モブNo.130:「あいつは絶対に俺が仕留めてやる!」
理由はよく解らないが、『人食薔薇』いや、『緑柱石の薔薇』と呼ばれた女王階級のカティ・アルプテト嬢と組まされる事になった。
当然だが、巡回の仕事は何事もなく順調にいった。
しかし、巡回の2周目に入った時、
『ねえ。ちょっと聞いていいかしら?』
「なんですか?」
『どうして貴方に対して暴言をはいたり、貴方をおとしめる発言をしている新人の事を運営やギルドに報告したり、本人に抗議したりしないの?』
なぜかアルプテト嬢に、仕事以外の話題で話しかけられた。
しかも内容が、テノン・カラレマ嬢のやらかしている事についてだった。
まあそれに関しては返答は決まっている。
「簡単です。運営やギルドに報告しないのは、運営やギルドが対処してくれないからですよ。貴女ならご存知でしょうし、理解もできると思いますが」
『そうよね。短期雇いの運営がそこまでやる義理はないし、ギルドは依頼人に迷惑がかかったり、殺人に発展しない限り、傭兵同士のいざこざには介入しないものね』
女王階級の彼女が、運営やギルドの方針を知らないはずはなく、そこはあっさりと納得してくれたらしい。
「それと、ああいう人は基本人の話は聞きません。自分に都合のいい部分だけで話が完結してしまっていますからね」
これは、僕のいままでの経験から導きだされた答えだ。
『なるほど。軽く釘を刺したけど行動を改める可能性は低そうね』
そんなことを言いながら残念そうにため息をつく様子を見るに、彼女は後進の育成なんかに力を入れているんだろうか?
だとしたら本当に凄いことだ。
僕には絶対に無理だね。
そしてそれ以降は、仕事に関すること以外、特に会話をすることなく巡回は順調に進んでいった。
☆ ☆ ☆
【サイド:カティ・アルプテト】
彼が強いのは、敵部隊のエースらしい機体と格闘戦をしているのを見た時に理解したわ。
そして今日横に並んで飛んでみて確信に変わった。
私が彼に勝利するのは至難の技だと。
普通に飛ばしている軌道や制動からして違うのがわかる。
なのにどうして彼は、あのテノン・カラレマの態度や所業に対して反論なり実力を思い知らせるなりしないのかが疑問だった。
でも彼の話を聞いて納得したわ。
たしかにギルドや運営に期待するだけ無駄でしょうね。
そして彼がわりと冷めている人なのもわかったわ。
いわゆる熱血な感じの人なら、彼女のようなタイプをみるとほうっておけなくなり、注意をしたり助言をしたりして、結果彼女の生存率をあげにいく。
でも彼はそれをしない。
彼女があんな感じのままでいけば、いずれなにかのミスをしでかす事を理解していても、手を差し伸べる事をしていない。
つまりは、彼女がどうなろうと興味がないというわけ。
酷い対応ではあるけれど、全て自己責任の傭兵の世界では、本来当たり前のことなのよね。
それを考えると私が甘いのは間違いない。
彼と組むことができたりしたらそのあたりは改善できるかしらねぇ……。
☆ ☆ ☆
【サイド:unknown】
航空母艦の格納庫に様々な戦闘艇が並べられている。
その中に、燃料補給を受けている4機と、修理を受けている1機があった。
そしてその近くでは、3人の男と2人の女が水分補給をしていた。
その中の、ストロベリーブロンドでロングヘアーの女が、使い捨てのプラコップを忌々しげに握り潰すと、
「私は報告にいってくる!お前たちは今回の偵察任務における失態を反省していろ!」
と、言い放ち、プラコップをもう1人の女に放り投げ、怒り心頭といった様子でその場を後にした。
プラコップを放り投げられた金髪でショートの女は、そのプラコップを床に叩き付け、
「何が失態を反省しろだ!父親のお陰で高い階級なだけで、上官に尻を振る事しか出来ない貴族令嬢が偉そうに!敵の援軍にビビって操縦ミス。その隙を狙われて軽いのを1発もらっただけでさらにビビって撤退命令を出したくせに!」
立ち去った女に対しての怒りを顕にした。
「自称エース様は慎重でいらっしゃるからな。俺達がいなきゃ最初に来た奴にすら落とされかねないくらいに」
ポンパドール&リーゼントの男が、自慢のヘアスタイルに櫛を入れながら、金髪ショートの女に同調する。
「隊長や俺達の成果を、そのまま自分の手柄にしなければ無能のそしりを受けるからな。自分が帰還したあとに我等が手柄をあげたら面目丸潰れだ。仕方なかろうよ」
顔に傷のある男が、はははと笑いながらプラコップの中身を飲み干す。
「おいおい。俺は今は副隊長だぞ。あのお嬢ちゃんが聞いたら癇癪起こして面倒くさいんだから気を付けろ」
そして、隊長と呼ばれた細身の男もプラコップの中身を飲み干し、部下達を笑いながらたしなめる。
「で、どうだったんですか隊長?」
全員でひとしきり笑うと、金髪の女が細身の男に声をかけた。
それをきっかけに傷の男とポンパドール&リーゼントの男も真剣な表情になる。
「ヤバいの一言だな。俺の『トリックバック』をかわした上に、俺の動きに完全についてきた。落とされると思った瞬間が何度もあったぜ……」
細身の男は興奮を押さえた様子で、先ほどの敵の評価を始めた。
「隊長が?!」
「本当に?!」
「信じられねぇ……」
部下達は全員が驚愕の表情を浮かべる。
自分達のリーダーが、相手をここまで評価する事自体まずあり得ないからだ。
「だが楽しかったぜ!いつ落とされるか解らねえ緊張感!相手を追いかけている時の高揚感!一瞬でも危険信号がなった瞬間の恐怖と、それから逃れた時の安堵と達成感!お嬢ちゃんの撤退命令がなきゃ決着をつけたかったぜ!」
細身の男は悔しそうに、右の拳を左の掌に打ち付ける。
「あの女は一回わからせた方がいいんじゃないですか?」
金髪の女が忌々しげに提案する。
「面倒だから止めとけ。どうせ何かあった時には自滅するだろうからほっときゃいいんだ」
「まあそうですかね」
「それを楽しみにしますか」
「私は今すぐにわからせたいです」
男たちは笑い飛ばしているが、女だけは不満そうな顔をしていた。
「まあいずれは会えるさ。その時には決着をつけてやる!」
細身の男は、歓喜の表情を浮かべながら、自分を殺しうる相手との再会を待ち望んでいた。
「あの薄茶色がやられたらどうするんですか?」
「まずありえねえな。うちの軍に俺くらいの奴はそんなにいないからな」
金髪女の心配を、細身の男は一蹴する。
そして獲物を見つけた肉食獣のような、嬉しそうな笑みを浮かべると、
「あいつは絶対に俺が仕留めてやる!」
手に持ったプラコップを握りつぶした。
この作品が、次にくるラノベ大賞なノミネートされたらしいです。
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