モブNo.173∶「全軍に通達せよ! 追撃だ!」
『作戦通り集中砲火を! 何としても突破してください!』
サホリー自称将軍の姿が消えると、ラニアン少年は細身の腕を振り上げ、勇敢に指揮を始めた。
その姿に打ち震えた人も多くいたみたいで、全体の士気は上がったようだった。
しかしながら現実はそう上手くはいかない。
あの自称将軍はなかなか戦巧者らしく、集中砲火が来るだろうと思われるところには、無人艦だけを並べた上にわざと薄くして砲撃させ、その穴に飛び込んできた敵を包囲して殲滅するという、こちらの集中砲火を逆手にとる手段を使ってきた。
そのためこちらは集中砲火作戦は止め、全体で押す方法に変えた。
まあ、膠着に近い時間稼ぎだけどね。
もちろん向こうもそれは予測済みだろうから、何らかの手を打ってくるだろう。
☆ ☆ ☆
【サイド∶アンドリュー・サホリー】
やはり膠着状態に持ち込んだか、まあそうするしかあるまい。
あのまま同じ集中砲火戦法を仕掛けるほど馬鹿ではないようだ。
とはいえ、そうなるとこちらも手をこまねく事はまちがいない。
しかし、そのために編成した部隊がある。
「特別迎撃部隊の準備をしろ。この戦を我々の勝利で終わらせるためにな!」
「かしこまりました……」
儂は横にいた副官に、特別迎撃部隊の準備をさせた。
副官は不満気な表情をしていたが、連中が役に立つのは間違いがない。
そして命令から1分しないうちに、
「特別迎撃部隊。準備出来ました」
副官から攻撃準備が整ったとの報告がはいった。
その直後、特別迎撃部隊の隊員から通信が飛んできた。
『将軍さんよぉ』
『なんだ?』
画面に現れたのはニヤついた目をした痩せた男で、特別迎撃部隊のリーダー格の男だった。
『これで戦果を上げれば無罪放免、報酬もたんまりってのは本当なんだろうなあ?』
「次期伯爵家当主のレイオスが保証するといっていたからな」
そう。この連中はパランストイ領で罪を犯してつかまった犯罪者だ。
それも凶悪な死刑囚や無期懲役犯ばかりだ。
それが自由になり褒美までもらえるならと、連中はレイオスの提案に飛びついた。
『嘘じゃねえな?』
「次期当主はそう言っていたから間違いはない」
『だったらひと暴れしてきてやるぜ』
『特別迎撃部隊、出撃します』
『イヤッホー! 殺リまくりだぜ!』
『殺せば殺すだけ報酬がもらえるのはたまらないぜ!』
連中は楽しそうな奇声をあげながら戦場に身を躍らせていく。
全く、馬鹿どもは実に扱いやすい……。
★ ★ ★
一進一退と言えば聞こえはいいけど、ようは泥沼の戦闘状態が続いている状況で、敵艦の空母らしい1隻から、数十機の戦闘艇がものすごいスピードでこちらに迫ってきた。
連中の正面にいて、反応出来た連中が弾幕を張ったために、何機かは落とせたようだけど、残りはそのままこちらに突っ込んできた。
そしてバラバラに散開し、好き勝手に攻撃を始めた。
最初は何かの作戦かなと思ったのだけれど、その動きには統一された意思はなく、完全に個人的に暴れている感じだった。
だったらと、近くにいた部隊が迎撃に向かったところ、なぜか敵の船がいきなり大爆発を起こした。
それを皮切りに、突っ込んできた戦闘艇達は連続して大爆発を起こし、正規軍の艦船、正規軍の戦闘艇、傭兵の戦闘艇の区別なく大きな被害をだした。
さらにそのタイミングで敵軍がこちらに攻撃を仕掛けてきた。
『退却! 退却してください!』
ラニアン少年は悲痛な表情で命令をくだす。
未成年で初陣であろう彼には、この事実はなかなかに強烈だろう。
慌てて指示をしなかったり、無意味な突撃を命令するよりはましかな。
有能な指揮官としての片鱗はあるようだ。
とはいえ、ここからの撤退は非常に大変だ。
☆ ☆ ☆
【サイド∶アンドリュー・サホリー】
ふははははははははは!
死刑囚を使っての特別迎撃部隊は成功だ!
無罪放免で報酬まで約束したのは儂ではなく、次期当主予定のレイオスの奴だ。
生き残るかどうかまでは、儂の知ったことではない。
たとえ、死刑が決定されている犯罪者共を有効利用するために、連中の乗る機体に遠隔式の爆弾を仕掛けてあったとしてもな。
ともかくこれで敵陣営に大ダメージを与えた。
このチャンスに一気に畳み込む!
中央艦隊でこの作戦を提唱したとき、当時の上官は一考もせずに却下した。
しかし見ろ!
わずか数十の死刑囚を使用するだけで、数万の敵、十数の敵艦船を撃破出来たではないか!
なにも兵士を使用するわけではない。
死刑が確定している犯罪者を使用しているのだから、これだけコストパフォーマンスのよい作戦はない。
この作戦を採用しなかった上官は、あらためて無能であったのだと再認識した。
「全軍に通達せよ! 追撃だ!」
儂は会心の笑みを浮かべ、全軍に命令を下した。
近くにいた副官がおかしな表情をしていたが、作戦が成功したのだ、文句はないだろう。
★ ★ ★
撤退戦というものは非常に厄介だ。
戦闘行為をやめてその場から移動するため隙だらけになり、敵からすれば絶好の攻撃チャンスになる。
その時に必要になるのが、敵の進軍を足止めする役目、いわゆる殿だ。
これは、よほど実力がある人物が自ら引き受けるか、捨てても惜しくない連中を捨て駒にするかの2択になることがほとんどだ。
すると急に、ラニアン陣営の本陣から通信が飛んできた。
『正規軍はラニアンを連れて早く退却を! 傭兵共はラニアンを守る壁となってその場にとどまりなさい!』
『母様! 口を挟まないでください! 全軍の指揮を執っているのは私です!』
『それしか手段はないでしょう!』
『でもそれなら、全軍で下がればいいではないですか!』
『貴方にそんな指揮ができるの?』
『くっ……』
そして僕らの雇い主であるラニアン少年の保護者である第一夫人プルファナによって、傭兵部隊は捨て駒にされることになった。
ラニアン少年も根本的にはそれを理解してはいるが、犠牲を出してまでという覚悟はまだもっていなかったらしい。
退却命令も、全軍で逃げ出そうという感覚だったのだろう。
ラニアン少年が素直に成長すれば、良い軍人になるのかもしれない。
そんなラニアン少年が悩んでいるあいだに、彼を乗せた旗艦の艦長の判断は素早く、既に撤退の準備を終えていた。
傭兵の中には冗談ではないと逃げ出すのもいたが、正規軍からの威嚇攻撃で逃げ出せなくなっていた。
僕達だけを捨て駒にした第一夫人はムカつくけど、ラニアン少年にはそれなりに好感はある。
まあ、死なないように何とかしてみるお。




