モブNo.192∶「軍隊は大変だなあ……」
かなり危なかったけど、何とか赤と青を落とす事が出来た。
赤の方は爆発しちゃったけど、青の方は噴射口だけ壊すことが出来たから、他のも合わせてけっこうな額になりそうだ。
さらには第7艦隊から、逃げ出した『中濃海賊団』の精鋭の連中を何人かと、さっきの脱出組の揚陸艇を拿捕したとの連絡もあった。
そいつらもそのまま第7艦隊が引き取るらしい。
ギルドの買い取り係の船が到着すると、即座に動かなくなった戦闘艇を回収していく。
僕が仕留めたのは全部で7機。
ロスメイアコーポレート製Fues-732『スイミナー』502万クレジット。
グラントロス社製G-22『バステス』407万クレジット。
マックスボーグ社製G-32『ディリタ』512万クレジット。
ジェルマッキン・ロミクス社製G-42『ラスジャルト』504万クレジット。
グラントロス社製G-04『ポルター』351万クレジット。
トリスギアータ社製C-21『サンダーアップ』411万クレジット。
ティウルサッド・コーポレーション社製Si-08『ダルバート』500万クレジット。
以上合計で3187万クレジットになった。
さすが最新型やら軍の正式採用機やら人気のビンテージ機なだけあってみんな高価買取だ。
まあ、なんで海賊団がこんないい機体を持っていたのかを考えると嫌な考えが浮かぶが、そんなのは僕が考えることじゃない。
そしてこれに基本の依頼料の200万クレジットを足すと、3387万クレジットになる
正直海賊退治は依頼料より、鹵獲した戦闘艇の買取額のほうが高額になることが一番ありがたい。
最初は爆発させてしまったり、買取額が低くなってしまうところを破壊したりしていたが、今は機動力を奪いつつ、一番高く買い取ってくれる噴射口狙いがスムーズに出来るようになった。
これができなかったら、父さんが押し付けられた借金はいまだに返せていなかっただろう。
こうして中規模海賊団の退治に参加した僕達は、ほくほく顔で惑星イッツへの帰路についた。
イッツに到着すると、全員が馴染みの受付のところに行き、報酬を受け取っていた。
バーナードのおっさんは新人らしい女の子。
モリーゼとダンさんは、それぞれ知り合いらしい女性。
ユーリィくんは勿論ゼイストール氏。
そしてディロパーズ嬢は僕と同じ、ローンズのおっちゃんのところだった。
勿論ディロパーズ嬢に先を譲り、彼女が終了してから手続きをお願いした。
「それにしても、毎度海賊退治では相当稼いでるよなお前は……。今回だけで俺の年収軽く超えてんじゃねえか!」
「まあ、今回は規模が大きかったし、味方も居たからね」
「さっきの嬢ちゃんもにたような額だったからな、まったく羨ましいぜ。それで、情報でいいのか」
「お願いするよ」
ローンズのおっちゃんは少し嫌味っぽく言ってきたが、こんなのはいつものやりとりだ。
傭兵ギルドで報酬を受け取ると、まずは銀行に向かい、半額の1693万5千クレジットを両親の口座に振り込み、現金もいくらか用意しておく。
借金があったときとは違って気分は軽い。
そしてそのまま、友人の住んでいる闇市商店街に向った。
色々と世間がきな臭くなっても、元々怪しいここは変わった様子はない。
『ウィッチ・ベーカリー』のチーズバゲットと、例の肉屋の『脂泥より這い出るロック鳥の胸板』、自販機のコーヒー飲料を買ってから、ゴンザレスのところに向かう。
「うっす」
「よう。生きてたか」
ゴンザレスはいつも通り、火のついてないタバコをくわえ、新聞を広げていた。
「まあね。美味そうだったから買ってきた」
僕は買ってきたチーズバゲットと『脂泥より這い出るロック鳥の胸板』と例のお肉屋特製だという『果実と野菜のミンチ・神の鮮血煮汁』のプラボトルとコーヒー飲料をカウンターに置いた。
ちなみにチーズバゲットは焼きたてだったのでまだ温かい。
