モブNo.190∶『出過ぎです姉さま!』
海賊団を、警察を介して第7艦隊に引き渡した後、僕達は近くにあるであろう連中の隠れ家の捜索を開始した。
鬼神ことトーンチード准将は、『君たちの仕事を横取りはしないよ』と、言ってくれたので、僕らは安心して隠れ家の探索を開始した。
こういった、軍の目標と被ってしまった場合、相手によってはこちらが討伐したにもかかわらず、自分達の手柄にして、こちらの報酬をパーにしてくれた上に、情報も吸い上げていく奴が普通にいる。
例えば第2艦隊とかプロパガンダ部隊とか。
なので、このトーンチード准将の対応は本当にありがたい。
というか、これが普通の対応だろう。
そうして開始した隠れ家探しは、完全に座標が割れたわけではないので、それなりに難航すると考えていた。
しかしその隠れ家探しは、する必要がなくなってしまった。
その理由は、隠れ家になっていたのであろう巨大な小惑星が、突如爆発したからだ。
そしてその爆発から逃げるように姿を現したのは、揚陸艇1隻と、機種もカラーリングもバラバラな、護衛らしい戦闘艇10機だった。
『海賊団の仲間か? だとしたら証拠隠滅して逃げるつもりか? 取り敢えず勧告するぞ。構えとけ』
ダンさんは現状をそう判断すると、全員が臨戦態勢に入った。
しかしすぐに攻撃することはなく、ダンさんの勧告をしてからの、向こうの反応を待つ。
その時僕は、護衛機の中に見たことのあるカラーリングの機体が2機あったのを見逃さなかった。
以前のグラントロス社製のG-22『バステス』ではなく、ロスメイアコーポレート製のFues-732『スイミナー』に乗り換えていたが、カラーリングは、白地に赤と、白地に青のカラーリングで、船体には紫で書かれた犬の顔のエンブレムという、前回と同じものだったからだ。
『今の小惑星の爆発から逃げてきた連中に告げる! こちらは海賊団の隠れ家を捜索中の傭兵だ! お前らはなんであの爆発した小惑星から逃げてきたんだ?』
ダンさんがオープン回線でそう声をかける。
やましいことがなければ何かしらの返答が来るはずだが、一団の中の揚陸艇が、急に方向を変えて逃げ出したのでこれは間違いなくクロだろう。
護衛の何機かはその揚陸艇と一緒に逃げるかと思ったのだが、意外にも、揚陸艇を放置して全機でこちらに向かってきた。
『周囲にいる保安組織に対して緊急通信! 海賊団残党が隠れ家であった小惑星を爆破、11機のうち揚陸艇の1機は逃走、残りの10機は臨戦態勢に移行、今より迎撃する!』
『こちらは警察だ。すぐに非常線を用意する!』
『こちらは第7艦隊。こちらもすぐに非常線を張る! 存分にやってくれ』
『傭兵ギルドだ。こっちは回収船だから非常線は張れないが、終わったら呼んでくれ。回収と査定をするからな』
そういったやり取りの終了と同時に、『中濃海賊団』の残党との戦闘が開始された。
そして危惧したとおり、あの赤と青のカラーリングの機体は僕を狙ってきた。
前回同様。いや、前回よりも速く、キレのある動きをしている。
これは気を引き締めていかないと撃墜されかねないお。
☆ ☆ ☆
【サイド∶ルビナ・ラドゥーム】
やっとよ……。
やっと土埃を殺せる!
不細工のくせに私を2回も撃墜した土埃を!
卑怯な手段を使って私に勝った土埃を!
『姉さん落ち着いて! 冷静にならないと勝てないわよ!』
「当たり前でしょ! 私はいつも以上に冷静よ!」
私達はいつも通り、互いに上下左右を入れ換え続け、曲芸飛行のような軌道をしながら相手に接近し、断続的にビームを撃つ。
もちろんそれぐらいで落とせるとは思ってはいない。
実際に土埃はギリギリを見極め、最小限の動きで私と妹の攻撃をかわしていく。
以前から使用していた動きに、新しいパターンをいくつも加えてみたが、それでもあの土埃はギリギリをかわしていく。
あれは絶対になにか卑怯な方法を使用しているに違いない!
そうでなければ、あんな不細工なキモオタが私に2回も勝てるわけがない!
『姉さん気を付けて! 土埃の得意なスラスターを使っての方向転換は危険よ!』
「大丈夫よ! それに対処できるだけの距離はとってある!」
エリサは土埃の方向転換を警戒している。
私もやられているからよくわかっている。
それを封じるために新しいパターンを作った
見なさい! 卑怯な手段が使えないから、逃げる事しか出来ないでいるわ!
やっぱり私の方が、あんな不細工なんかより強いのが当たり前なのよ!
私を負かしていいのは、イケメンとイケオジとイケショタと男の娘だけっ!
土埃みたいな不細工なキモオタなんかが勝てるわけがないのよ!
あと少しであの土埃を殺せる。
そう確信した私の視界には、土埃しか入っていなかった。
私の撃ったビームが土埃の機体をかすめる。
あと少し。あと一発。それであの忌々しい卑怯な不細工な土埃が殺せる。
そして私が引金に指をかけた瞬間、
『出過ぎです姉さま!』
妹のエリサの声が聞こえ、コックピットが爆発した。
そして私の視界に飛び込んできたのは、私の位置から見ると逆さの状態で、船底を見せながら私の機体の下に移動していく土埃の船だった。
そうか。
あいつはまた卑怯なことをしたんだ!
私とエリサのコンビネーションを乱す卑怯極まりない手段を使ったんだ!
そうでないと私が、私達が負けるわけがない!
とにかく脱出して、エリサと一緒に逃げないと!
そう思って私は、脱出装置のレバーを掴んで起動させたが、動かない。
それによく見れば、お腹のあたりに穴が開いているように見える。
あれ? なんで?
お腹の穴を意識した瞬間、視界が薄暗くなっていった。
エリサはどうなったんだろう……?
生きてるなら早く逃げて。そう思った次の瞬間、視界が真っ白になった。
★ ★ ★
危なかった! 本当にやばかった!
あの赤青コンビの動きは素早い上に的確で、何度もビームが機体を掠めていた。
とにかく逃げ回るしかなく、反撃の隙さえ与えてはもらえなかった。
しかし赤いほうが何故かスピードを上げ、青との連携を一瞬だけ切ったのだ。
僕はその隙を逃さないよう、前方のスラスターを機体の下方向に全力噴射しながら、ビームを発射した。
そのビームは確実に赤のコックピットを撃ち抜き、赤の機体の下を通って、青のほうに向った。
青のほうは、赤がやられても動じず、冷静に反撃をしてきたが、赤が居なくなったことでやはり精彩を欠き、こちらは噴射口を壊すことが出来た。
が、脱出装置を手早く使われてしまった。
赤青を何とか対処出来てほっとしていると、
『こちら第7艦隊。海賊団の揚陸艇を捕縛した』
と、連絡が入り、他の護衛機も全て無力化されていた。
僕は緊張から解放され、大きく息を吐いた。
とりあえずイッツに戻れたら、風呂にでも行くかな……。
妹サイドは次話で……
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