるようにみえるため、『ナジナスのプリズムリング』と呼ばれ、観光資源になっているからだ。
ちなみにこのナジナス1には大気がなく、地表には岩石しかない。
おそらく超新星爆発によって大気や地殻が丸ごと吹き飛ばされ、何らかの原因で大気の再生がされていないらしい。
そのため、このナジナス1のサービスエリア『リングシティ』は地下にあり、役所・警察・消防・裁判所といった都市機能も有しており、大気が無いため有人惑星の指定は受けていないが、有人コロニーと同じ自治権限は有している。
このナジナス1の入り口となる駐艇場は、惑星の極の位置にそれぞれ1つずつあり、直径200km・深さ1kmのクレーター状になっている。
『北』の駐艇場は一般専用で、『南』の駐艇場は貨物船と観光用大型船専用で、どちらも物体は通すが空気は通さないという選別式透過フィールドを使用している。
『東の観光区』や『西の居住区』に移動するための通路は、高さが3m・幅が50mあり、専用の移動板で移動する。
『観光区』と『居住区』に入ると、天井の高さが50mになり、その天井は全てモニターなっていて、銀河標準時に合わせて朝昼晩の演出をしている。
『東の観光区』はその名の通り観光用のエリアで、目玉の『ナジナスのプリズムリング』をみるための展望ドーム。ホテル・アクティビティ・土産物屋・繁華街・風俗街などがある。
『西の居住区』は名前の通り、ここで働いている人達の生活の現場であり、役所・警察署・消防署・裁判所・学校・病院・スポーツ施設・商店街といった生活に根ざした空間だ。
そしてこの『西の居住区』の上部にも、観光用の展望ドームと同じものがあるが、これは『別荘地』になっていて、大抵は貴族のものだ。
そしてそれらとは別に小さなドームがあり、それは皇族用の御用邸だという。
物凄くメジャーな観光地であるため、交通量が多く、ゲートも近いため、海賊にとって狙い目なのは間違いない。
勿論警察がいるからにはパトロールもしているだろうから、ここを起点にして、何か隠ぺい手段を使っているのかもしれない。
ともかく情報を得るために向かうのは、やっぱり酒場や繁華街だ。
お酒や繁華街は苦手だけど行くしかないんだよね。
☆ ☆ ☆
【サイド∶第三者視点】
暗い執務室に、モニターの明かりだけが広がり、
ワインが注がれる音が響いた。
その執務室の主である男は、ワイングラスを持ち上げると、
「ひとまず乾杯だな。目的の一つは達成した」
と、モニター越しの相手に乾杯の動作をし、ワインを飲み干した。
『これからが大変なのだがね』
モニターの向こうの人物は、呆れるようにため息をついた。
執務室の主は、ワインをグラスに注ぐと、がぶがぶと飲み干し、
「予備の平民上がりが、平民や植民地民を寄せ集めただけの部隊を作ったら、なぜか最強の部隊などと呼ばれ、司令官のあ奴が『鬼神』だなどと持て囃されるのだ!」
溜まっていた対象への不満をぶちまける。
この部屋が防音・盗聴対策をしていなければ、隣室や執務室前の廊下までは聞こえていただろう。
『第5艦隊にも平民や植民地民の兵はいるぞ』
その執務室の主の不満に対して、モニターの人物は、同じように平民を使っている部隊を例にあげる。
「あそこは……懲罰施設みたいなものだろう。司令官のルナリィス・ブルッドウェル嬢は魅力的だがね」
執務室の主はワインをグラスに注ぎ、がぶ飲みをする。
モニターの人物は、あれでは高いワインの味も分からないだろうとため息をついた。
「ともかくあのサラマスのやつに刺客誘引の罪を被せられたのは傑作だ!」
執務室の主は嬉しそうにそういうが、彼はなにもしていない。
テロリスト達への情報の流出も、襲撃者の手引きも、冤罪工作も、何一つやっていない。
調べられても何も出ない。
今この場で話していることが一番ヤバイ事だったりする。
それとは対照的に、モニターの人物は苦い表情をしていた。
『しかし妙だ。なんであいつはわざわざ疑われるように姿を隠したんだ? しかも、第7艦隊の全てが姿を消した。こんな事は絶対にありえない事だ』
このような場合、自分の身の潔白を証明しようとするものなのに、それを一切やらず、艦隊全部が消えるというのはあり得ない事ではある。
「たしかにな。普通なら、旗艦と他数隻が消えるぐらいのはず。それが全艦ってのはありえない。せめてあの紅いビームを放つ戦闘艇はほしかったな」
執務室の主は、サラマス本人や彼の乗る旗艦は消えるだろうが、後の連中は残ると踏み、その残った艦隊のなかに紅いビームをはなつ戦闘艇があるのを期待したらしい。
『あれは奴の切り札だろうからな。手放す事はあるまい』
モニターの人物は、また苦い表情を浮かべる。
「しかし、公爵閣下が陛下を庇って撃たれたのは驚いたな。そんなに甥っ子の娘、姪孫だったか? 可愛いのかね」
『身内だし。孫の1人くらいに思っているのだろう。陛下と元第1王女だけ殺せればよかったので、低出力の光線銃を渡したのは幸いだったのか不幸だったのか……』
執務室の主は皮肉を込めて笑い、モニターの人物は何ともいえないため息をついた。
「良いではないか。あのご老人にも、いずれは居なくなってもらわないといけないのだからな」
執務室の主は、またもワインをがぶ飲みする。
本人は既に勝利の美酒のつもりらしい。
『とにかく第7艦隊の所在が判明したら連絡をくれ』
「それは全軍が教えてくれるだろうよ」
執務室の主は通信を切る。
「せいぜい頑張って皇帝を目指してくれ。プランは少々変更する必要ができたが、その方がより評判が良さそうだしな」
執務室の主は嬉しそうに笑うと、残ったワインを飲み干し、執務室のソファに寝転んで惰眠を貪り始めた。
果報は寝て待てといわんばかりに……。
今回は変換ミスによる面白はありませんでした
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