モブNo.168∶「私は中央艦隊討伐部隊第12艦隊所属のハルエ・ルドマンと申します。貴方をスカウトにきました!」
少佐殿に出くわし、炭酸飲料で濡れるハメになった日の翌日。
光子魚雷の補充をするべく、繁華街にある機械製品全般の総合量販店である『グレムストア』にやってきた。
宇宙船部品・車部品・家電・パソコン・ドロイド・武器・兵器・業務用機械製品などを販売している大手の一つで、大抵のものは揃っている。
でかい10階建ての自社ビルの壁面には、複葉機に乗った耳のでかい犬みたいなマスコットのCGが動き回っている
ここでなにも良いものがなければ、おやっさんのところに入って来るまでは、依頼は受けないようにしようと考えている。
その『グレムストア』の10階にある兵器売り場にいって、光子魚雷を探してみたところ、僕が今使っているSDNー02という魚雷の製造メーカーである『フィッシュサンダー工房』が、新しくIAGー66という魚雷を発表して販売を開始したため、SDNー02が型落ち品になってしまっていた。
そのため、この『グレムストア』では、SDNー02の新品未使用の品を、メーカー小売希望価格160万クレジットのところ、なんと半額の80万クレジットで販売していたのだ!
おやっさんのところのような個人の店だと、頑張っても120万クレジットまでの値引きが限界らしいから、流石大手量販店は出来ることが違う。
今回SDNー02が型落ちしたということは、じきに生産も止まるだろうから、今回多めにストックしたあとはIAGー66に切り替えないといけないだろう。
一応それなりの額は持ってきたから、買えるだけ買っておこう。
ちなみにもっと大型のものにはNATーM4やBSMーFなどがあるが、僕の船では搭載出来ないから選択肢にすら入らなかったりする。
僕は傭兵ギルドの施設管理部に電話を入れ、レンタル保管庫、別名『コインロッカー』が空いているかどうか確認したところ、空きがあるというので確保してもらったあと、SDNー02を6本購入し、傭兵ギルドイッツ支部の施設管理部に送ってもらうことにした。
そのあとは、情報をもらうべくパットソン調剤薬局に向かうことにした。
パットソン調剤薬局がある闇市商店街は相変わらずの賑わいで、本当に異世界転生をしたような気分になる。
そしてあの肉屋さんでは、『勝利する厚き死肉』と『勝利せし薄き死肉』が売られていた。
『勝利する厚き死肉』は1個で200クレジット。
『勝利せし薄き死肉』は5個セットで200クレジットだった。
かなりの人気らしく、15分ほど行列にならんで、『勝利する厚き死肉』を2個と『勝利せし薄き死肉』を2セット買ってからゴンザレスの所に向かった。
ゴンザレスの家兼仕事場であるこの調剤薬局は、実はゴンザレスの祖父のもので、ゴンザレスが薬剤師免許を取った時に譲ってもらったらしい。
「よう」
「おう。しばらくだったな」
実に一ヶ月ぶりの再会。
普通の仕事をしているなら大したことではないけれど、傭兵稼業は常に危険がつきまとうため、長期に感じてしまうし、不安も大きくなる。
「これ土産ね」
「お、あそこの肉屋のハムカツじゃん。薄いほうもらっていいか?」
「おう」
が、そんなことをお互いに気にすることなく、ハムカツを口に運んだ。
機械の身体で食事の必要が無いとはいえ、きちんと食品を完全消化してエネルギーに転換する機能があるのは、全身儀体になった人が人間らしさを失わないためだが、だとしても生身の時より食べる量が増えた気がする。
そんなことを考えていると突然、
「なんかあったのか?」
と、声をかけられた。
さすがに、本人の食う量の事を言うわけには行かないので、ここに来た本来の目的を話すことにした。
「実は少佐殿にからまれてさあ……」
「ああ…」
同じ学校の同級生だから、当然少佐殿のことは知っており、僕が絡まれてる話はしているので、即時に理解してくれた。
「皇配レースに敗れてから、部隊の成績も良くないらしいからな」
そういえばそんなこといってたね。
しかしそこで疑問が生まれた。
「でもよく考えたら、あの人首都の防衛隊だよな。最近戦果がよくないみたいな話だけど、首都近辺でそんなに頻繁に戦闘があるもんなの?」
そう。少佐殿は惑星防衛艦隊・帝都惑星ハイン防衛部隊所属・第18航宙部隊隊長であるからには、惑星ハインの周囲が活動範囲のはずだ。
「ないだろうな。あるとすれば海賊退治ぐらいだけど、首都近辺にはまずいない。多分前線に派遣されてるんだろう。隊員は男女共にみんな見た目がいいから戦意高揚にも一役買ってくれる。戦果はマスコミが盛ってくれるけど、本人はそれが気に入らないんだろうね。本物のお飾りにはなりたくないって感じだ」
「プロパガンダ部隊にも苦労があるんだな……」
だからといって部下になんかは絶対にならないけどね。
この雑談だけでも、情報としては十分だが、もう少し突っ込んだ情報をもらうことにした。
◯彼が、皇配候補に名前が上がった時に、選ばれるのは自分かも知れないと吹聴していた。
◯祝福するものもいたが、当然気に入らない者もいた。
◯彼の部隊も戦争で前線にでていたが、戦果は振るわなかった。
◯さらには皇配に選ばれなかったことで嘲笑されることが頻繁になっている。
情報が手に入った。
それで僕を手に入れて底上げをしようとしたわけか。
まあなんとなくはわかってたけどね。
学生時代はもう少し爽やかな人だったような気がするけど、色々あったんだろうね。
そうしてゴンザレスのところを後にしてからは、『アニメンバー』に向かうべくのんびりと街中を歩いていた。
すると目の前に、軍の制服を着た、右が黒、左が赤の瞳に、紫色の長いくせっ毛をした背の低い、多分145cmぐらいの女の人が立ちはだかり、
「傭兵ギルド惑星イッツ支部に所属しているジョン・ウーゾスとは君のことだな?」
と、声をかけてきた。
「違いま「外見はチェックしてあるからいいのがれはできないと思っていただきたい」」
咄嗟に違いますと言おうとしたが、先に潰されてしまった。
「私は中央艦隊討伐部隊第12艦隊所属のハルエ・ルドマンと申します。貴方をスカウトにきました!」
そして、一番言って欲しくない台詞を口にしてきた。
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