モブNo.129:「そうやって相手を侮っていると、いつか痛い目をみるわよ」
白地に片翼金色部隊と遭遇した後の非番の時間。
談話室エリアで、テノン・カラレマ嬢が何人もの人間に取り囲まれ、得意顔で自分の武勇伝を語っていた。
「私はたった一人で5機を相手にして、一撃も被弾せずに耐えきって、たった一撃反撃しただけで敵を撤退させたわ!たった1機に追い回されていたポンコツと違ってね!」
最後のポンコツっていうのは、まあ確実に僕の事をいってるんだろう。
事実だけ言えばその通りなので、特に反論することもなく、さっさと与えてもらった自分の部屋に帰ろうとした。
「ウーゾスさん。ちょっとよろしいですか?」
の、だけれど、なぜかディロパーズ嬢に声をかけられた。
僕としては彼女に用事はないんだよね。
それに、彼女の取り巻きたちがこっちを殺しそうな雰囲気で睨み付けてきてるし。
とはいえ無視をしたりすると余計にヤバいだろう。
「えーっと……何か御用?」
「あの彼女の言っていることは真実なのですか?」
ディロパーズ嬢は、一応は友人?であろうテノン・カラレマ嬢の発言を疑っているらしい。
「まあ、彼女が5機相手に落とされなかったのは事実だし、僕が1機相手にてこずったのも事実、彼女が1発撃ったら敵部隊が逃げたのも事実だからね」
「真相はどうなんですか?」
「真相というのは?」
「彼女は『自分は華麗に5機の敵をあしらい、一撃で敵に恐怖を与えて追い返した。でも一緒にいた騎士階級のキモオタはなんの役にも立たなかった』と。私はこれが真実とは思えません」
ディロパーズ嬢はなかなか勘がいいらしい。
でもはっきりいってそれを否定するのも面倒臭いし、手柄で目立ちたくもないのでこのままにしておくのがいいだろう。
事実を言って彼女の更正に協力してくれと言われるのも嫌だしね。
「いいんじゃない?彼女がそういってるんだし。じゃあそろそろ失礼するよ」
それに、さっきからディロパーズ嬢の取り巻き達が限界ギリギリな表情をしてるから、早いところ退散することにしよう。
☆ ☆ ☆
【サイド:シオラ・ディロパーズ】
ウーゾスさんはそそくさといってしまった。
私がその背中を見つめていると、
「シオラちゃん!大丈夫?」
と、焦ったように声をかけてきた人物がいた。
さっきまで話題にしていたテノン・カラレマさんだ。
知り合った当時は明るくてノリのいい感じの子といった感じだった。
でもここに来て2日目からは、私に付きまとっている人達以外の人が話している彼女の評判は、あまり良くないものが多い。
「別に何も問題はないですよ」
「でもあのキモオタに話しかけられてたじゃない!」
彼女はなにを見ていたのかしら?私から話しかけたのは一目瞭然だというのに。
「あれは私から話しかけたのだけど」
「えー?!あんなのと何の話があったの?」
彼女は不快感を顕にする。
明らかにウーゾスさんを自分より下に見ている証拠であり、初陣の時の私自身を見ている気分だ。
「貴女が本当に5対1を制して、一撃与えただけで撤退したのかどうかを聞いていたの」
私はウーゾスさんに尋ねた内容を明らかにする。
すると彼女は明らかに動揺した。
「…それであのキモオタは…なんて?」
声にかすかに震えがあり、怯えているのがわかる。
「『彼女が5機相手に落とされなかったのは事実だし、自分が1機相手にてこずったのも事実、彼女が1発撃ったら敵部隊が逃げたのも事実』だそうよ」
私はウーゾスさんの言ったままを伝えた。
「ほら!私が言ったとおりじゃない!」
すると彼女は、勝ち誇った笑みを浮かべると同時に安堵の表情を浮かべた。
これは間違いなく何かしら隠している。
ウーゾスさんの言った、彼女が5機を相手にして撃墜されず、1発反撃したら撤退したというのは事実なのだろう。
でもなにかある。そう思って問い詰めようとした時、
「でも、貴女が反撃する前には、私を含む援軍が至近距離にいて、敵部隊がそれに驚いた隙に相手に一撃入れたようにみえたけど?」
不意に女性の声が聞こえた。
そこにいたのは、黒目で長い黒髪に白い肌の女性。
『人食薔薇』、じゃなくて『緑柱石の薔薇』のカティ・アルプテトさんだった。
そのアルプテトさんの発言に、彼女=カラレマさんが明らかに動揺したのが分かった。
「だとしても!私がそれまで5対1で耐えていたのは事実です!」
反論はするものの、流石の彼女も女王階級のアルプテトさんには失礼な言葉は使わないらしい。
「あら、私が見た時には4機で、1機は別の人が相手をしていたわよね?」
「あのキ……騎士階級は遅れて来たんです!でもあいつはたった1機に死ぬ程てこずっていたんです!」
「でも私が見る限り、あの時の敵部隊の中で一番の手練れは貴女と組まされていた彼が相手をしていた機体に思えたわ。それと互角にやりあってたんだから、彼もかなりの手練れって事になるわね」
「見ただけでわかるはずないです!なによりあんなのが強いわけないじゃないですか!敵部隊だって私に攻撃を当てる事が出来なかったのに!」
ヒートアップする彼女とは対称的に、アルプテトさんはずっと冷静だった。
しかし不意にため息をつき、
「そうやって相手を侮っていると、いつか痛い目をみるわよ」
そう言い放ったアルプテトさんの表情は、物凄く冷徹な表情をしていた。
彼女はその表情に気圧され、ぐっと押し黙ってしまった。
「まあ、一緒に行動する人間に迷惑をかけないようにすることね」
アルプテトさんはそれだけ言うと、その場を後にした。
私は声をかけようと思っていたのだけれど、なんとなく気圧されてかけることができなかった。
★ ★ ★
翌日。
巡回の相棒を見て驚いた。
「知っていると思うけどあらためまして、カティ・アルプテトと申します。今日はよろしくお願いしますわね」
まさか『人食薔薇』いや、『緑柱石の薔薇』と呼ばれた女王階級のカティ・アルプテト嬢と組まされるとは思わなかった。
確かに彼女も雇われた傭兵だから、巡回の仕事をするのは当たり前の事だ。
そして、社会人であるからしてビジネススマイルをするのも理解できるのだが、何で妙に不敵そうな笑みを浮かべているのかがわからない。
「ど、どうも。ジョン・ウーゾスと申します」
とにかく失礼にならない様に挨拶を返す。
「ではいきましょうか。階級は私の方が上ですから私の指示にはしたがってちょうだいね」
「は、はい」
傭兵としては当たり前のやり取りをして、巡回の仕事が開始された。
少なくともテノン・カラレマ嬢みたいなことにはならないはずだ。
今現在、2巻やら別作品の書籍制作にプラスしてリアルに忙しくて執筆が滞り中。
おまけに急に寒くなっての冬支度が大変……
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