モブNo.187∶『諸君! 今回のテロリスト退治は無事に成功した! 我々の勝利だ! ささやかだが勝利の宴を楽しんでくれ! 乾杯!』
まずやるべきは対空火器の排除だ。
右左どちらでも良いけど、とりあえず、今こっちを向いている右舷に集中かな?
ミサイル発射口のある所は対空火器がないのでそこに避難しながら確実に潰していくのが一番安全かもしれない。
そのあたりをアーサー君達に伝えてから、対空火器潰しを開始した。
そうして約十数分。
危うく当たりそうになったことが何回かあったけど、右舷側のハリネズミみたいな対空火器の数がだいぶ減ってきた。
『敵潜水艦の右舷側対空火器、約8割沈黙しました』
セイラ嬢の報告に、もうちょっと対空火器を潰した方がいいかなとは思ったけど、いつ潜航するかわからないから、このくらいで実行した方が良いと判断した。
「じゃあ今度は海面スレスレを飛びながら、相手の胴体にミサイルを叩き込む。全部叩き込んでいいからね」
すると4人は、
『『『『了解!』』』』
と、答えて、水飛沫すら上げながら敵潜水艦に肉薄していった。
時折ビームが飛んでくるが、対空火器を8割も削っているため、当たることはまずなかった。
そしてもう少しで有効射程内というところで、敵潜水艦のハッチが開き、20機ほどの無人機が出撃してきた。
どうやらこちらを油断させるために一度出撃を止めたらしい。
『敵潜水艦から無人機の放出を確認! 私が引き付けるのでこのまま直進を!』
セイラ嬢が状況説明をしながら離脱を宣言する。
だけど、セイラ嬢の船には『ストームスマート』が7発もある。
これを敵潜水艦に撃ち込まないのはもったいない。
「サイニッダさん。無人機は僕が始末するんで、貴女はアーサー君達とこのまま攻撃を。正直僕の搭載している『フライングフィッシュ』ではダメージは心許ない。そっちの『ストームスマート』の方が有効だ。それならこっちのミサイルは、無人機の排除に使ったほうがいい。というわけでよろしく」
『わっわかりましたわ!』
セイラ嬢の返答を聞く前から、僕は戦列を離れ、無人機の撃墜を開始した。
無人機の放出を止め、打ち止めだと思わせておくやり口から見て、敵潜水艦の責任者は、なかなか堅実で嫌らしい人のようだ。
僕のすることは、アーサー君達に近寄るのを優先して撃墜すること。
最悪僕にヘイトが向いて追いかけられ状態になっても問題ない。
要はアーサー君達が敵潜水艦の土手っ腹にミサイルを命中させてくれればいいわけだしね。
こうして僕は、無人機の撃墜に集中した。
流石にこれ以上の追加はないようで、無人機はどんどん減っていった。
その隙に、アーサー君達は敵潜水艦に接近し、見事、敵潜水艦の胴体に向けてミサイルを全弾発射し、すぐに離脱した。
そしてアーサー君達が敵潜水艦から離れて少しの間があってから、宇宙空間では聞くことの出来ない轟音が轟き、ものすごい水柱があがった。
そして水柱が収まると、敵潜水艦の胴体には巨大な穴が開いていた。
しかしそれでも敵潜水艦は沈まず、ゆっくりと離脱を開始していた。
するとそこに、
『総員退避せよ! 今より我が艦が攻撃を開始する!』
赤いビキニ姿のピシュマン中将閣下からの指示があった。
『目標は敵潜水艦。海面スレスレまで降下し、地表に当たらないように角度調整! 撃て!』
自身が乗り込んでいる旗艦単艦で敵潜水艦に接近し、主砲を発射した。
それにより敵潜水艦はさらなる爆発をし、二つに分かれてしまった。
その瞬間無人機はコントロールを失って墜落し、有人機は逃げ出していった。
そうして二つになった敵潜水艦は、直立してからゆっくりと海の底に沈んでいった。
そして敵潜水艦の姿が完全に消えると、通信からは味方の歓声が聞こえてきた。
『諸君! 今回のテロリスト退治は無事に成功した! 我々の勝利だ! ささやかだが勝利の宴を楽しんでくれ! 乾杯!』
「「「「「「乾杯!」」」」」」
キーレクト・エルンディバー親衛隊長殿のリモートでの音頭で乾杯が行われた。
テロリストである『反帝国主義者』によるコンビナート襲撃を防いだことに対して、地上基地で祝勝会が行われたからだ。
本来なら親衛隊長殿もこの場にいるべきなのだろうが、今回の報告に加え、呼び出されたらしい。
宮仕えは本当に大変そうだね。
でもまあ上司はなくとも宴会は盛り上がるもの。
祝勝会の会場では、敵潜水艦を撃沈した4人、『白騎士』アーサー・リンガード、セイラ・サイニッダ、レビン・グリセル、シオラ・ディロパーズの4人は、完全に英雄扱いになっていた。
