モブNo.161:「君は、専用機や自分専用の装備を欲しいと思った事はあるかい?」
ナンパ男達は問題なく警察に逮捕され、僕達は現場で事情聴取を受けた。
流石にそこから食事に、という気分にはならなかったので、その日はそのまま解散となった。
連中は逮捕されはしたものの、本当に逮捕されたかどうかは不安だった。
もしかしたら。いや、たぶん間違いなく連中は貴族の子息だから、権力を使用して無罪になるのではという不安が拭いきれなかった。
しかしその翌朝。
なんと昨日のあの3人組がテレビのニュースでデカデカと報道されていたのだ。
その内容によると、連中は大学生で、それぞれ、金髪は男爵。黒髪は子爵。茶髪は伯爵の息子らしい。
何でも連中は、女性を食事に誘い、アルコールを大量に摂取させ、意識が朦朧としたところで拉致して性的暴行を働き、その現場を録画・撮影し、映像を流されたくなかったら黙ってろ。と口封じ。
映像を渡して欲しければ金を出せと恐喝していた凶悪犯と判明。
どうしてそんな犯罪が今まで明るみに出なかったかは、彼等の親が『正常で正統な貴族』だったからだろう。
しかも、先だっての反乱軍には参加していないため、取り潰しになっていないのだろう。
そんなそいつらを、ティンクス嬢とノスワイルさんが2人で、捕縛したことになっていた。
名誉欲のあるやつなら、あの2人の前に自分が無力化したんだと主張するんだろうけど、僕にとっては有り難いことでしかない。
そして今回彼等がしっかりと逮捕された理由としては、この手の犯罪をかなり嫌悪している現・皇帝陛下の勅命により、この手の犯罪者に対して、
『刑罰確定まで、取調官及び国選弁護士以外の全ての人間の容疑者への面会禁止』
『刑罰確定までの裁判官・陪審員・検察官の安全の確保』が徹底されているため、家族に頼んでの無罪工作は不可能に近いらしい。
そしてそんなヤカラを逮捕したノスワイルさんとティンクス嬢は、元々有名人であったのに加え、一躍時の人になってしまった。
これでノスワイルさんはますます女性にモテることになるのだろう。
僕やゴンザレスには取材なんかは来ないだろうから、ともかく今日も休暇を楽しもう。
とは言っても、特にやることもなければ、何かイベントがあるわけでもない。
流行りのテーマパークにでも行けば暇は潰せるだろうけれど、あそこはファミリーとカップルとマニアの巣窟だからできれば行きたくない。
家にいるのもどうかと思って外にでてふらふらとしていたら、自然と脚が闇市商店街に向かっていた。
ここは相変わらず濃い空間だった。
あの肉屋さんでは、『煮え滾る油泥から産まれし、ミノタウロスの心臓』なるものを売り出し、張り紙には『ミノタウロス肉100%!』とあった。
さらには『破棄されし臓物の山・焼却用及び煮沸用』というものもあった。
さらに商店街を歩いていると、不意に焼きたての小麦の香りがしたので向かってみると、店名は『ウィッチ・ベーカリー』という、名前以外は店構えも並んでいたパンの見た目も名前も普通のパン屋で、店員さんが全員女性で魔女っぽいコスプレをしているだけの、この闇市商店街にしては平凡すぎる、店の名前すら通常の商店街にあってもおかしくない店だった。
しかし、奥から焼きたてのパン、おそらくデニッシュ。を運んできた店員さんを見た瞬間、僕は固まってしまった。
真っ黒なローブに鷲鼻、ギョロリとした目に曲がり気味の腰という、まさにザ・魔女といった老婆で『ひひひ……』という笑い声を発したからだ。
その瞬間、並んでいたパンが急に毒入りの恐ろしいものに見えてきた。
が、もちろんそんなことはなく。
老婆、アズリーさんはこのパン屋の先代の店主でパン職人だったそうだ。
この商店街が闇市商店街に変わる時に、当時幼稚園児だった孫娘が、『おばあちゃんのパンは魔法みたい』といったことからこの店名とコンセプトになったらしい。
