モブNo.153:「スケベなんだよあのジジイ」
旧ネキレルマ星王国領域の惑星バルダルの惑星上警備及び巡回の仕事は、テロリスト達の襲撃以降は何事もなく順調に終わり、第6艦隊司令官、ピルオネス・ヘンドリックス准将に目をつけられる事もなく、その帰路でも一切のトラブルなくイッツに帰って来ることが出来た。
しかし、傭兵ギルドに戻ってくると、暗い顔をしているグループと、微妙に乾いた笑いを浮かべているグループと、その2つのグループをくすくすと笑っているグループに分かれていた。
その理由は、皇帝陛下の皇配レースの結果がでたからだ。
皇帝陛下の皇配に選ばれたのは、アルティシュルト・ビンギル・オーヴォールス公爵の孫であり、現宰相テリー・ランゲイス・オーヴォールス侯爵の第二子で長男のオリバー・レイミス・オーヴォールス氏だった。
つまり、暗い顔をしているのは外れた連中。
微妙に乾いた笑いを浮かべているのは当たった連中だ。
当たった連中があまり嬉しそうではない理由は、オリバー・レイミス・オーヴォールス氏は下馬評ではガチガチの本命で、オッズも一時は1.02倍にまでなり、最終的には1.1倍に落ち着いた。
これでは当たったとしても、配当金は雀の涙くらいしか増えないため、配当金がないよりはマシといった状況らしい。
そしてブックメーカーはブックメーカーで、オッズが低いためにひとりひとりに払う額はわずかでも、数が多いためにとんでもない額になっているらしい。
つまり、くすくす笑っているのは賭けをやらなかった連中ということだ。
ちなみにローンズのおっちゃんはがっつり外したようだ。
「せっかく小遣いをはたいたのに……」
「ギャンブルは向いてないんじゃない? 精々宝くじとかスクラッチにしときなよ」
「その方がマシか……」
もしかすると今回の事で奥さんに怒られでもしたのか、随分と元気がなかった。
そうして今回の仕事の報酬、固定給の60万クレジットと、危険手当の180万クレジットの計240万クレジットを情報で受け取った。
するとローンズのおっちゃんが、なにかの書類を差し出してきた。
「そうだ。どうせしばらく休むんだろ? だったらこれ受けとけ」
それは、傭兵ギルド指定の医療機関で、傭兵達の健康増進のためという名目での定期的に推奨している人間ドックのパンフレットと申込書だった。
いまはまだ推奨だが、いずれは義務になるといわれている。
「ああ。人間ドックね」
ギルドの指定医療機関であるマイルネン総合病院は、時間のかかる人間ドックをやっているので有名な病院だったりする。
オールスキャナと呼ばれる検査機器を使えばどんな病気でも発見できるのだが、この病院では敢えてそれを使用せず、16種類82項目の詳細検査を、2日間かけて行うのだ。
その理由は、ひと項目ずつ検査をしたほうが病気の詳しい状態がわかるというのと、時間をかけて検査を行う事で身体を休ませ、健康というものを見直す時間を与えるためというのと、2日間の人間ドックも許さないような会社はすぐにでもやめてしまえ! という、院長のこだわりからのことらしい。
まあ特に予定もないし、銀行にいって両親への仕送りをしたあとで、人間ドックの申し込みをしたところ明日の午前10時から開始できるらしいと告げられた。
僕は直ぐ様『アニメンバー』に向かい、ラノベと漫画を購入してからパットソン調剤薬局にむかった。
ちなみに例のお肉屋さんでは、勝利の記念と称し、『地の底の生命を擂り潰しモノにて顕現する至福の黄金』と『油泥に落ちし貪欲たるオークの死骸』の半額セールをやっていて、ものすごい行列が出来ていた。
おそらく皇配レースに賭けていたわけではなく、便乗しただけだろうけどね。
それには並ばずに、近くにあったコンビニチェーンの『スカイランダ・闇市商店街店』で適当に買い物をしてからパットソン調剤薬局にやってくると、いつも通りの挨拶をかわした。
「よう。久しぶり」
「いらっしゃい。……なんだお前か」
ゴンザレスはいつも通りで、読んでいた新聞をカウンターに置いた。
「皇配レースの結果はどんな感じになったの?」
僕はコンビニで買ってきた炭酸飲料とフライドポテトをカウンターに置きながら、皇配レースの結果に対する感想を尋ねてみた。
「オリバー・レイミス・オーヴォールスが選ばれたのは下馬評通りの結果だ。まあ他の馬鹿共よりはマシだな。同級生だったリオル・バーンネクストは伯爵家だから微妙。もう一人のサルマートル・バルバロッサは侯爵家だが、実家がヤバいし、本人も良い噂は聞かないからな」
そういう、国家の将来に関わる裏事情を聞くと、呑気に賭けをしていた連中が微笑ましく思えてくる。
「そのバルバロッサとかいう奴がアホな行動に出たりしないのかね?」
良い噂を聞かないということは、アホな行動をする可能性があるという事だ。
「公爵閣下が睨みを利かせているらしいから、一応は大丈夫って話にはなってる」
多分他にもヤバいのは居るんだろうけど、公爵閣下が睨みを利かせているからなんとかなってる訳か。
「まあ僕達にはこれ以上関係ないかな」
「そうだな」
そのあとは、フライドポテトと炭酸飲料で軽く乾杯をし、くだらない話に花を咲かせることになった訳だが、
「ところで明日からどうするんだ?」
「ああ、明日から人間ドックに行くんだよ」
「珍しいな。そんなのに行くなんて」
「ギルドから勧められてね」
当然、ローンズのおっちゃんから勧められた人間ドックの話もでる。
「何処の病院だ?」
「マイルネン総合病院」
「あそこか……。あそこの院長は腕も良いし医者としての理念も立派だけど……」
病院の名前を聞いた瞬間、ゴンザレスの表情がくもり、
「スケベなんだよあのジジイ」
吐き捨てるように言い放つ。
以前にあったという薬剤師組合の会合とかで被害にあったのかもしれない。
薬剤師の組合だから、医者も無関係という訳では無いだろうしね。
女性の身体であるゴンザレスにとっては嫌なスケベジジイだろうが、男である僕にとっては単なる良い医者と言うだけだ。
それからしばらく、ゴンザレスの院長に対する罵詈雑言を聞いてから、帰路につき、帰ったら入院セットを用意し、翌朝にはマイルネン総合病院に向かった。
4巻の作業と、家族の手術と入院、通院がかさなってしまい、しばらく更新が滞ってしまいます。
申し訳ございません
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