モブNo.134:「お久し振りですね。何か御用ですか?ノスワイルさん」
結論から言うとアーレスト・ゼインは、セクシャルハラスメントの被害者であるアルフォンス・ゼイストール氏が被害届を提出し、それが受理されたため、セクシャルハラスメントの現行犯として、警察に逮捕・連行され、その結果をもって傭兵ギルドからの懲戒解雇が言い渡された。
そして彼が警察に連れていかれた後は、俄然ゼイストール氏の正体の話になってくる。
男女関係なく話しかけたい雰囲気であったところに、最初に話しかけたのはローンズのおっちゃんだった。
「お前さん。グランドマスターの孫だったんだな」
とはいえローンズのおっちゃんはあんまり驚いた様子はなく、『お前の出身地はそこだったんだな』ぐらいの感じだった。
「黙っていてすみませんでした。それにここに着任する前に、査察部からの協力要請で、内部調査も行っていました」
騙したわけでもないのに、ゼイストール氏が謝罪をする。
「いえ。特別扱いをされたくないというのはよくわかります。評価の全てが自分の実力ではなく、その後ろを見て判断されている気になりますからね。査察部と繋がっていたのは驚きですが」
それに対して、ミーヤ・アウシム嬢が心情を理解したように声をかける。
もしかすると、同じような経験があるのかもしれない。
そして話は、何故アーレスト・ゼインが職員として採用されてしまったかの、ゼイストール氏の考察と事実の報告が始まった。
「本部曰く、昨今のギルド職員の質の低下には頭をなやませていました。
特に受付係は花形なだけに希望する人数が多く、ふるい落としも大変なんだそうです。
おまけに祖父の就任前からいた不良職員や教官も多かったらしく、金銭やその……色仕掛け的な事をしてふるい落としから外してもらっていたのもいたそうで、以前のエテシナ・スピーホーチェがこれに当たります。
アーレスト・ゼインは、総本部総帥である祖父が、孫である私の情報を一切出さなかったこともあり、その孫である私とイニシャルが同じであるという情報をどこかで入手し、これ幸いと成りすまして、不良教官に祖父の権力や現金をちらつかせて合格させたんでしょう。
彼と同期で、同じカリキュラムにいた人が同じ現場に1人もいないのは、バレないようにする為の処置でしょう。
今回の一斉査察で不良職員や教官も一掃されますし、新しい育成プログラムもより一層厳しいものが作成されるそうですから、今後は多少はましになるはずです」
「それでも、採用までは猫を被ってるのもいるだろう?」
「おじいさ……いえ、総本部総帥がおっしゃるには、そのあたりを見破るためのカリキュラムなんかも制作するそうです」
いままでのうっぷんもあったのか、一気に話していくゼイストール氏に、ローンズのおっちゃんが横槍を入れるが、ゼイストール氏は綺麗にかわしていく。
そのあたりの話はなかなか終わらないだろうと思っていると、
「気にはなるだろうがそこまでだ。ただでさえ支障がでているんだ。業務に戻ってくれ」
ワーデル部長からの鶴の一声がかかり、みんな業務に戻っていった。
ゼイストール氏が偉い人の孫だったのは、びっくりだったけど、彼の仕事への姿勢を考えると、心配することはないだろうし、他の人達もこれからはきちんと応対してもらえるならそれでいい。
そんなことを考えていると、ふと昨日の事がおもいだされて、ローンズのおっちゃんに尋ねてみたところ、
「そういえば、昨日メールした件はどうするわけ?」
「ほっとくしかねえな。ギルドに乗り込んできたわけじゃねえし、傭兵達のプライベートまで干渉はできないしな」
まあもっともな話だった。
極端な話、連中の勧誘で傭兵が所属変えをすると言ったとしても、ギルドは引き留めることはできないし、ギルドの施設や運営に直接被害がない限り、連中を取り締まる訳にもいかないからね。
