モブNo.156:『おいおい。一番のベテランがなにやってんだよ。まあいい教えてやるよ』
惑星ポルトグラスへの直通ゲートまでの道のりは実に平和だった。
ザクウン商会の船とのやり取りには、例の問題発言の幹部は出てこず、オペレータの女性と会長だけが画面には現れていた。
もしかしたら個人的に通信があったりしてと危惧していたが、そんなこともなかった。
そして平和ということは、暇だと言う事にもなる。
そうなると航海中に色々な話題が上がり、そのなかで、なぜ女王階級のカティ・アルプテト嬢が騎士階級用の依頼を受けたのかと言う話になった。
やっぱりみんな気にはなっていたんだな。
アルプテト嬢は、最初は渋っていたのだけれど、モリーゼが軽く押すと恥ずかしそうに話し始めた。
『実は、少し前から軍からの勧誘がしつこくてね。第二艦隊とか第九艦隊とか。それが余りにも鬱陶しかったから、逃げるために思わずこの依頼に飛びついちゃったのよね。だから、下調べをしてないのよね実は』
彼女はテヘッ♪ といいながらペロッと舌を出した。
他のメンバーが呆れた表情をみせるが、僕は彼女の事を笑えないでいた。
僕も似たようなもので、早く離れたいのもあって下調べをしてなかったからだ。
『おいおい。一番のベテランがなにやってんだよ。まあいい教えてやるよ』
バーナードのおっさんの、一番のベテランと言う言葉に、アルプテト嬢の眉が思いっきりつり上がったのを、おっさん以外の全員が目撃した。
おっさんは全く気が付かず、ドヤ顔で説明をはじめた。
『今回の依頼主のザクウン商会だが、100クレジットショップの『トレジャーハンマー』ってしってるかい?』
『あの小さなずんぐりしたハンマーがデザインマークのお店よね』
100クレジットショップの『トレジャーハンマー』は、帝国中に店舗がある有名な雑貨店で、僕も近所にある店舗を利用したことがある。
『ザクウン商会はあそこの母体なんだよ。あの幹部達は、各惑星の店舗の総責任者ってわけだ。まあ、社内の雰囲気までは知らねえが、真っ当な商売はしてるようだ。後はあの会長がプロレスファンで、若い頃はプロレス同好会に入っていて、今でも身体を鍛えているってぐらいだな』
バーナードのおっさんの話は、軽く調べても分かりそうな内容だったけど、僕とアルプテト嬢はそれすらやってなかったんだよね。
本気で反省しないといけない。
まあ焦ってしまった理由は軍のせいではあるんだけど、人のせいにしてはいけない。
ちなみに目的地の惑星ポルトグラスは、生存可能惑星としては標準だが、惑星上にある50%の山が活火山であり、小規模な噴火を繰り返している。
しかしその影響で温泉が何百何千と湧いており、年間の観光客が数十億人にも上り、皇室専用の御用邸まである。
活火山自体も観光資源になっていて、安全な山で溶岩を見に行くトレッキングツアーなんかも行われている。
どうせなら温泉で湯治でもしていこうかなぁ……。
レーダーを眺めながら、架空の温泉旅行プランを考えていると、惑星ポルトグラスに直通するゲートが見えてきた。
人気観光地行きのゲートだけあって、何十という船がそこに向かって集まってきており、ほぼ全てが民間船なので、まるで移民船団のようだった。
この即興の大船団を見て安心したのか、
「ここまでくればもう大丈夫ですね。後はゲートを通過するだけですから」
ディロパーズ嬢が伸びをしながらリラックスモードに入ろうとした時、
「油断すんな新入り! そういう瞬間が一番ヤバいんだ!」
レビン君が声を上げて注意をする。
「はっはいっ!」
その声に、彼女は一瞬で姿勢を正した。
案外レビン君は面倒見がいいらしい。
そうして即興の大船団と共に、ゲート通過のための列に並び、その順番を待っていた時、僕の船のレーダーが反応を示した。
ゲート行列に並んでいる船は除外しているため、新しく来た船かと思ったけど、スピードから考えるとどうやら違うらしい。
「総員に通達。所属不明機が多数高速接近中。警戒されたし」
海賊かどうかの判断はまだついていないが、海賊でないならこんなスピードで近づいてくるはずがない。
なので僕はその場にいた全ての船に、情報を通達した。
『こちらでも確認した。明らかに速度が怪しい。非武装船は迅速にゲートへ! 護衛艇には撃退の支援を要請する!』
ゲートの警備もその一団を捕捉し、すぐさま対処を開始した。
ゲートの警備艇や、要請を受けた護衛艇は直ぐに迎撃の態勢に入り、戦闘能力の無い非武装船達は、我先にとゲートに飛び込んでいった。
すると間を置かず、30機ほどの戦闘艇が、速度を落とさずに接近してきた。
その全ての機体は濃い緑で、エンブレムなどは一切なかった。
彼等は満遍なくこちらに襲いかかるということはなく、明らかに僕達が護衛しているザクウン商会の船を狙ってきた。
この瞬間、彼等は海賊ではなく『ザクウン商会を狙った襲撃犯』と確定した。
『ちょっと! 一体どうなってんだい! 依頼主はまともな店じゃなかったのかい?!』
モリーゼがバーナードのおっさんに文句を言い、
『詳しい内部事情までわかるわけないだろうが!』
おっさんがそれに言い返す。
それを理解した周囲の船団は、感謝だったり嫌味を言ったりしながら、自分達の雇い主を安全なゲートの向こうに退避させていく。
ゲートの警備隊は流石に援護をしてくれるようだ。
『それなら無関係の非武装船全部をゲート通過させればこちらが有利に動けるようになるわ! ザクウン商会の船は、ゲートへの退避はちょっとだけ待ってちょうだい! 襲撃者をゲートの向こうに行かせるわけにはいかないから! それ以外の非武装船は一刻もはやくゲートの中に退避を!』
アルプテト嬢は冷静に指示をだしてきた。
それにしても、襲撃犯はザクウン商会に相当に恨みがあるって事だけは間違いないみたいだ。
こんなに大量の船が集まっている状態で、ザクウン商会が原因の襲撃があったとなれば、その場にいた人達はザクウン商会に悪印象を抱く。
それが原因で売り上げに影響も出るだろう。
でもそれなら、商品の不良品があったとかを、ネットやマスコミに訴えたほうが効果的なはず。
なのになぜ?
そんなことを考えながら、僕は操縦桿を握りしめた。
ツケの1つ目です
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