モブNo.175:「なあロス。この戦いが終わったら、傭兵辞めてどこかの田舎でのんびり暮らそうかと思うんだが……」
動かなくなった敵軍に攻撃するべく接近してみると、脱出装置や降伏信号だけは動くらしく、大半の連中が逃げ出すなり降伏するなりしていた。
最初に突っ込んでいった多少素行の悪い連中でも、脱出した相手や降伏信号を上げた相手には手はださないという、戦場での最低限のルールぐらいは守っているようだった。
しかし中には脱出しなかったり降伏信号を上げない連中もいて、そういう連中には攻撃をするわけだが、完全な無抵抗なので、戦闘というよりは、処刑人の様な気分になってしまう。
なかにはわざわざ相手に声をかけて確認する奴までいたくらいだ。
そうして全ての敵が、大破なり脱出なり降伏なりしたころに、後退してくる傭兵がいないのを不思議に思った本隊が戻ってきた。
そして、敵艦隊の大半が降伏信号を上げている状態を見た、ラニアン少年の母親であり、第一夫人であるプルファナは、
『私達の勝利よ!』
と、声をあげてよろこび、
『さあ!敵陣営を根絶やしにしなさい!』
と、命令した。
『母上! それはゆるされませんよ! 白旗を宣言している相手に攻撃など何を考えているのですか?』
しかしその命令をラニアン少年がすぐに止めた。
第一夫人は息子の言葉に不思議そうな表情を浮かべた後、
『私達に逆らった愚か者に容赦など必要ありません! さっさと』バチッ!
一転して怒りの表情を浮かべながら、息子に説教を始めた瞬間、弾けるような音がして床に崩れ落ちた。
『プルファナ様、これ以上私達に迷惑をかけないで下さい』
『姉上!』
倒れた第一夫人の後ろに現れたのは、気絶銃を手にした、軍服姿の長女プリシラだった。
その表情には決意の色が強くでており、
『私の方の母上も説得してきたわ。さあ、全軍に指示を!』
プリシラは、第一夫人を部下に運搬させ、ラニアン少年の背中に手をそえる。
『はい! 降伏したものたちに告ぐ! 命を失いたくない、家族や恋人に会いたいなら、このまま惑星上に降下して救援を待って欲しい。だがもし、私と一緒に暴虐たる兄を討伐する意志があるならこのまま軍門に下って欲しい!』
ラニアン少年はキリッとした態度で全軍に指示をだす。
そしてそのタイミングで、敵軍の船が動けるようになった。
ロスヴァイゼさんが解除したんだろう。
それからわずか30分後には、ラニアン少年の話に乗ったのか、なにかの打算かはともかく、結果的に降伏した部隊の半数が味方につき、半数は惑星上へと降下していった。
ここの領地軍が徴兵制なのもあっていやいやという人もいたらしい。
その結果、船の数は半分ほどに減ったが、かなりの補充にはなったらしい。
敵の艦船が急に動かなくなったことは既に報告されているだろうから、これからランベルト君は大変そうだ。
☆ ☆ ☆
【サイド∶ランベルト・リアグラズ】
司令官が乗っていたっぽい戦艦は大破させた。
そのうちに本隊が戻ってきたのに合わせて、ロスが支配を解除した。
これからが多分大変だ。
相手の船には電子戦? を仕掛けられて支配された痕跡は必ず残る。
それから発信元を特定されて詰問を受けるだろう。
場合によっては、軍でロスの事を知っている親衛隊長がでてくるかもしれない。
そうなった時にどういう身の振り方をするかが問題だ。
「なあロス。この戦いが終わったら、傭兵辞めてどこかの田舎でのんびり暮らそうかと思うんだが……」
「なに? そのあからさまな死亡フラグ」
俺の突然の宣言に、ロスは怪訝な表情を向ける。
「だって、今回のことは絶対に広がるだろうし、敵艦隊の情報記録だって調べられるだろうから、俺達のことはバレるだろ。そうしたら、貴族からどんな嫌がらせが来るかわかんないし、ロスを渡せっていってくるかもしれないだろ?」
「なによ。引きこもって私を引き渡すつもり?」
「したくないからいってるんだ」
俺がロスに乗っていないところを狙われたら簡単にやられてしまう。
場合によっては、俺の家族も連れて逃げた方が良いかもしれない。
そうして俺を隔離さえしてくれれば、ロスには自由が約束される。
そんな決心をして宣言をしたのに、ロスの奴がその決心を無駄にすることをやってくれた。
「大丈夫よ。停止信号を送るときに私特製の時限発火式のコンピューターウイルスを同時に仕込んでおいたから、こっちの情報はメモリの片隅に残骸すら残さないし、リンクしていた媒体すら消し去るわ。これならなんで船が停止したかの原因はわからなくなるわ。流石に人間の記憶や紙媒体までは消せないけどね」
「え? マジ?!」
それが本当なら。
いや、間違いなくそのとおりなのだろう。
それなら、他の連中と一緒に驚いているだけでごまかせるかもしれない!
「凄いなロス! これで引退しなくてすむ!」
「だったらまず私に感謝しなさいよ」
「するする! 絶対するぜ!」
俺は思わず、ロスのアバターに抱きついてしまった。
「ちょっと! セクハラは止めなさいよ!」
そのせいで、ロスに殴られたが、そんなに嫌がってなかったように思えた。
て、そんなわけはないか。
★ ★ ★
アンドリュー・サホリー自称将軍の降伏した敵部隊を引き連れ、さしたる時間もかからずに、ラニアン陣営軍は惑星コルブの衛星の一つ、デウクイルを包囲した。
が、既にそこはもぬけの殻で、デウクイルからかなり離れたところに、レイオス陣営が大艦隊を率いて陣を敷いていた。
無人艦や無人機が大半だが、かなりの戦力だ。
これだけの戦力をどこに隠していたのかは不明だが、さっきのアンドリュー・サホリー自称将軍の艦隊に加えてこれだけの艦隊を用意できた手腕は大したものである。
ロスヴァイゼさんは身バレしないためにも、今度は電子頭脳支配は使わないだろう。
今度こそ、死なないように何とか生き残らないとね。
長く成りそうなので切りました
もう少しお付き合いください
ご意見・ご感想・誤字報告よろしくお願いいたします