今は引退して、息子さん夫婦(旦那パン職人・奥さん接客)と孫娘(パン職人)が切り盛りしているが、時々手伝い兼査定に来ているらしい。
ちなみにアズリーさんの旦那さんは元警察官で、婿に来たそうで、今は夫婦でのんびり生活しているらしい。
ちなみに焼きたてのシュガーデニッシュは、他のパンもいくつか買ってから外でいただいたのだが、むちゃくちゃ美味しかった。
余談ではあるけれど、この闇市商店街を闊歩している魔女っぽい服装をしている女性達(中には違うのもいるが)は、アズリーさんをグランドマスターと呼んで慕い、お店の売り上げに貢献しているらしい。
あとあの『ひひひ……』という笑いをやり出したのは、お客の女の子にリクエストされたのがきっかけらしい。
その『ウィッチ・ベーカリー』のパンの袋を持ったまま何の気なしに向かったのが、『修理と再資源化のキュリースガレージ』という、グレイシア・キュリースさんの店だった。
以前と変わらず、船・家電・パソコン・ドロイド・車・武器・兵器などの本体・部品・残骸に埋もれ、入り口のドアだけが見えるという、一見ゴミ屋敷にも見える感じの外観で、店内はめちゃくちゃ綺麗な店だった。
「いらっしゃい! おや、久しぶりじゃない」
「どうも。お久しぶりです」
「あ! それ、『ウィッチ・ベーカリー』の袋じゃない!」
「焼きたてのシュガーデニッシュですけど、食べます?」
「いただくよ!」
キュリースさんは袋からシュガーデニッシュを取り出すと、美味しそうに食べ始め、あっという間に食べ終えてしまった。
「やっぱりアズリーさんとこのパンは美味しいね」
地元だけあってか、あの店のファンらしい。
「それで今日は何か入り用なの?」
「いえ。たまたま脚が向いて、近くに来ただけですから。まあ、新しいレーダーがないかなとは思いましたけども」
失礼な話ではあるだろうが、買うつもりもないのに、なにか買いに来たというほうが失礼だ。
するとキュリースさんは、じっと僕の方を見つめてきて、
「君は、専用機や自分専用の装備を欲しいと思った事はあるかい?」
と、真剣な表情で尋ねてきた。
「まあ欲しくないといったら嘘になります。でも今のところ欲しくはありませんね。今の機体はまだ新しくて、壊れてもいません」
そもそもいま僕が使用している『ノルテゲレーム』は基本的に頑丈でタフな機体だ。
破損がない限りは乗り換える気はない。
「それに専用ってことは、パーツやら何やら、故障したりした時に、替えが利かないじゃないですか。大量に出回っている市販品ならすぐ替えがききますけど。それに僕みたいなのがそんな凄いのに乗っていたら、権力で取り上げられかねないですからね」
僕はキュリースさんの質問に、正直に答えた。
やっぱりメカニックとしてはそういうのが作りたかったりするのだろうか?
するとキュリースさんは満足そうな笑顔を浮かべ、
「ジョン・ウーゾスくんだったね。君はやっぱり職人なんだね。仕事人といってもいい。派手に立ち回るよりも、裏方で堅実に仕事を終わらせるタイプだ。私は君のようなタイプのパイロットは実に好みだ! 機体の事でなにかあったら私に相談しなさい!」
といって僕の背中をバシバシ叩いてきた。
「はあ……どうも……」
いったいなんなんだと思いながらも、まあ気に入られたのならいいかなと考え、
「カレーパンもありますけど食べます?」
「いただくよ!」
同じく揚げたてだったカレーパンを、キュリースさんに差し出した。
パン屋のお客も(コスプレ)魔女が多かったりします
某有名カードゲームの黒い魔女
ドラゴンもまたいで通る魔女
頭のおかしい爆裂魔女
その自称ライバルのぼっち魔女
王選候補の魔女
エンディングで拷問を受けている5人組の魔女
などなど……
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