モブNo.170∶「じゃあまあ。大怪我をしないように帰ってこいよ」
変換しました
不良青年達のチーム→ストリートギャング
第12艦隊の勧誘を断ったその足で、ゴンザレスのところにトンボ返りして第12艦隊司令官の外見の情報を尋ねてみたところ、ゴンザレスでも手に入らなかった。
ゴンザレス曰く、『情報そのものをファイルに入れなければ、閲覧自体不可能。恐らく意図的にいれていないんだろう。本人の意思か他者の思惑かは分からないけどな』だ、そうだ。
その日はおとなしく家に帰ってネットをさまよいつつ、最近のアニメのレビューなんかを見ながら夜を過ごした。
翌日は朝から傭兵ギルドに行き、光子魚雷を搭載してから、ローンズのおっちゃんのところに仕事を探しに行った。
するとおっちゃんは少し難しい顔をし、
「お前好みかどうかはともかく、でかい依頼がある」
と、依頼の内容を見せてくれた。
それは、パランストイ伯爵家の跡取り問題に端を発する戦争の、両陣営それぞれからの援軍要請だった。
「このご時世で内輪の戦争って、どういうつもりなんだろう?」
「このご時世ならではだろうな」
詳細を見てみると、ズーレイン・パランストイ伯爵とその長男ルイツがネキレルマとの戦争で命を落してしまったため、順当にいけば次男のレイオスが跡を継ぐことになったそうだ。
この事実に第一、第二夫人が異議を申し立てたため、今回の戦争が勃発したらしい。
次男のレイオスは理知的で領地経営の手腕も十分だが、過去に三男のヤルサル、四男のティットを殺害したという噂があるが、証拠が無い。
長女のプリシラは相続権を放棄。
五男のラニアンはまだ少年(13歳)だが、周囲からの評判もいい。
長男ルイツと五男ラニアンは伯爵令嬢であった第一夫人プルファナの子供。
三男のヤルサル、四男のティット、長女のプリシラの母は、子爵令嬢で第二夫人のポーラ。
そして次男のレイオスの母である第三夫人のミルリアだけが平民であり、妻というよりは使用人のように扱われていたそうで、レイオスも第二子として登録はしているが、母親と同じように使用人同様の扱われ方をされていたらしい。
しかし、教育だけはしっかりとあたえられたために、優秀な人材にはなった。
そのため、次男のレイオスは第一夫人からは嫌われている。
レイオスの母は既に死去。
という情報が手に入った。
これだけでも判断するには十分だとは思うが、念の為に情報屋にも聞いてみることにした。
ちなみに今回の手土産は、『ウィッチ・ベーカリー』の揚げパン(シュガー&ココア)と、自家製ソーセージのホットドッグ。それからプラボトルのコーヒーを持ってきた。
ゴンザレスからの情報によると、レイオスの周りには、汚職官僚、元不良軍人、不良青年達のチーム、犯罪者などが集まっていて、レイオスが当主になったあかつきには相応の地位と金銭、恩赦を約束されているらしい。
他にも、まともな官僚をことごとくクビにし、場合によっては一家全員を皆殺しにしたという。
おまけに大多数の市民の家族を人質にして、軍需物資の生産を強要しているという。
常に冷静で冷酷、非情な判断も淡々とこなすらしい。
さらには、幼少期の体験から貴族が嫌いで、復讐の為に行動しているといわれており、反帝国主義者達の派閥の何処かと繋がっているといわれている。
五男のラニアンは、人当たりもよく真面目だが、まだ少年(13歳)であるため、領地運営はからっきしだという。
長女で姉のプリシラはラニアンの補佐を自ら名乗り出たそうだ。
自前の戦力的にはレイオス陣営の方が大きいが、傭兵の集まりや士気の高さを考えるとラニアン陣営に軍配があがる。
以上のことから考えると、どう考えてもラニアン側に付く方が得策だろう。
パランストイ伯爵領である惑星コルブには、デウクイルとヤルエという2つの衛星がある。
この衛星は対称の位置にあり常に一定の距離を保っている。
この2つの衛星のヤルエにラニアン陣営、デウクイルにはレイオス陣営がそれぞれ陣をしいているらしい。
「それでどうするんだ?」
ゴンザレスが、手土産の揚げパン(シュガー)を食べながら尋ねてきた。
「受けるよ。軍の勧誘も怖いし、ラニアンの方に付くかな」
正直こっちのほうが依頼を受ける人数が多いだろうし、目立ちもしないだろう。
「いっそのことこの戦争で死んだことにして、別の身体にしてみたらどうだw」
ゴンザレスは笑いながらそんな冗談を言ってきた。
「いやだよ。大怪我でもしたならともかく……」
たしかに一瞬考えたことはある。
が、なんとなく気乗りしないのでやるつもりはない。
「じゃあまあ。大怪我をしないように帰ってこいよ」
「ああ。十分気を付けるよ」
そういって、プラボトルのコーヒーをペコンとぶつけた。
パランストイ伯爵領である惑星コルブの衛星の一つであるヤルエの周辺には、前評判というか前情報のせいで、ラニアン陣営の膨大な数の傭兵達の船がひしめき合っていた。
上手く乗せられているような気がしなくもないが、評判の良くない相手を叩きのめすのは気分がいいのは間違いない。
短期決戦を想定しているのか、補給部隊の姿はなく、補給が必要な場合は、衛星ヤルエにある基地まで戻る必要がある。
そうして集められた僕達の前に現れたのは第二夫人のポーラだった。
『皆よく集まりました。私達はこれより、身の程を弁えず、私達の役に立つように育てやった恩を仇で返し、あまつさえ弟とはいえ貴族を手に掛けるなど言語道断! そなたらは私達の尖兵となって、どのような犠牲を払ってでも、あの平民の首を私の元にもってきなさいっ!』
貴族の妻とは思えない、狂気に満ちた様子で、僕達傭兵に声をかけた。
子供を2人も殺された怨みはわからなくもないけど、一応盟主であるラニアンには何も言わせないと言うのはどうなんだろう。
とはいえ開戦まではあと、12時間あるらしい。
この戦闘開始時間がきっちりと守られるのは、貴族同士の戦闘には決闘的な意味があるからに違いない。
第4巻、今月25日に発売予定です。
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