モブNo.132:「いえ。結構です。貴族に喧嘩売るなんて怖くて出来ませんから」
こびりつき女達が抵抗する気力を放棄するとほぼ同時に警察が到着し、彼女達一行を即座に連行していった。
現場に居た全員に事情聴取が行われたが、それも迅速に終わった。
監視カメラに一部始終、音声付きでバッチリ記録されていたのがその理由だろう。
警察の事情聴取が終了すると、直ぐにローンズのおっちゃんから報酬を受け取った。
疲れてるのもあるけど、ギルドにいて嫌なのに絡まれたくないというのが本音だ。
なので、ギルドを出たあとは真っ直ぐうちへ帰る予定、だったのだけれど、その途中に嫌な連中、つまりはこびりつき女と仲のよかった貴族傭兵達を見つけてしまった。
連中に絡まれないようにギルドを出てきたのに、出先で出くわすなんて本当に運が悪い。
だが幸いなことに、向こうはこっちに気がついていない。
なぜなら、怪しげなフードを被った人物と、何やら話し込んでいるからだ。
会話の内容は聞き取れないが、連中は相当に興奮し、歓喜しているようだ。
あんな連中が喜んでいるなら、良くない話っぽいのはなんとなく推測できるので、関わらないようにするのが一番だ。
そうして離れようとしたところ、連中に話しかけてきたのとは違う人物ではあるけれど、お仲間らしいフードの人物が話しかけてきた。
「ちょっとよろしいですか?貴方。少し前に傭兵ギルドからでてきたでしょう?ごまかしても無駄ですよ。みていましたからね」
身長は160㎝ほど、声からして女の人だ。
「それで、私に何用ですか?」
「貴方……帝国の植民地民の方ではありませんか?」
帝国首都ならともかく、植民地惑星で『貴方は植民地民ですか?』って、学校の敷地内で『貴方学生ですか?』って聞くようなもんじゃないか。
「もし貴方が植民地民なら、帝国国内でも不当な扱いをされているのではありませんか?特に貴族に」
それは植民地民だけじゃなく、貴族以外の平民は皆そんな感じだ。
「そんな貴族に合法的に仕返しができる話があるのですが……お聞きになりますか?」
女性が艶っぽい声を出して1歩踏み出してきたので、
「いえ。結構です。貴族に喧嘩売るなんて怖くて出来ませんから」
断りのセリフを言って、そのまま早足でその場をはなれた。
幸いついては来なかったので、取り敢えず安堵した。
正直乗るわけないよねあんな怪しい話。
貴族傭兵達に対してのアプローチは変わっているとしても、似たような話であの連中を吊り上げたんだろう。
取り敢えず、通信で怪しい勧誘があったことだけはローンズのおっちゃんに報告しとくかな。
それから僕は、帰宅を変更して闇市商店街に向かった。
あの例の肉屋で『地の底の生命を擂り潰しモノにて顕現する至福の黄金』を6個ほど購入してから、パットソン調剤薬局に向かった。
「ういっす」
「よう……。国境線はどうだった?」
「むこうさんは普通な感じだったけど、味方に面倒臭いのがいたかな……」
「なんだよそれ?まあ無事でなによりだ」
普段と変わらない様子ではあったが、こいつなりに心配はしてくれていたらしい。
取り敢えず、炭酸飲料で無事を喜んで乾杯し、『地の底の生命を擂り潰しモノにて顕現する至福の黄金』=コロッケを食べることにした。
「そういえば、街中で変な勧誘があったんだけどさ」
世間話的に、さっきの勧誘の事を話そうとすると、
「あれか。最近色んなところの傭兵ギルド周辺にうろついているらしい。少し前に調査してくれって依頼があったよ」
ゴンザレスは真剣な表情になり、カウンターをトントンと指で叩く。
これはつまり、金を払う必要のある情報という事だ。
「結果はどうなったの?」
なので、カウンターに代金を置く。
「反皇帝派の連中の勧誘だ。貴族の傭兵には『今の皇帝を倒して、正しい貴族のあり方をしめしませんか?』てな感じ、平民や俺たちみたいな植民地民には『貴族に合法的に復讐しませんか?』てな内容で勧誘してるらしい。まあ実際には反帝国民間解放組織が反皇帝派みたいな顔して裏で糸を引いてる感じだな。やり口からみると『吸収派』か『殲滅派』だな」
大体は予想していたけどやっぱりかぁ。
無視して正解だったね。
ちなみにこの反帝国民間解放組織には現在4つの派閥があるらしく、
『独立派』…植民地になっている国々を独立させ、帝国の力を削ぎ落とすのが主目的。帝国自体は残る。
『吸収派』…植民地になっている国々を独立させ、帝国を解体し、領地は周辺国に吸収させる事が主目的。帝国は消滅する。
『民主派』…皇帝・貴族を廃止し、合議制の政治に切り替えるのが主目的。帝国は消滅する。
『殲滅派』…民衆の味方をしない貴族達を殺害しまくるのが主目的。民衆の味方をする貴族にも威圧的。帝国の存続には興味がない。
と、なっているらしい。
貴族が嫌いなだけの『殲滅派』以外は、それぞれ御高説を宣ってるけど、3つともまあ手放しで信用は出来ないよね。
後々の利権を欲しがってるのが見てとれる。
そうなると『殲滅派』が一番純粋な気がしてくるから不思議なもんだ。
その後は『スティールシャフトシリーズ』のリメイクコレクションのプレイ感想やら追加要素やらについて、処方箋を持ったお客がくるまで話続けていた。
こびりつき女が逮捕され、ゴンザレスとゲーム談義をした翌日。
昨日は閑散としていたギルドの受付は、沢山の職員で溢れかえっていた。
僕はいつも通りにローンズのおっちゃんのところに行き、現状を尋ねてみた。
「補充の人来たんだ」
「ああ、今朝な。ほとんどは優秀なんだが……やっぱり不良品が混じっててな」
ローンズのおっちゃんが指を指した方向には、若い男性職員がいて、女性傭兵の手を握り、
「じゃあこの依頼、うけてくれるね?終わったら、お土産も忘れないでね♪」
と、まるでホストのようなセリフを吐いていた。
それだけなら問題なさそうに思えたのだけれど、
「あいつ、最初の挨拶の時に『俺は超優秀なんで女の子しか担当しない』とか抜かしやがってな」
それは確かに不良品でしかないなあ……。
「なんで採用されてんの?」
「合格するまでは猫を被ってたんだろうな。最近はその辺りも調査するらしいが、それをすり抜けてきたってわけだ」
それだけのことができるんなら、ある意味本当に凄く優秀な人物なのかも知れない。
「まあ、不正さえしなければいいんじゃない?」
「だといいんだけどな……」
まあ、彼には関わらないようにすれば、問題なんてないはずだよね。
きりのいいところできったら短くなってしまいました
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