モブNo.142:「『グングニール』は後退!他の部隊は前進!全軍で迎え撃て!『グングニール』発射までの時間を稼ぐのだ!」
神の槍の名を冠した古代兵器より発射された光線で、惑星イトタキアが宇宙の塵となってから36時間。
この超兵器を無力化するために、帝国軍はある作戦を決断した。
それは、味方艦隊の一部を囮部隊として超兵器の正面に向かわせ、それ以外の部隊をレーダー索敵の範囲外からの側面攻撃にまわすというものだ。
囮部隊は、もし向こうがあの光線を発射したなら、なんとしても回避し、次弾発射までのインターバルの隙に攻撃しろとのこと。
この明らかに兵の消耗を覚悟した提案をしたのは、以前に僕が出くわした事がある、中央艦隊討伐部隊第2艦隊の司令官、カルロス・デールトリング中将だった。
この人命の消耗を覚悟した提案の前に出た案は、裏切り者を装って潜入し、中から無力化するというものだが、今の状況では通用しないだろうという結論になり、それ以降も会議はつづいたが、デールトリング中将のもの以上の良案は出ず、今回の作戦が実行されることになったらしい。
そして案の定というかやっぱりというか、デールトリング中将が司令官を務める第2艦隊は囮部隊にはならず、第4・5・6・7の4艦隊が担う事になった。
『……というのが、今回の会議で決定した作戦よ。あの陰険男が提案しただけでも気に入らないのに、自分がやらず、私達に囮なれというのが一番気に入らないわ。自分が提案したなら自分がやりなさいよねまったく!』
ヴェスコーレス中将は、心痛な面持ちで部隊の全員に作戦の概要を説明し、その作戦を提案したデールトリング中将に怒りを覚えていた。
さらに考察するなら、4・5・7の艦隊司令官はデールトリング中将の出世のライバルともいえる存在だ。
残念ながら第6艦隊はよく知らない。
『とはいえ、命令が下ったからにはやるしかないわ。もちろん簡単にくたばるつもりはないわよ。発射の兆候が見えたら、全員自分の判断で即座に射線から退避してくれていいわ』
ヴェスコーレス中将も、本当はこの作戦に納得していないのだろう。
とはいえこれ以上の作戦もないといった感じだ。
『作戦開始は、ネギレルマの近隣宙域に到達する10時間後。それから戦闘宙域まではプラス約1時間。できれば全員遺書を書いて提出しておいてちょうだい。死ぬつもりはないけど、万が一があるかもしれないから。時間までは最低限の警戒でいいから、それまでに色々済ませておいてちょうだい。以上よ』
ヴェスコーレス中将が部隊の全員に通達をした後は、全員に悲愴感が漂っていた。
傭兵の中には逃げだそうとするものもいたが、督戦隊の存在を指摘されて諦めるといった感じだった。
だけど一人だけ、闘志を燃やす人がいた。
司教階級の『羽兜』こと、ランベルト・リアグラズ君だ。
まあこの状況をなんとか出来るのは、彼だけだろう。
正確には彼の相棒である古代兵器、小型戦闘艇WVSー09・ロスヴァイゼさんのほうだけどね。
実際にはもう1機、いや、もう1人いる。
が、第7艦隊の所属というのは分かっているけれど、本当なのかどうなのか非常に怪しい上に、今どこにいるかもわからない。
まあ、その人がいなくても、ランベルト君とロスヴァイゼさんなら対処は可能だろう。
とはいえ油断をしてはいけない。
まいどのことだが、戦場では油断した奴から死んでいくことになるからだ。
☆ ☆ ☆
【サイド:カイエセ・ドーウィン】
「敵艦隊確認!数は約4艦隊!さらに接近してきます!」
「くそ、あと1時間でチャージが終了するというのに!」
「どうなさいますか陛下?」
目の前にやってきた敵艦隊に、部下達が慌てふためき始めた。
いずれは来るとは思っていたが、多少早く来てしまったようだ。
どうやらインターバルの時間を見破ったという感じではないな。
どうやらおろかな方法をとったらしい。
それならば、望み通りどおりにしてやる!
「『グングニール』は後退!他の部隊は前進!全軍で迎え撃て!『グングニール』発射までの時間を稼ぐのだ!」
『グングニール』さえ放てれば、どれだけの敵が来たとしても恐れることはない。
そのために戦力を集中させているのだ。役に立ってもらうぞ兵隊共!
★ ★ ★
こちらの動きを察知した敵艦隊と戦闘艇部隊が動き始めたのに合わせて、僕達にも出撃命令がくだされた。
古代兵器は、船首を此方に向けたままゆっくりと後退していく。
いまだにインターバル状態で発射出来ないのか、それともまだ撃たないだけのかはわからないが、あの砲口がこちらに向いているだけで、冷や汗と油汗が止まらない。
ダイエットにはいいかもいれないけど、こんな命がけなのは冗談じゃない。
さらには敵の数がとてつもなく厚い。
無人機と小型戦闘艇の群れをくぐり抜けても、中型戦闘艇・大型戦闘艇・超大型戦闘艇が待ち構え、それをなんとか抜けたと思ったら、また無人機と小型戦闘艇が待ち構えているという、無限ループに思えてしまう状態で、アーサー君やダンさん、アルテプト嬢なんかの腕利きでも苦戦を強いられている状況だ。
そんな状態でも全く問題なく進撃しているのが、ランベルト君とロスヴァイセさんの『羽兜』だ。
放たれたビームの全てを、文字通りの人間離れした機動でするするとかわしていき、ほんの一瞬の交差で敵戦闘艇を撃破したり、後ろに食らいついてきた敵戦闘艇を翻弄しながら、中型戦闘艇・大型戦闘艇・超大型戦闘艇の間をすり抜けて引き剝しつつ、敵の艦に衝突させたり、超大型戦闘艇の弾幕をすり抜けてその船体に風穴を開けていったりと、まるで映画のワンシーンを見ているかのような活躍ぶりをみせていた。
それでも敵の勢力はなかなか削れてはいないし、味方にだってかなりの損害が出ている。
その状態で、背後にいる『グングニール』がいつ動き出すかと思うと気が気でない。
側面攻撃の別部隊がはやく到着してくれるのを待っているわけだが、もしかすると『グングニール』が放たれてから接敵するつもりなのかもしれない。
ブレスキン大将ならそんなことはしないだろうけど、デールトリング中将だったらやりかねない。
そんなことを考えているうちに、時間と両軍の損耗だけが増えていき、ついに『グングニール』が動き始めた。
てっきりすぐに敵軍が退避するかと思っていたのだけど、そんな様子はないので、まだ撃てないか、はたまた移動するかと思っていたのだが、なんと、『グングニール』の砲身にエネルギーが溜まり始めた。
敵側も驚いた様子で、慌て退避を始めるが、厚い守りにしていたために、すぐに身動きが出来ないでいた。
味方はまだ余裕はあったが、完全退避できるか
というと不可能に近い。
そう全員が覚悟を決めた瞬間、『グングニール』の上方から深紅の光線が『グングニール』の船体を貫いた。
再開はしましたが、色々怪しいかも……
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