モブNo.141:「他に被害がいかないようにだけ、お願いしてくれ……」
惑星イトタキアが宇宙の塵となってから12時間後。
距離を置いての帝国対星王国の戦争は完全に膠着状態におちいった。
あれだけの火力を見せた星王国の巨大兵器だが、何故かそれ以上動く気配がなかった。
おそらくエネルギーチャージに時間が掛かるのだろうと判断すると同時に、そう見せ掛けての罠という可能性もあり、下手に動けないというのが実情だった。
そんななか、星王国宰相であり侯爵であるカイエセ・ドーウィンが星王国国民に向けて演説を打った。
生中継と表示してある画面には、いわゆる演説台が設置され、豪華な服を着た濃い感じの男が画面に映り、その後ろには、例の巨大兵器が映し出されていた。
『今、この場に集まってくれた者達は、真の貴族としての誇りを持つ同志であると確信している!
そしてさらに、惰弱となった帝国に残る真の貴族としての誇りを持つもの達も、我等が同志としてここに迎えている!
我等がネキレルマ星王国は、幾度にもおける帝国からの侵略行為を受け、その領土を減らしていった。
そして100年もの間、領土を奪われたままという屈辱を味わってきた。
そしてその領土を奪い返す事が出来なかったのは、ひとえに帝国が強靭であったからだ!
しかしながら今!帝国は弱体化している!
真なる帝国の民である貴族を迫害し、あろうことか資源である平民共を優遇する方策を実行したからだ!
私は惰弱となった帝国を滅ぼし、ネキレルマ星王国を再び巨大な星間国家として再興する!
その為に、先代国王陛下より、この私カイエセ・ドーウィンが、新たなる国王の座を拝命した!
しかしながら、諸君等の中には不安を抱いているものもおおいだろう。
しかし安心したまえ!この私には神の力がある!
全ての者が見たであろう!惑星を砕く神の光を!
愚かな帝国の者共は、この光の前にひれ伏すしかないのだ!
その神の光を放つ神の船は超々極大型戦闘艇『グングニール』!戦の神オーディンが持つ神の槍の名を冠した、星王国の勝利の槍である!
その槍をもつ我等こそ勝利者であり、我等こそこの銀河に覇を唱える者であり、支配者となるべきものなのだ!
この私に続け!さすれば未来永劫の勝利者を約束しよう!』
演説が終わると同時に大喝采が起こり、カイエセ・ドーウィンが満足そうな表情をしながら片手を上げていた。
もちろんこの演説は、帝国側でも視聴できた。
僕達の乗っている航空母艦は、カラレマ嬢達の死を悼みつつも、いまだにネキレルマ本星の包囲に参加するべく移動中だった。
例の演説が始まったのがたまたま夕食時だったのもあり、僕の知り合い達もそれを見ていたわけで。
「いままで色々ちょっかいかけてきて、挙げ句戦争仕掛けてきたのは、あの惑星破壊兵器を手に入れたからかい」
モリーゼはノンアルビールを片手に吐き捨てるように鼻で笑っていた。
「神の槍……ね。もしそうなら、人間の手に収まるもんじゃねえと思うがな」
「なんでしょう……思春期特有の病気みたいな演説ですね」
モリーゼ同様にノンアルビールを傾けていたバーナードのおっさんと、セイラ嬢のやり取りを聞いた、レビン君とランベルト君が不自然に目を逸らしていた。
「こんな人間に政治を任せて大丈夫なんでしょうか?」
「噂じゃ。ネキレルマ国王の病気はこいつが感染源って話だ」
「それってそれってウイルスを使った暗殺って事じゃないですか!」
ロスヴァイゼさんは不思議そうな表情をし、ダンさんとシオラ嬢はカイエセ・ドーウィンの悪評を話していた。
「向こうに付いた傭兵も多いんでしょうか?」
「そんな多くは無さそうだけど、傭兵としてはどちらについても咎められる理由はないわね」
