モブNo.164∶「俺達はそんなヘマはしねえ! 少なくともゴミ拾いよりは遥かにマシだ! 俺達はその金でBIGになるんだよ!」
その日の僕達のシフトが終了する頃には第2陣が、その第2陣のシフトが終了するころには第3陣が到着し、ようやくローテーションが回り始めた。
そして翌日からは、実に平穏な日々が過ぎていった。
ヴォルバードさんとの作業も順調で、1日で収集したデブリの量がその日のトップというのも何度かあった。
他の傭兵達やデブリ屋の人達にもトラブルはなく、外部からの邪魔も入らなかった。
大きな事業だからかマスコミの取材も入ったが、これもトラブルは無かった。
そのお陰もあってか、人工天体の周囲だけではあるものの、だんだんとデブリが減っていき空間が見えるようになってきた。
同時に人工天体の修理も始まり、デブリ除去のプロジェクトは順調だった。
それに伴い、持ってきたラノベや漫画も読み終わり、新しいのを通信で購入したりもした。
そんな平穏な時間が2週間ほど続いていた時、ついに事件が起こった。
『よし、ドンピシャだ。ちょいと中を見とく。細かいのが流れたら止めてくれ』
「了解」
その日の清掃エリアには、明らかに宇宙開発とは程遠い、惑星上で使用する貨物列車のコンテナ車が、大量にデブリとして浮いていた。
正直なんでここに棄てにきたのか理解に苦しむ代物だった。
ともかく、こういった収納できる感じのデブリは、内部に危険物が入ってないかを確認してから回収することになっていている。
そして中に入ったヴォルバードさんがなかなか出てこない。
まあかなり大きめのコンテナ車だから仕方ない。
そして程なくしてヴォルバードさんがコンテナ車からでてくると
『……おい兄ちゃん。今日はこれで仕事は終いかもしれん』
「どうしたんですか?」
『これみろ。トランクだ』
その手には、人間1人くらい入りそうな大型のトランクがあった。
僕とヴォルバードさんはすぐに本部に連絡をいれた。
本部の最高責任者であるティウェイター伯爵家の筆頭執事であるジョルジュ・デアソン氏は、トランクがでたことを報告してきたことに不思議そうにしていたが、デブリ屋達の方は例のお宝都市伝説を知っているようで、そのことから生まれた習慣を説明していた。
「……左様ですか……。では警官を呼んで開封に立ち会っていただきましょう」
都市伝説を信用しているかいないかはともかく、デブリ屋の人達の心情を考えて動いてくれるのはありがたい上司だよね。
そして僕とヴォルバードさんが本部にたどりつき、トランクを運んでいる時に、いきなり進路を妨害された。
相手は4人。見た感じ10代後半で作業服を着ているところを見ると、どうやらデブリ屋のようだった。
「なんだ。この前入ったばかりの連中じゃねえか。何か用かい?」
ヴォルバードさんは彼等を知っているらしく、不思議そうに声をかける。
すると、リーダーらしいヤツは銃を取り出し、他のヤツらは持っていた金属製のパイプ・バール・巨大なスパナを構え、
「そのトランクを渡してもらおうか」
そうこちらに要求を突き付けて来た。
そんな彼等に、ヴォルバードさんは冷静に対応する。
「お前達、もしかしてこの中に金塊が入ってると思ってるのか?」
「ああ。もし金塊じゃなかったとしても、不正の証拠になるような書類があったら金を脅しとれる」
「やめておきな。お宝都市伝説じゃあ金塊が入ってたが、大抵は誰かの旅行用品が入ってるだけだ。よしんばお前さんのいう不正の証拠の書類かなんかだったら、ろくなことにならんぞ」
「俺達はそんなヘマはしねえ! 少なくともゴミ拾いよりは遥かにマシだ! 俺達はその金でBIGになるんだよ!」
どういう意味でBIGになるのかはわからないが、彼等があまり頭が良くないのは理解できた。
ヴォルバードさんが話をしている隙をついて、こっそりと腰の銃に手を持っていこうとしていると、
「わかった。トランクはやる。だが、人目の多いところで開けな。そうすれば文句を言う奴も少なくなるだろう」
ヴォルバードさんが意外な言葉を発した。
彼等はその提案に乗り、僕達の後ろをついてきた。
そうして僕達はラウンジに到着すると、
「約束通り、このトランクはお前達のものだ」
ヴォルバードさんが連中にトランクを渡し、距離を取った。
「入っているのは金塊か不正の証拠の書類に間違いない! これで俺達は大金持ちだ!」
彼等若いデブリ屋達は、いつの間にか周囲に人が集まっているのにもかかわらず、ライターサイズのバーナーを取り出し、トランクの鍵を壊し始めた。
ちなみにそのやり取りと行動は、周囲の連中全員が見ていたが誰も止めなかった。
どうやら周囲の連中も、トランクの中身が気になるようだ。
しばらくするとトランクの鍵は焼き切られ、若いデブリ屋達の歓喜の声と共に開けられたトランクからは、周りを衝撃吸収型のスポンジに囲まれ、透明な筒の上下を金属製の蓋と底に挟まれた容器の中に何かの水溶液が満たされており、その中には人間の胎児が浸けられていた。
「うっ……うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」
それが現れた瞬間、その場に居た全ての人間が驚愕した。
僕も色々ヤバい妄想が浮かんでいたが、一番早く我に返った若いデブリ屋のリーダーの言葉で我に返った。
「てっ……てめえら! すり替えやがったな!」
リーダーはプルプルと怒りに震え、銃口をこちらに向けてきた。
いやいや。今さっき自分達で鍵をバーナーで焼き切ったでしょうが。
そう突っ込んでやりたかったけど、相手は興奮状態でいつ引き金を引くか分からない。
僕の腕では銃だけを狙って弾き飛ばすなんて芸当はできないのでリーダーの腕を狙って、向こうが撃つ前にこっちが先に引き金を絞り込んだ。
「ぐあっ!」
取り敢えず手の部分に当たり、リーダーは銃を取り落とした。
僕は早撃ちは苦手だけど、一般人よりは早いつもりだ。
リーダーがやられて驚いている隙に、後の3人もと思っていたのだけど、周囲にいた傭兵達が同時に取り押さえてくれた。
その内の1人はディロパーズ嬢で、バールを持った奴に見事なハイキックを食らわしていた。
モブの銃の腕は、軍・警察・傭兵・テロリストなどで銃の扱いに長けた人には敵いませんが、一般人や銃の扱いが不得手な人よりは上手いです
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