モブNo.174∶「逃げるな! 何とかして反撃しろ!」
敗走の軍を追撃するために、敵軍がこちらに向かってくる様子は、昔に資料映像でみた、惑星上の災害のひとつである『蝗害』のようだった。
味方の、とは言いたくないが、正規軍が惑星の極の辺りまで退却したなら、こちらも退却して問題はないだろう。
だがそれまでの時間、生き残れるかが問題だ。
ただ逃げ回るだけでは意味がない。
相手の足を止め、進軍を遅くしないといけない。
正直あの第一夫人と、こちらを強引に捨て駒にした正規軍の連中のせいでやる気はかなり削がれてる。
だからといって放棄すると、生き残ってもペナルティがある。
正直ペナルティより生き残るほうが優先なので、逃げてもいいのだけれど、あまりに速いと正規軍の連中がこちらを攻撃してくるかもしれない。
そんな絶望感漂う戦場の空気が一瞬にして変わった。
敵の全ての戦闘艦戦闘艇・無人艦・無人機の全てが、ピタリと動きを止めたのだ。
☆ ☆ ☆
【サイド∶ランベルト・リアグラズ】
敵の意外な攻撃で大きなダメージを受けたラニアン陣営は、当主であるラニアンの指示で撤退となった。
しかし、そのラニアンの母親のせいで、俺達傭兵は足止めをしないといけなくなった。
そんな状況でも、ロスの奴は平然としていた。
彼女はこの船そのものであり、今俺の目の前にいる金髪美人は、コミュニケーション用の遠隔操作型アンドロイドだったりする。
「余裕そうだな」
「余裕だもの。こんな連中に私が負けると思うの?」
「まあ、ロスからしたらおもちゃみたいなもんだからな……」
古代文明によって作られた偵察兼電子戦機である彼女の力なら、今の時代の戦艦や戦闘艇や無人機など、玩具以下の代物だ。
その時俺はハッと閃いた。
「なあ! だったらこの場をなんとかできないか? しかもこっそり!」
そう。あの大群を玩具と言い切れるロスにとって、無力化することくらい簡単なことじゃないかと。
しかしそれには大きな問題がある。
「できるけど……私を知ってる人は私の仕業だってわかって、うるさく言ってくるかもよ?」
そう、それが一番の問題だ。
ロス、ロスヴァイゼは古代兵器だから、それこそ万人が欲しがるだろう。
そのリスクを犯すとなれば色々考えないといけない。
「何人ぐらいしってるんだ?」
「4〜5人かな? 軍の親衛隊隊長のキーレクト・エルンディバーさんと、傭兵の『漆黒の悪魔』っていわれてるアルベルト・サークルートさんと、おんなじイッツ支部のウーゾスさんと、ゲルヒルデ姉様のパートナーかな。ゲルヒルデ姉様は自分からは話さないだろうから、それくらいかしらね」
「親衛隊長はヤバいなあ……あとは大丈夫そうだけど」
まともな傭兵なら、他人のことはあまり吹聴したりしないだろうが、軍人はやばい。
まあ、情報が流れたのは、ロスが俺を見限ろうとした証拠でもあるが、俺が不甲斐なかったのだから仕方がない。
「よし! 生き残るためだ! ロス、連中の足を止めてくれ!」
「じゃあやっちゃっていいのね?」
「ああ、たのむ」
「じゃあ脱出装置と降伏信号と生命維持以外は止めちゃうわね。はい、実行っと。は〜いいい子いい子♪」
ロスが軽く手を振ると、眼の前にいた大群がピタリと動きを止めた。
それはまるでなにかの魔法のようだった。
「はい。止めたわよ。それからどうするの?」
「やることは一つだ! 頭を叩く!」
俺は操縦桿を握りしめた。
★ ★ ★
敵軍の動きがいきなりピタリと止まったことに、味方全員が一瞬驚いた。
罠ということは十分にあり得るし、何より不気味極まりない。
逃げるチャンスではある。が、逃げた先に伏兵がいたら終わりだ。
『連中動かなくなったぞ! 今だ反撃しろ!』
しかしありがたいことに、これをチャンスと考え、動かない敵軍に突貫する連中がいた。
敵の足を少しでも遅くするのは当然の行為ではあるので間違いではないけれど、この状況では、僕は怖くていけない。
そこに果敢に飛び込んでいく彼等は本当に英雄だ。
『おい! こいつらピクリとも動かねえぞ!いい的だ!』
そして飛び込んでいった彼等からの報告を聞き、僕はある存在を思い出した。
たった一隻で、帝国軍の全艦隊を相手に瞬殺できる古代の偵察兼電子戦機であるWVSー09ロスヴァイゼさんのことを。
敵の全部隊を動けなくする事が出来るとは聞いていたけれど、実際に見せつけられると、これほどのものかと驚愕する。
そして今、敵軍はとんでもない恐怖にさらされている事だろう。
そのロスヴァイゼさんも、敵軍の中に飛び込んでいく。
動きを見る限りランベルトくんのようだが。
おそらく後で軍から色々と言われるだろう事を覚悟しての行動には頭が下がる。
ものすごく卑怯な気もするけれど、戦場では罠に引っかかるほうが悪いからね。
まあ、罠っていうよりはゲームのチーターに近い気はするけど。
ともかくこれで生き残るチャンスはできた。
ロスヴァイゼさんがどれぐらいの時間止めておけるかはわからないけれど、出来るだけ叩いてから脱出するお!
☆ ☆ ☆
【サイド∶アンドリュー・サホリー】
儂は今信じられないものを見ていた。
先程まで一糸乱れぬ動きで敗走する敵軍を追いかけ、立ちはだかる殿どもを飲み込もうとする寸前であった。
だが。それが一斉に動きを止めた。
今までと同じく一糸乱れぬ動きで。
おそらく全員が、自分達に何が起こったのか理解していなかった。
それを打ち破ったのは、
「報告! 現在味方の全艦隊、全戦闘艇及び無人機の命令系統の全てが乗っ取られています! エンジンはもちろん、砲や機銃、ミサイルの発射もだめです! 唯一動くのは手動の脱出装置及び脱出艇射出と降伏信号だけです! こんなの妨害なんて生易しいもんじゃない! 支配だ!」
という、悲鳴のような報告だった。
これはラニアン陣営の秘密兵器にほかならない。
こんな物があるなど儂は聞いてない!
「敵部隊接近! 攻撃してきます!」
このままでは全滅は間違いない。
勝手に降伏信号をあげている連中もいる。
冗談ではない! この儂が負けるなど許されぬ!
だが待て。この敵の新兵器を手に入れる事ができればどうだ?
今は脱出手段や降伏信号をあげられるようだが、それすら出来なくすれば敵を逃がすことなく殲滅することができる!
どれが新兵器かはわからないが、なんとしても拿捕しなくてはいかん!
「逃げるな! 何とかして反撃しろ!」
そう指示した瞬間、眼の前が真っ白になった。
★ ★ ★
コロナは何とか回復。肉離れは継続。
書きかけを何とか完成。
ペースは落ちそうです
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