そうしてギルドを出た後は、昨日は行かなかった『アニメンバー』および『せいざばん』に向かった。
残念ながら僕好みの新作はでていなかったけど、『せいざばん』の方で以前買い逃した同人誌があったので即座にゲットした。
そうしてほくほくで帰路についていると、目の前に見知らない女性が立ちはだかった。
ハイヒールにフレアースカート、なんかお洒落な名前なんか知らないノースリーブに、高級そうな時計とブレスレット、背中まである長い黒髪につばの広い帽子に高そうなサングラスという、女優さんかトップモデルみたいな人だった。
この時点でなんとなく嫌な予感がした。
自分のような人間に話しかけてくる女性は限定される。
しかもハイヒールをはいているせいか、190cmくらいはありそうな女性とくればなおさらだ。
なので、出来るだけ小声で声をかけた。
「お久し振りですね。何か御用ですか?ノスワイルさん」
目の前の女性はサングラスをずらすと、
「バレないと思ったんだけどね」
小悪魔っぽく舌をだした。
「それで本当に何の御用ですか?」
「いえ。たまたま見かけたから声をかけただけよ。今日は純粋なoff」
ノスワイルさんはすぐにサングラスをかけ直し、ちょっとだけ周囲を警戒した。
周りからは、僕なんかが話しかけてはいけない&向こうから話しかけられたらその日1日ラッキー!みたいな美人が何で一緒に居るんだ?的な、僕にとっては痛い視線がくるだけで、プラネットレーサーのスクーナ・ノスワイルだとは気づかれてないから大丈夫だお。
しかし同時に、ある不安も浮かんでしまった。
「そうだ。ノスワイルさん。最近、反帝国民間解放組織らしい連中が勧誘活動をしているみたいですから気を付けて下さいね。主な狙いは僕たち傭兵みたいですけど、ノスワイルさん達プラネットレーサーも狙われてるのかもしれませんし」
「えっ?!そうなの?!」
僕の言葉に、ノスワイルさんは随分驚いた表情をしていた。
反帝国民間解放組織が、傭兵=戦闘艇乗りを集めているなら、ノスワイルさん達プラネットレーサーが狙われてもおかしくない。
いろいろキナ臭くなってはいるものの、煌びやかな世界に居る人には縁の無い話だろう。
変装しているいまは大丈夫でも、レース場やチームの人達と一緒にいる時だと危ないかもしれない。
当然ボディーガードや警備の人がいるとはおもうけどね。
「まあ、プラネットレーサーが出入りするところは、チームの人達や警備の人達がいるから大丈夫でしょうが、警戒するにこしたことはありませんからね」
「マネージャーやチームの人に伝えておくわ」
僕の忠告に、ノスワイルさんは真剣な表情を浮かべ、
「じゃあ、私は予定があるからこの辺で失礼するわね」
「はい。次回のシーズンでのご活躍をお祈りしていますよ」
にっこりと笑顔を浮かべてその場を後にした。
☆ ☆ ☆
【サイド:スクーナ・ノスワイル】
「……もしもし。ちょっと聞きたいことがあるのですが…」
「ええ。どこかの派閥が勧誘活動を始めてませんか?」
「してない?……ですが現実に反帝国民間解放組織らしき集団が勧誘活動をしているようです」
「わかりました。すぐにもどります……」
★ ★ ★
ノスワイルさんと別れた後は、夕食の買い出しなんかを終わらせて自分の部屋に帰り、同人誌を読んだり、アニメを見たり、スレッドで下らない話をしたりしてその日を楽しく終わることができた。
の、だが。
『臨時ニュースを申し上げます。銀河大帝国政府本日午前8時30分発表。隣国ネキレルマ星王国が、本日午前8時15分に我が国に対し、正式な宣戦布告を発表。現在隣接宙域では散発的な戦闘が発生しております……』
ちなみに新しい育成プログラムの指導教官の1人に、元エリート軍人で『妖精』とか『最前線の悪魔』とか呼ばれていた女性がいたりしますw
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