モブNo.179∶「寝言は寝てから言え! このゲスが!」
前日の夜のホテルでは結局一部屋(僕の部屋)に集まり、それぞれ気になっているサークルの位置確認と明日の会場での周回ルート、購入する作品の選択、弾丸の補充、補給用水分とタオルの準備といった明日のための戦闘準備を整えた後、最近の推しや気になる作品の感想などを、気の済むまで語り合った。
翌朝の午前5時30分に、一般会場入り口に到着した時には、既に何人か並んでいた。
その列に並んだ僕達の後にも、人が並び、だんだんと熱気が高まってきた。
まずはサークル入場が始まり、それから1時間ほどしてから、一般入場が始まる。
その入場口で入場券がわりのパンフレットを買い、いつもの癖で持って来てしまった熱線銃『ムルビエラ』を預けてタグをもらう。
その後は昨晩決めた通りの周回ルートで進み、『創業のフリーランス』『薬剤師のつぶやき』などの新しい作品の同人誌から、『戦闘艇コンプリート』『ブレードアークオンライン』などの少し昔の作品まで、一般・18禁共々、ほぼ希望通りのものが手に入った。
その後は企業ブースを周ったり、コスプレを見物したりして、閉場までコミックマルシェ1日目を楽しんだ。
さらにありがたいことに、ゴンザレスに声をかけてくる直結厨系にわかオタクもいなかった。
もちろん今日いなかったからと言って、明日もいないとは考えられないので、警戒は必要だ。
ゴンザレスには、近くの駐車場に車を取りに行ってもらい、僕とクルス氏は会場近くの路上で待つ。
そこにはおんなじ様なことをしているやつらがいっぱいいた。
レストランに行く時間がおしいので、夕食はコンビニで購入し、部屋の中(僕の部屋)で食べながら、購入した同人誌(一般)を読みふけり、感想を情報遊覧に上げたりしていた。
翌朝も同じ時間に到着するようにホテルを出発。
今日は昨日より集まっている人数が妙に多かったが、混乱なく入場することができた。
2日目は昨日のルートではないところをゆっくりと周るつもりだ。
意外な好みの作品があったりするからね。
そうしてぶらぶらとしていると、昨日はいなかった直結厨系にわかオタクらしい二人組がゴンザレスに声をかけてきた。
「ねぇねぇ彼女。それってなんかのキャラのコスプレ?」
「クールキャラって感じ? いいじゃん!」
横にいる僕とクルス氏は、どうやら眼中にないようだ。
しかもゴンザレスはなんのコスプレもしてないのに、なにかのキャラか? などと聞いているから明らかなナンパ目的のにわかだね。
さてどうやって撃退しようかと考えていると、
「そういやさあ、コスプレイヤーって露出狂のビッチばっかりってマジなわけ?」
「だとしたら俺達に披露して欲しいな〜〜」
にわか共がとんでもないことをいい出した。
たしかに際どい衣装を着る人もいるから、いないとは言い切れないけど、目の前のゴンザレスがコスプレをしてないのはわかりそうなものだ。
「そういえば、君みたいなタイプって意外と着痩せするんだよね」
「それマジなん? 確認しなきゃ」
さらにそいつらは、アホな独自理論を展開して、ゴンザレスの胸部に手を伸ばしてきた。
そしてそのようなセクハラ発言と、胸を触ろうとしたセクハラ行為は、今のゴンザレスにとってはブチ切れる原因だったらしい。
「寝言は寝てから言え! このゲスが!」
という怒号とともに、右膝蹴りと左横蹴りが、にわかの急所に炸裂した。
にわか共は苦悶の表情を浮かべ、その場にうずくまった
その光景に、僕とクルス氏を含めた周りにいた男性達は震え上がった。
ゴンザレスのやつ、見た目はともかく同じ男なのに容赦ないお。
ちなみににわかの二人組は、色々余罪があったこともあり、警察に連行されていった。
その日はそれ以上はなにも起こらず、その日のイベントは終了した。
今日は前日よりは荷物が少ないので、3人で駐車場に向かうことにした。
が、イベント会場である『星立文化ホール』の敷地の外でとんでもない事が起きていた。
デモである。
シラベ・ロカス先生によると、『デモ活動とは、ある特定の意思・主張をもった人々が集まり、集団でその意思・主張を他に示す行為である。「デモ」とはデモンストレーションの略であり、示威運動、示威行為、あるいは単にデモとも呼ばれる。その活動内容によってデモ行進、デモ集会ともいう。しばしば暴動と混同されることがあるが、デモと暴動は異なる』とある。
掲げている『祖国をとりもどせ!』『帝国からの支配を断ち切れ!』『銀河民主国の独立を!』『徹底抗戦上等!』などのプラカードの内容から、反帝国主義者達のデモだと分かった。
見た感じ、3〜400人規模のデモ隊で 朝、みょうに人が多かったのは、彼等がコミックマルシェの参加者に紛れていたからだろう。
十数人単位で集まれば、なにかのサークルだと思われるだろうし、プラカードやチラシなんかは、カバーをかけておいたらコスプレ用品や販売・配布用の同人誌だと誤魔化せる
集まってすぐにデモを始めず、マルシェの閉会時間を狙ったのは、マルシェ会場帰りの人にアピールするためと、警官隊が来た時のための目眩ましにするためだろうし、実際に会場に入って時間潰しとかもやっていたんだろう。
彼等はなんとなく無許可でやってるような気もするからね。
彼等は、祖国を取り戻す為にと言っているが、生まれた時から帝国だった僕達の世代からすると、せっかく先々代の陛下が侵略戦争を仕掛けるのを止め、先代陛下が制度改革をし、今代の陛下がそれを受け継ぎ、平和を維持しようとしているの邪魔しているようにしか見えない。
僕達と同じくマルシェ会場からでてきた人達が彼等に捕まってしまって迷惑そうにしている。
僕達も彼等に関わりたくはないから、早々にその場を後にすることにした。
が、少し遅かったようだ。
いつの間にかプラカードをもった男と、チラシを持った女と、メガホンを持った男という、3人のデモ参加者に道を塞がれていた。
「君たちはこの惑星イッツ、もしくはその周辺の惑星の出身だね?」
「この星域は本来は銀河民主国の国土であり、この惑星イッツは首都だったの!」
「帝国を倒し! 真の我々の国を取り戻し! この星を首都に戻そうじゃないか!」
彼等はそう熱く語るが、僕もゴンザレスもクルス氏も、平和を乱してまでとは思わないので、
「「「すみません。急いでいるので失礼します」」」
といってその場をあとにしようとした。
その時、警察のサイレンが大きく鳴り響いた。
イベントではナンパ以外は平和でした。
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