モブNo.172∶「ハッハッハッ! あの小僧、嬉しいことを言ってくれおるではないか!」
名指しをされたうえに楽に倒したから目立つかなと思ったのだけれど、何処かの誰かの、
『おいおい、遊んだらかわいそうだろう。あの素人も運がねぇなあ』
という一言で、まともな傭兵なら誰でも楽に倒せるやつという扱いになってしまっていた。
操縦技術はそこまで悪くは無かったと思うけどね。
ともかくそのままの勢いで、ラニアン陣営は極方向の左右に分かれて進軍をすすめた。
最初の襲撃部隊を退けた後には追撃がなく、両極の部分は簡単に通過することができた。
そのことに、ラニアン陣営の正規兵の司令官や首脳陣(夫人2人)は喜ぶが、それ以外の人はかなり怪しんでいた。
すると案の定、相手陣営はかなり厚い防御陣形を敷いていた。
☆ ☆ ☆
【サイド∶レイオス・パランストイ】
バン! という音と共に、私が執務に使用している港長室のドアが乱暴に開かれた。
現れたのは、ストリートギャング、つまりは街の不良グループのリーダーの男だった。
名前はなんだったか……?
そうだ、ジンガー・エルアールだ。
頭や身体に包帯を巻いており、ずいぶんと痛々しい姿だった。
「無事でしたか。部隊が壊滅したという報告はきていましたよ」
所詮は不良グループであるため、期待はしていませんでしたがね。
するとジンガーは、
「船と部下を寄越せ! 大量にだ!」
と、デスクを叩いて自分の要求を言ってきた。
「見たところ怪我をしているようですから、しばらくは治療に専念したほうがよいのでは?」
「うるせぇ!俺の仲間がみんなやられちまったんだ! その敵と俺を撃ち落としたうす汚い色の船の奴は絶対に許さねぇ! わかったらさっさと船と部下を寄越せ!」
ジンガーは怒りを顕にして要求を続けた。
この男の頭の中には、自分の仲間の敵を取ることしか頭にないようだ。
「わかったわかった。手配をしておくからまずは医務室に行きたまえ」
「よし! 1時間で用意しろよ! これで仲間の敵を取れるぜ!」
ジンガーは歓喜の表情を浮かべながら後ろを向き、ドアノブを掴んだ。
私はその瞬間を狙い、ジンガーの頭を光線銃で撃ち抜いた。
ジンガーは即死し、その場にドサリと倒れた。
「お前達のような連中の敵をとるために、貴重な船も兵士も消耗させる意味はない」
所詮は街の不良。
市民に迷惑しか掛けない連中の敵など取る必要はない。
そこにノックの音が響いたので、
「入れ」
「失礼いたしま……うわっ!」
入室許可を出したところ、兵士はジンガーの死体に驚いた。まあ当然か。
しかし私は冷静に兵士に用件を尋ねる。
「どうかしたのか?」
「いえ。この男が船と兵を寄越せと言ってきたので『許可が無いと駄目だ』といったら怪我人だというのにものすごい速さで移動したので……」
どうにも人間の執念とは凄まじいものがあるな。
それだけこの男にとっては、仲間の敵討ちは大事なものだったようだ。
「始末をしておいてくれ」
しかし今となっては何の意味もないし、この男の敵討ちは迷惑でしかない。
入って来た兵士が担架をもった兵士を呼び、死体を運び出しているときに、備え付けの立体映像電話が鳴った。
「どうした?」
『敵軍が接近してきました。損害はほとんどないようです』
「本当に時間稼ぎにしかなりませんでしたか。所詮は街のチンピラですね」
初めから期待はしていなかったが、改めて彼等の役に立たなさぶりにため息をつく。
「サホリー将軍に連絡を、指揮は一任します。好きにやってくれと伝えて下さい」
『了解しました』
アンドリュー・サホリーは、いわば不良軍人だ。
不良とついても、街のチンピラと同じではないから、十二分に期待しておこうか。
☆ ☆ ☆
【サイド∶アンドリュー・サホリー】
レイオス陣営は、現在鉄壁ともいえる陣容を敷き、敵の到着を待っている。
街のチンピラ共は勝手に出撃していったが、そのほとんどが旧型機に乗っていたのは何の冗談だと思っていたが、時間稼ぎには役に立ったらしい。
そんなときに、通信から報告が入った。
「閣下」
「なんだ?」
「レイオス様から『一任する。好きにやってくれ』とのことです」
「ハッハッハッ! あの小僧、嬉しいことを言ってくれおるではないか!」
実に愉快なことだ。
あの小僧は儂の価値を理解し、儂に全権を預けてきた。
儂のような有能な軍人には、自由な作戦遂行の権利を与えるべきだとな!
いままで私を目の敵にしてきた馬鹿どもとは格がちがう!
「例の部隊の準備は?」
「完了してはおりますが……本気で実行するのですか?」
「当然だ。あれは実に有効な作戦だからな」
このときの儂の脳裏には、勝利した時の光景しか浮かんでいなかった。
★ ★ ★
全軍が敵の陣営に近づいたとき、敵陣営は固くて厚い陣形を敷いていた。
さてどうするものかと考えながら待機していると、
『全軍に通達! 戦闘艦は空母と補給艦以外は前線へ。艦砲の集中一斉射撃で敵陣形に穴を開けます!』
ラニアン本人からの指示が下った。
その指示に従い、戦闘艦がゆっくりと前に出ていく。
その時、敵軍から一斉通信が入った。
『やれやれ。お飾りが一端の司令官気取りとはな』
画面に現れたのは、厳つい顔の中年男性だった。
『アンドリュー・サホリー大佐ですね』
ラニアンがそういうと、サホリーは鬼の形相に変わり、
『儂は将軍だ! 以前にもそう自己紹介したはずだ!』
と、怒鳴りつけてきた。
『し……しかし手元のメモには大佐と……』
『それならその情報が間違っている!』
一体何の茶番なんだと呆れていると、
『とにかくだ。今のうちに降伏しろ。お飾り程度ではあの小僧には勝てないし、この儂に戦闘で勝てるはずもないのだからな!』
と、サホリー大佐がラニアン少年に降伏勧告を突きつけた。
『たしかにそうかもしれません。だからといって降伏するわけにはいきません!』
ラニアン少年は負けじと反論するが、手足が震えていた。
『では死ぬ覚悟をするのだな。ハッハッハッハッ!』
サホリー大佐は笑いながら姿を消した。
こうして拠点攻撃の戦闘が開始されることとなった。