アーサー君とアルプテト嬢は、向こうに付いた傭兵の数を心配していた。
もちろん『グングニール』なる古代兵器の脅威があるのはみんなわかっているはずだけど、できるだけ考えたくないのが本音だろう。
ある2人を除けば。
ともかく僕がいますることは、意見を求められないように、じぶんの船に戻る事だ。
☆ ☆ ☆
【サイド:カイエセ・ドーウィン】
私は片手を軽く上げ、貴族からの大喝采に答えながら、壇上を後にする。
「素晴らしい演説で御座いました。陛下」
「なあに。大したことではない」
秘書官の本気の称賛に、私は気分良く歩を進める。
前国王が使用していた、そして今はこの私の執務室に入り、冷えたスパークリングワインで喉を潤していると、『グングニール』から定時連絡が入った。
「私だ」
『定時連絡です。現在「グングニール」のエネルギー充填率は25%。次弾発射までは、やはり48時間は必要なようです』
「連射が出来ないのは歯がゆいが、帝国の連中は罠かどうか疑っているだろうからな。せいぜい悩ませておけばいい。ミスが無いように整備は怠るな」
『了解いたしました。それから陛下、素晴らしい演説でした』
「ありがとう」
連射が出来ないのは問題だが、神の裁きとしては無駄撃ちも良くないからな。
そのあたりをうまく使えば、帝国を滅ぼし、私が銀河の覇者となるのも夢ではない!
星王国国王も、私の手の者が病原菌を投与したとは夢にも思っていないだろうし、気がついたところでもう遅いがな。
私はグラスにスパークリングワインを注ぎ、未来の銀河の覇者となった自分に乾杯した。
☆ ☆ ☆
【サイド:ランベルト・リアグラズ】
ネキレルマ星王国の新国王の演説が終わってから30分後。
僕はロスヴァイゼの船内で、あの超兵器が惑星イトタキアを破壊する映像を見ていた。
はっきり言ってとんでもない映像だが、僕は不思議とそこまで脅威には感じなかった。
「なあ、ロスヴァイゼ」
「なに?」
人間型分体のロスヴァイゼは、本体のチェックに余念がなかった。
「あの『グングニール』とかってのどうにか出来たりするのか?」
おそらくあの超兵器は、彼女と同じ古代兵器かなと思ってそう尋ねたところ、
「出来るわよ」
「マジ?」
「あれってさ、惑星型兵器のための砲撃艦なのよ。だから十全に動かすには、エネルギーチャージフィールドが必要なの。今は多分メンテナンス用の艦橋で動かしてるんだと思う。だから、敵艦隊全部簡単に操れるわよ」
とんでもない答えがあっさりと返ってきた。
流石は古代の電子戦機、やれる事が違う。
「だったらあれを恒星にでも突っ込ませてくれよ。あんなの食らったらひとたまりもない」
「でもそれだと他の人たちが納得しないわよ。どうせなら破壊はゲルヒルデ姉様にお願いしましょう」
「姉様って赤いビーム撃ってたあれだよな?」
このロスヴァイゼの姉妹船・ゲルヒルデは、電子戦機のこいつと違い、基地や艦隊の上空の防御を担当する要撃戦闘機で戦闘力は倍以上違うらしい。
アバターは黒髪ロングで、クールで冷静沈着な印象だった。
「ええ。まあゲルヒルデ姉様でなくとも、私でも十分ですけどね」
ロスヴァイゼは得意げにポーズを決めたりしてくる。
「じゃああれが出てきた時には、俺たちが対処する。で、いいよな?」
「ゲルヒルデ姉様には連絡しておくわ」
そういってロスヴァイゼがゲルヒルデに連絡したところ、
「……なんか、姉様がめちゃくちゃ乗り気なんだけど……」
「他に被害がいかないようにだけ、お願いしてくれ……」
ゲルヒルデのやる気にロスヴァイゼが引いてしまっていた。
書籍の作業がやっと終了しました……。
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