「このチーズバゲット人気だからすぐなくなるんだよ。よく手に入ったな」
ゴンザレスはチーズバゲットをキッチンに持っていくと、スライスしてからオーブンで軽く焼いてから皿に盛り付けてきた。
ついでに小鉢も持ってきたので、『果実と野菜のミンチ・神の鮮血煮汁』をそれに注いだ。
僕はコーヒー飲料、ゴンザレスは買い置きの炭酸飲料で乾杯すると、チーズバゲットと『脂泥より這い出るロック鳥の胸板』を食べながら、暫しくだらない話を楽しんだ。
そうして極小規模な祝勝会を終えると、
「なんかいい情報ない?」
と、本来の目的を告げた。
「不確定情報でいいなら聞いといた方がいいのはある」
ゴンザレスの表情から察して、僕は現金の入った封筒をカウンターに置く。
「最近軍の内部で綱紀粛正が行なわれてるのは知ってるか?」
「演習に参加した時にそんな雰囲気はあったね」
「軍内部に反皇帝派が潜んでいるのを炙り出すためって……噂だ」
「そう聞くと、あれだけ盛大に綱紀粛正していたわけだから、既に事実にしか思えないんだけど?」
「皇帝陛下と民衆を守護するための軍の内部に、反皇帝派が居るってのは外聞が悪いんだろう。だから噂扱いなんだろ」
「軍隊は大変だなあ……」
☆ ☆ ☆
【サイド∶エリサ・ラドゥーム】
本当はあの執事長は殺してやりたかった。
殺せなかったのは、フローラ先生の治療を優先したからだ。
そのことに後悔はない。
出来れば先生も連れていきたかった。
でも、私に逃げろと言ってくれた先生の気持ちを無駄にはできなかった。
無事だとよいのだけれど……。
おそらく、あの男を殺す機会はもうないだろうし、あっても物凄く先になるだろう。
公爵閣下に直訴に行くのも考えた。
でもおそらくは、執事長が自分の都合の良い事だけを説明しているだろう。
公爵閣下はああ見えて冷徹で非情なところがあり、不要と判断したら即座に処分を判断されるお方だ。
一縷の望みをかけてもいいが、到着するまでに確実に邪魔がはいる。
それなら、生き延びてチャンスを待った方がいい。
幸い、まだ騒ぎにはなっていなかったため、私は今貨物船の一つを盗んで、無事に惑星ギールフォートからの脱出には成功した。
しかしながら、当然追っ手がかかる。
私達姉妹は、個人でもかなりの腕だと自負している。
しかし公爵閣下の部下のなかには、私達姉妹個人よりも強いパイロットが何人もいる。
そしてその大半が、姉さんに不細工だとなじられた人達だった。
私から見れば不細工でもなんでもないのだが、面食いの姉さんからは不細工に見えたのだろう。
しかも、その人達とは仕事で一緒になることがほとんど無かったこともあり、私も姉さんと一緒に悪く言っていたことになってしまっていた。
私からすれば、土埃に匹敵する人達複数から追われている状態だ。
しかも武器は岩石破壊用のビームブラスターがあるだけ。
案の定、私は撃墜された。
直前に脱出できたうえ、幸い発見されなかったものの、パイロットスーツだけという状態では絶望的だった。
酸素は満タンのを持ってきたので、8時間は持つだろうが、それまでに救助されるかどうか。
その相手が執事長の手の者かどうか。
不安しかない状態で、無駄に酸素を使わないようにじっとしていた。
それからどれくらいたっただろう?
だんだん呼吸が荒くなってきた。
もっと上手く立ち回っていれば良かった。
今目が覚めたみたいに振る舞って、冷静に行動すれば良かった。
それも後の祭り。
ごめんね姉さん。かたきを討てなくて。
そんな感じで死を覚悟していた私には、近づいてくる船の姿に気がつくことはできなかった。
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カドコミWEBで、作画あーる。さんでコミカライズが始まる予定です。
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