モブNo.159:「えっ! パットソンくんってば女の子だったの!? 学校じゃ男装してたってこと?」
今回の依頼は、護衛対象の死亡により失敗ということになった。
とはいえ、傭兵全員の交信記録と、ザクウン商会の船の記録装置に、
『いやあ、ありがとう。ここ迄来ればもう十分だ。終了証明書を全員に送ろう。報酬は後からもらってくれたまえ』
という、アマス・ザクウン氏の発言が記録されていたことから、依頼は終了寸前であった事。
発言の内容や声の調子、映像によるにこやかな表情から、傭兵達の仕事内容には満足しているらしい事。
ザクウン商会の船が入港を開始しており、『入港時の船舶からは、安全のため一定の距離を取ること』という宇宙港の規定を守り、距離をとっていた事。
そして、惑星ボルトグラスの警備部隊の隊員が襲撃犯であったことは予想がしにくいという理由から、『不測の事態』という扱いになった。
そして、ザクウン商会が100クレジットショップの『トレジャーハンマー』の母体会社であったことから、テレビのニュースで報道もされた。
そのニュースではじめて知ったのだが、襲撃犯の惑星ボルトグラスの警備部隊の隊員であるヘンリー・ブラウンは、反帝国主義者グループの一員だったという事だ。
ご丁寧にも『反帝国主義者』からの犯行声明があったらしく、間違いないようだ。
そのためなのかどうかは分からないけれど、『犯行は、雇っていた傭兵の雇用期間が終了し、惑星ボルトグラスの宇宙港内部に進入しようとしていた時に実行された』事になっていて、傭兵達に対しての責任追及は無かった。
狙われた理由として、犯行声明にはごちゃごちゃと難解な表現を使ったりしていたものの要約すると、『アマス・ザクウン氏以下、ザクウン商会の幹部達全員が貴族だからムカつく。だから殺す』という、なんとも単純で幼稚な理由だった。
商会長のアマス・ザクウン氏は、実際にはドルアマス・ザグルマスト子爵というらしく、アマス・ザクウンというのはリスク回避の為のビジネスネームだったらしい。
そのザクウン商会の上層部は貴族だけで構成されていたらしい。
それを知ると、幹部の一部がこちらを見下したような下品な言動をしていたことが納得できる。
しかし、アマス・ザクウン氏。いや、ドルアマス・ザグルマスト子爵自身には悪い印象はなく、むしろ好印象だった。
テレビのインタビューに答えていた社員達も、幹部はともかく、商会長であるザクウン氏については悪い話はでていなかったように思う。
そんなテレビでの報道もあり、依頼が成功していたならボルトグラスの温泉を堪能していたかもしれないけど、流石にそんな気分にはなれないので、全員が迅速にイッツに帰ってきた。
僕はイッツに帰ると、取り敢えずローンズのおっちゃんに報告に向かった。
「こっちにも報告は来てる。災難だったな」
「なにもあんなタイミングでやらなくてもいいじゃないか……」
僕は思わずテーブルに突っ伏していた。
「終了証明書を貰っていたら、成功扱いだったのにな」
「それでも目の前で依頼人が殺害されるのはちょっとね……」
終了証明書は貰ったから無関係。
間違いではないけれど、それで報酬が入ったと喜んではいけない気がする。
いままで護衛の依頼を受け、終了証明書を受け取った後に依頼人が殺害された事が何度かあった。
大体は5時間後とか翌日だったりしたが、目の前でというのは初めてだった。
その時僕は、ある事を思い出して、不意に周りを警戒した。
「どうした? キョロキョロして」
「いや、大抵ならこのへんで、受付嬢から話を聞いたろくでもないのが絡んでくるんだけど、それがないからさ」
以前なら、僕が依頼に失敗しようものなら、受付嬢の誰かがろくでもない奴に情報をリークし、そいつが僕をイビリに来るというサイクルがあった。
今回みたいに他のメンバーがいたりすると、本人やその仲間内が『失敗したのはお前のせいだ! 迷惑をかけた詫びとして、成功報酬と同額の慰謝料を払え!』とか言って来たりもした。
まあ、そんな規定はないから無視したけどね。
しかもそういう場合、失敗は僕以外の連中のミスか、『不測の事態』がほとんどだったりする。
「それがなくなったって事は、この前大掃除はしたかいがあったな」
おっちゃんは歯を見せながらいい笑顔を浮かべた。
「それで。またいつも通りか?」
「今回は長めに休みとってみる」
「そりゃいい。一ヶ月でも二ヶ月でも休みを取りな。お前さんはワーカーホリック気味だからな」
「せいぜい1週間だよ」
イベントでもあればともかく、それはないのでただダラダラするだけになるかもね。
ローンズのおっちゃんに報告をしたあと、取り敢えずアニメンバーに行ってみることにした。
たしか、『パラダイスパイオニア』の新刊と、『アルティメットロード劇場版』のデータソフトが出ていたはずだ。
『アニメンバー』にはいると、この店のいつもの雰囲気が出迎えてくれた。
依頼から戻ってきた時、ここにくると平和な日常に戻ったのだと実感する。
そして目当ての品物を手にとってから、店内を物色していると、ゴンザレスにでくわした。
「よう。久しぶり」
「聞いたぞ。失敗したんだってな」
「ああ。かっちりやられたよ」
「ザクウン商会が『反帝国主義者』の派閥の隠れ蓑って噂があるの知ってるか?」
「え!? 初耳なんだけど?」
「あくまでも噂だ。信憑性は高いけどな……」
俺達は、そんな話をしながらも、目当ての漫画やラノベやアニメのデータソフトを物色していた。
そうして買い物が終わると、自然と足が駅前の
ゲームセンター『プレイスターハウス』に向かっていた。
「こんばんはウーゾスくん」
その時不意に後ろから声を掛けられた。
そこにいたのは、僕からすれば違う世界の住人とも言える人、スクーナ・ノスワイルさんと、その友人らしい女性だった。
「「あ、どうも」」
僕とゴンザレスは、片手で後頭部を触りながらお辞儀という行動を同時にしてしまった。
「なんか、有名人に話しかけられたのに随分冷静ね貴方達。まあいいわ私はアエロ・ゼルリア・ティンクス。プラネットレースチーム『クリスタルヴィード』のパイロットよ」
向こうが自己紹介をしてきたのでこちらも自己紹介を返す。
「ジョン・ウーゾスです」
「ゴンザレス・パットソンです」
するとノスワイルさんが、笑顔でゴンザレスに話しかけてきた。
「初めまして。私はスクーナ・ノスワイルと申します」
ノスワイルさんの行動に一瞬混乱したゴンザレスだったが、その理由に気づき、
「いやいや……って分からないか。俺は高1の時に同じクラスだったパットソンだ。見た目分からないかもしれないけど」
と、自分が元・高校時代のクラスメイトである事を説明した。
ゴンザレスが今の姿になったのは大学に入ってからの上に、僕と同様に同窓会にろくに出ていないから、姿が変わっているのを知っているはずがない。
「え? パットソン? たしかに、1年の時にクラスにいたし、前髪でよく顔が見えない印象だったけど……」
ノスワイルさんは信じられないといった表情でゴンザレスをまじまじと見つめ、
「えっ! パットソンくんってば女の子だったの!? 学校じゃ男装してたってこと?」
と、とんでもない爆弾発言をしてくれた。
一時期ラノベや少女マンガで流行った男装女子のラブコメじゃあるまいしそんな事があるわけがないでしょうに。
案外ノスワイルさんは少女マンガが好きだったりするのだろうか。
最近疲れからか筆が遅くなっています……
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