モブNo.167∶「そいつらはお前くらい腕は立つのか?」
僕達4人は、いきなり現れた海賊をなんとか撃退し、逃げおおせる事ができた。
まさかあんなところに闇ゲートの出口があるとは思わなかった。
口封じのために出てきたであろう、敵の戦闘艇部隊のうちの3機が、なぜか僕を狙ってきた。
そしてその口封じ部隊の中で一番最初に突っ込んで来たやつは、アーサー君が相手をしてあっさりと撃墜された。
しかし残りの2機は手練れで、相手をしたディロパーズ嬢とセイラ嬢は被弾させられていた。
その2機をあっさり落とすんだから、流石はアーサー君だね。
なので、イッツに帰った時には、闇ゲートを見つけたのは彼ってことにしてもらった。
もちろんセイラ嬢とは口裏を合わせてある。
そのおかげで彼はまた人気が上がってしまうだろう。
それより、僕の最重要課題は陽子魚雷の補充だ。
普段は定価よりは多少安く売ってくれるドルグ整備工場で購入しているのだけれど、先程電話を入れて聞いてみたところ、たまたま在庫を切らしているそうだ。
僕はギルドの建物をでながら、このまま量販店に向かうか、おやっさんのところに入荷するまで待つか、キュリースさんのところで未使用品か新古品を探そうかと考えながら歩き、いつの間にか、カウンターだけの小さな飲み屋や、小ぢんまりした喫茶店や、古くて狭い食堂なんかが並んでいる、繁華街の路地にはいりこんでいた。
どうせなら食堂でも入ろうかと考えていると、
「おい」
と、不躾に声をかけられた。
声の主は、会うたびに僕を軍に勧誘する、惑星防衛艦隊・帝都惑星ハイン防衛部隊・別名帝都防衛部隊所属・第18航宙部隊隊長・リオル・バーンネクスト少佐その人だった。
以前ブレスキン将軍閣下に注意されたはずなんだけどな。
「何か御用ですかね少佐殿?」
「話がある」
少佐殿は随分と厳しい表情をしていた。
道の真ん中は良くないので、繁華街の中にポツンとある駐車場に移動した。
入り口には飲み物の自動販売機が設置してある。
「それで、なんの用?」
「最後通告だ。軍に入隊して俺の部下になれ」
「お断りするよ」
当然の要求に対して、当然のように拒否する。
「お前、そんなにアーミリア皇帝陛下の役に立つのが嫌か?」
その僕の反応に、少佐殿はいままでの勧誘時以上に怒りを顕にした。
「僕が入隊したところで、君のいる部隊はプロパガンダ部隊。こんな見た目の僕が配属されるわけないでしょうし、君の部下たちだって納得しないでしょう」
「俺が希望すれば融通は利くし、部下たちは納得させる」
僕の反論にさらりと返してくるものの、その言葉はあまり信用できるものではない。
「その納得させる理由は、有事の際の身代わりにでもするから。かな?」
僕はそう言い切って少佐殿を見つめる。
「そんなことは……」
――そんなことはない――と言い切らずに不意にため息をつき、
「ああそうだ! お前の撃墜数を振るわない連中に振り分けてかさ増しして、俺の部隊を名実共に最強にし、俺達に失態があった時には責任を押し付けるつもりだった! だがそれだって植民地民のお前にとっては名誉だろうが! 帝国貴族の、ひいてはアーミリアの、皇帝陛下の役にたてるんだからな!」
急に口調を荒げ、いままで黙っていたはずの本音をぶちまけた。
まあ大体はわかっていたけれど、しっかり声に出されると不愉快になるお。
「それが本音だったねやっぱり。そこまで部隊の成績にこだわるのは、やっぱり皇配になるためだったのかな?」
なのでこちらも軽く嫌味をいってやると、
「アーミリアにふさわしいのは俺だ! 病弱な公爵の孫なんかありえないだろ! 俺に足りないのは輝かしい栄誉だけだ! それさえあれば皇配に選ばれたのは俺だったはずだ!」
そういってまた大声をあげた。
「そのために実績が欲しいなら、王様階級や女王階級の傭兵をスカウトすればいいでしょうに。見た目の良い人もいるから、部下の人達だって反対しないでしょ」
その雄叫びに正論で返すと、
「そいつらはお前くらい腕は立つのか?」
と、聞いてきた。
「そりゃあそうだよ。僕より強い人がゴロゴロいるさ」
「だが、階級を金で買った貴族の傭兵ばかりなんじゃないのか?」
「そればっかりではないけど、もしそれに当たっても同じ貴族なら気も合うんじゃないの?」
「そんなことはありえんのは貴様も知っているだろう!」
少佐殿の質問に返答するも、正直話が平行線だ。
それに我慢ができなくなったのか、
「これで最後だ。俺の部下になれ!」
少佐殿が怒りの表情で大声をあげ、銃をこちらに向ける。
「手柄は他人に取られ、失態が発覚した時の身代わりにされるってわかってて入隊する人がいると思うかい? おまけに銃まで向けられてさ」
僕はそう返答しなから自動販売機に向かうと、一番メジャーなプラボトルの炭酸飲料を2本買い、
「少しは冷静になって、強くなる他の手段考えたら? 前線の部隊に異動するとか、部下の人達を鍛えるとか。少なくとも、やる気のない人間を無理矢理入隊させたところで働いてはくれないってブレスキン将軍にも言われたでしょ」
そういいながら炭酸飲料を投げ渡す。
彼が炭酸飲料を受け取ろうとして、少しだけど銃が下がった瞬間、僕はその炭酸飲料に向かって威力を最弱にした熱線銃を放った。
炭酸飲料のプラボトルは破裂し、少佐殿がそれに驚き、炭酸飲料が目潰しになった隙に、全速力で逃げ出した。
幸い、周囲のお店の人やお客さんがでてきたおかげで、少佐殿の追跡は阻まれたらしい。
もしくは怒りに震えて追いかけて来ていないだけかもしれないので、なるべく距離をとるため必死で走った。
そうしてなんとか最寄りの駅までたどり着いた。
少佐殿の様子を見る限り、かなり切羽詰まっているようだから、これからは少し気をつけないといけないかも知れない。
ブレスキン将軍閣下に報告しておこうかなあ……。
でもあの人に借りは作りたくないしな……。
そんなことを考えながら炭酸飲料を飲もうと蓋をあけたら、ものすごく吹き出してかなり濡れてしまった。
第四巻が2月に出版予定です。
イラストで皇帝陛下がなかなかなことになってます
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