時折彼等が僕の名前をだすが、『僕はサポートしただけ、実行したのは彼等だから』というと、『アンタもいい仕事をしたな』的な言葉をかけてくる奴と、『だろうな。お前みたいなのにできるわけがない』と、バカにしてくる奴に分かれた。
相手にするだけバカバカしいのでそのまま放っておいた。
ちなみに、敵潜水艦にトドメを刺したピシュマン中将がちゃんと軍服姿だったことに、嘆き悲しんだ連中が、かなりいたようだ。
祝勝会が始まって40分。
義理は果たしたなと思ったので、プラボトルのジュースを2本と、乾き物だけいただいて、自分の船に戻った。
☆ ☆ ☆
【サイド∶元・巨大潜水空母『モービィディック』乗組員】
潜水服がわりの宇宙服と、艦外作業用の水中スクーターを使って海中に脱出してから、どれくらい時間がかかっただろう。
見つかるわけにはいかないので、水面に上がって
方向を確認するわけにもいかない。
なので、飛び出す前に確認した方向に無心で進んでいた。
そうしてどれぐらい海中を進んだだろう。
不意に海底に角度がついた。
それも、水面に向かってだ。
俺は、バッテリーの尽きそうな水中スクーターが止まらない様に、潜水服代わりの宇宙服の残り少ないエアーが無くならないようにと祈りながら。
それから十数分後、俺はなんとか海岸にたどり着いた。
俺は潜水服がわりの宇宙服を脱ぐと、空気をたっぷりと吸い込んだ。
そして水中スクーターの収納から、バックパックを取り出すと周りを見渡した。
そこには大きな倉庫やコンテナが並ぶ、物置場といった感じだった。
とりあえずこの倉庫やコンテナを漁って見ようと思ったところ、物凄く嫌な声が聞こえてきた。
「なんだ。誰かと思ったら『帝国民』じゃないか」
そこには脱出用のゴムボートに乗った『モービィディック』の乗組員達の姿があった。
「ちっ! あいつも生き残ってたのかよ」
「死んでればよかったのに」
「別にどうでもいいじゃん」
最悪なことに、俺を『テーコクミン』と言って色々嫌がらせをしていた連中だった。
俺は無視してその場から立ち去ろうとした。
しかし次の瞬間、後頭部に鈍痛が走り、その場に倒れこんだ。
「こいつは返してもらうぜ。『帝国民』が持ってるものは、元々俺達『エルナオグス銀河共和国』のものなんだからな」
迂闊だった。
こいつらはいつも男3・女2で行動していた。
その男の1人の姿がないのに気が付かなかった。
そいつは俺のバックパックを取り上げると中身を確認しながら仲間と合流した。
あれには、汎用端末となけなしの現金と携帯食が入っている。
なんとか取り戻すべく身体を起こそうとするが、ずっと海中にいて体力を消耗していたためもあり、動けなかった。
連中は、俺を無視して倉庫らしいところに向かった。
すると急に歓声があがり、そのあと何故か爆音が響いてきた。
その正体はすぐに分かった。
かなり古いものの様だが、大気圏内で使用される哨戒用の航空機で、回転翼機とか螺旋翼機なんて言われている、いわゆるヘリコプターというやつだった。
もちろん乗っているのはあいつらだ。
そしてそのヘリコプターには、いわゆるガトリング砲が搭載していた。
俺はいやな予感がし、必死に這いずりながらコンテナの陰に隠れようとしたが、ろくに身体が動かなかった。
そして連中は、ガトリング砲をわざと俺に当てないようにぶっ放してきた。
おそらく連中は、ゲラゲラ笑いながらこっちを見ているのだろう。
そして、さらに俺を何かしらいたぶろうとしたのか、ヘリコプターの高度を上げた。
しかし次の瞬間、なぜかヘリコプターのエンジンから煙が噴き出し始めた。
そのことでコントロールが怪しくなったのか、ふらふらと移動し、そのまま墜落・爆発してしまった。
しばらくそのまま寝転がり、体力が回復するのをまってから、墜落地点にいってみると、ヘリコプターは破壊されて散らばり、乗っていた連中は全員死亡していた。
この爆発で人が来るかもしれない。
俺は近くにあった車輌を勝手に借り、その場から逃げることにした。
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最後のヘリコプターはおそらく、安心と信頼のカプコ◯社製ですw
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