モブNo.189∶『仕方ねえ! 各個撃破して生き残れ!』
こうして僕達6人は、中規模海賊団を捜索、捕縛するために行動を開始した。
そのためにまずやるべきことは聞き込みだ。
襲撃現場の周辺や、そこにつながる近隣のゲート、その近くの有人惑星やコロニー、サービスエリアなどを巡り、色々と手分けして情報を拾っていき、その情報をすり合わせて、連中の隠れ家を発見するためだ。
ゴンザレスにも情報をもらったが、間違いはないようだ。
そうして手分けして情報を集め始めたわけだけれど、僕やダンさん、バーナードのおっさんは問題は無かった。
しかし、モリーゼとディロパーズ嬢、そしてユーリィ君には問題が発生していた。
モリーゼとディロパーズ嬢の場合はお決まりのナンパだ。
二人とも褐色肌の美女・美少女だから、そりゃあナンパされるのは当然といえる。
しかし、女顔とはいえ明らかな男性とわかるユーリィ君に男が寄り付いていたことには物凄く驚いた。
相手は ユーリィ君を女性と間違えているわけではなく、男性とわかっててモーションをかけてきているらしい。
しかもその相手はけっこうなイケメンで、なんでそっちに? と思ってしまうほどだ。
しかも集合場所にまで付いて来てしまい、偶然にも彼を口説く現場を目撃してしまった。
「私は君のことを愛しているんだ!」
「悪いが俺にそんな趣味はない! それに俺は心に決めた女がいる!」
「それでも私はあきらめない!」
ユーリィ君。君が心に決めたその人も男性だよ。
と、言ってやりたいが、恨まれるのは嫌なので止めておこう。
まあ、他人様の恋愛はどうでもよいので、ナンパ連中をダンさんが蹴散らし、それぞれ集めた情報を報告してもらった。
すると、中規模海賊団、仮に『中濃海賊団』と呼称しよう。の、隠れ家がありそうなところの目星がついた。
当然今すぐ捕縛に行くわけではなく、近場の有人コロニーに停泊し、燃料と弾薬を補充し、一晩ゆっくり休んでからだ。
となると、こういう時の男の傭兵のお約束としては、酒盛りと娼館だ。
女性は好きな男と過ごす。とかだろうか?
とはいえ、酒盛りは明日の仕事に支障がない程度に抑え、そのあとは個人の自由だ。
僕は早めに切り上げて自分の船にもどりディロパーズ嬢とユーリィ君は飲み屋近くの予約したビジネスホテルに向かった。
ダンさん、モリーゼ、バーナードのおっさんはまだ飲んでたが、その後は知らない。
ホテルはディロパーズ嬢達と同じだから大丈夫だろうし、あとは自己責任だ。
ちなみに僕だけホテルでないのは、節約プラス全滅を防ぐためだったりする。
『中濃海賊団』としても、自分達の周辺を嗅ぎ回ってる連中がいるというのを察知するために、周辺の施設に連絡係くらい置いてあるかもしれない。
そんな探ってる連中を黙らせるために襲撃をしてくる可能性は十分にある。
そんな時に一箇所に固まっていると全滅する場合があるので、分散は割と普通のことではある。
ダンさん達も、ホテルはディロパーズ嬢と同じにしてあるが、実際は別のところに泊まるつもりなのかもしれない。
そして翌日。
集合場所の発着場の休憩スペースには、全員がきちんと揃っていた。
若干二日酔いがいたが、それも自己責任だ。
操縦に支障はないらしいので、さっそく出発することにした。
出発から2時間。
『中濃海賊団』のアジトと思われるポイントの近くにたどり着いた。
作戦としては、連中が仕事に出かけた隙に基地を襲撃、そうして一団が帰ってきたところを襲撃して捕縛。
もう一つは、連中が仕事に出た後ろからしかけ、全員捕縛した後に基地を襲撃という、どちらを先にするかという感じのものだ。
しかし、どちらにしようという選択肢は取ることは出来なくなった。
向こうから襲撃を仕掛けてきたのだ。
僕らの中に裏切り者はいないから、多分監視されていたんだろう。
今のところ、ユーリィ君をナンパしてきた彼が怪しいかな。
『仕方ねえ! 各個撃破して生き残れ!』
ダンさんの咄嗟の指示に、全員が反応し、『中濃海賊団』を捕縛すべく行動を開始した。
こうして戦闘が発生したわけだが、『中濃海賊団』連中の動きは実にチグハグだった。
洗練された動きをしている者もいれば、素人丸出しの完全な初心者もいた。
明らかな寄せ集め以外の何物でもなかった。
お陰で噴射口を狙って行動不能に出来た戦闘艇が、最低4機は作れたし、もう少しは増やせそうだ。
素人のパイロットは緊急脱出装置の使い方が分からないらしく、脱出出来ないようなので、捕獲した後に事情も聞く事ができそうだ。
しかし次の瞬間、『中濃海賊団』の洗練された連中が、素人パイロット達のコックピットを撃ち抜き、彼等の殺害を始めたのだ。
秘密を漏らさない為とはいえ、なかなかエグいことをする連中だ。
『俺とウーゾスが残りをやる! お前らは生き残りを守れ!』
ダンさんはそう咄嗟に指示すると、味方のコックピットを狙っていた奴を撃墜した。
それにより、さらに連中のエグさが強調された。
秘密を漏らさないために味方を殺すのだから、自分が動けなくなったら自決する。
これならまあわかる。
しかし、洗練された連中は、自分達は緊急脱出装置で脱出したのだ。
その行為に、ディロパーズ嬢がキレたらしく、
『卑怯者!』
と、脱出したパイロットを攻撃したが外してしまった。
それから、僕とダンさんで残りの戦闘艇を動けないようにしたが、洗練されている奴は脱出し、そうではないやつは脱出出来ないでいた。
これは、素人の戦闘艇には緊急脱出装置を乗せてないっぽいな。
多分これは使い捨てとしてさらったか脅したかだな。
余計に脱出できてないやつを守って事情を聞かないとね。
傭兵ギルドと警察に連絡をいれ、海賊団員と鹵獲した戦闘艇をまとめていたところ、
『サノラ宙域で戦闘をしていた傭兵達に告げる。
こちらは中央艦隊討伐部隊第7艦隊司令官。サラマス・トーンチードだ。現在そちらの中規模海賊団を捕獲するべく行動中だったのだが……一足遅かったようだ』
テロリストを探しているらしい第7艦隊があらわれた。
『帝国軍の『鬼神』のお出ましかい』
『テロリスト関連のことでしょうか?』
モリーゼとディロパーズ嬢が第7艦隊が出てきた理由を話していると、
『その、海賊団にはテロリストと関連している疑いがあるので、そのあたりを取調べたい。もちろん、警察と傭兵ギルドにも許可は取る』
向こうから理由を話してくれた。
『こちらとしては捕獲の報酬と、鹵獲した戦闘艇の買い取りをしてくれるなら構わないぜ。まあ、警察と傭兵ギルドの買い取り係が到着してからならな』
『ああ。それで問題ない』
こうして『中濃海賊団』は一旦警察に引き渡された後に、第7艦隊に引き取られることになった。
ちなみに逃げた洗練された海賊団の連中は、第7艦隊の精鋭が探しに出たらしい。
眼科の病院で、
「うえだひとみさん、診察室へどうぞ」
というアナウンスが流れたので思わず視線を向けると、上品なお婆ちゃんが診察室に入っていった。
同姓同名の人は意外といるもんだと納得してしまった……
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