モブNo.128:『つまりこれを私一人で撃退したら、英雄間違いなしじゃないの!』
ディロパーズ嬢の取り巻きのテノン・カラレマ嬢と組まされた日の夜は、色々と良くなかった。
食事はなんとなくハズレだったし、シャワーの温度は安定しないし、『スティールシャフトシリーズ』の攻略も上手くいかなかった。
しかし翌日の相棒は、元からこの宙域で警備として働いているという中年の男性で、しかも巡回ルートが昨日と違っていた。
そんな人が相棒であったわけだから、初日と違って一切のトラブルが起こる事なく平穏に1日が過ぎていった。
その翌日はまた違うルートで、募集に応じた城兵階級の女性の傭兵が相棒だった。
もちろんディロパーズ嬢の取り巻きであるはずもない落ち着いた感じの人で、普通に挨拶をして普通に巡回をすることができた。
どういう事なのか管理部に確認したところ、同じ相手と組ませず、巡回コースまで変えるのは、慣れやダレを防ぐ為なのだとか。
その確認内容のとおり、翌日もルートが変わり、相棒も、気の弱そうな兵士階級の青年傭兵や、ディロパーズ嬢の取り巻きではない、明るい感じの兵士階級の女の子傭兵。
バーナードのおっちゃんとは違う感じの、騎士階級のじいさん傭兵。
果ては子供を連れた城兵階級の母親傭兵と、日々違う相手と組む日が続いた。
初日はハズレに当たったが、後の6日間は非常にありがたいアタリの6日間だった。
お陰で、食事もアタリ続きだったし、シャワーも安定していたし、初日はあまり進まなかった『スティールシャフトシリーズ』も、調子よくガンガン進んでいった。
しかし、その6日間が過ぎた8日目。
ルートは違うが、またあのディロパーズ嬢の取り巻きであるテノン・カラレマ嬢と一緒のシフトになってしまった。
最後の抵抗とばかりに、シフトはループをするのかと管理部に尋ねたところ、本当は別の人間と組ませるつもりだったが、その人物が急病で倒れ、本来僕と組むはずだった人が急病人の友人で、そのまま病院に付き添う事になったらしい。
こうしてまたテノン・カラレマ嬢と組むことなったわけだけど、態度は前と一緒。
そしてまたルートをはずれ、教えたら逆ギレという以前と全く変わらない状態だった。
僕は、心を無にするというこういう連中への対処法を実践しながら、早く終われとだけ願っていた。
が、この日は普段とは違うこと、というか、起きるであろう事が起こった。
「ちょっと止まって下さい。レーダーに反応有り。1時方向、距離4億5000万。数は判明しているだけで5。取り敢えず報告して、待機しておきましょう」
おそらくネキレルマ星王国関係の船だろうし、数もまだ特定できてないから、監視だけに留めて援軍を呼んだ方が得策だ。
場合によっては彼等は斥候部隊で、本隊が近寄って来ている場合だってあるからだ。
しかし、
『でたわね!私が蹴散らしてやるわ!』
「ちょっと!報告して指示をあおがないと!」
やっぱりこのタイプの人は、こっちの指示なんか聞くわけないよね。
スロットルを開いて敵の方向に向かっていこうとしたのを、僕の機体で通せんぼをして食い止めた。
ちなみになんで彼女に対して丁寧目に話しているかだけど、こういう人は、自分は他者に対してタメ口や上から目線の言葉を平気で使うけど、気に入った人物以外からのタメ口や上から目線の言葉には即座にブチ切れるからだ。
そういうことをするから相手が増長するんだと言われればそれまでだけど、彼女が増長した結果、彼女に不利益が生じたとしても、僕の責任でも知ったことでもない、彼女自身の責任だ。
まずは本部に報告をしましょうかね。
そしてその報告の結果、やはり近くに本隊がいるらしく、直ぐに援軍を送るから遅滞戦闘を仕掛けてくれとの指示があった。
普通に考えて遅滞戦闘はリスクが高い。
敵の足止めをするわけだから、後退・撤退は最後の選択、下手すりゃ撤退は許可されないとくる。
しかし彼女はこの命令を聞き、
『つまりこれを私一人で撃退したら、英雄間違いなしじゃないの!』
と、ますますヒートアップしてしまった。
実はソーシャル戦略シミュレーションゲーム『乙女戦史』の序盤のミッションに、同じシチュエーションがある。
主人公の所属する部隊が偵察中に敵の大部隊発見。その背後には重要施設があるため、援軍が向かうまで時間稼ぎをというものだ。
ゲームなら、序盤でも倒せるように敵の強さを調整してくれているが、現実では調整などしてくれるわけはない。
『私が英雄になる華麗な第1歩!あんたみたいな弱っちい奴はそこでぶるぶる震えてなさい!』
そういうと、彼女はスロットルを全開にして敵の居る方向に行ってしまった。
僕もすぐ追いかけたわけだけど、もちろん彼女が先に接敵した。
最初は順調だったみたいけど、僕が現場に到着する寸前には、
『なんで?!なんで私が張り付かれてるのよ!嫌っ!あっちいきなさいよ!』
と、涙声で相手に文句を言い始めていた。
敵部隊は、白地に片羽が金色の機体の5機編隊で明らかに彼女をいたぶるように追い回していた。
おそらく最初は追い込まれたふりをし、相手が調子に乗った所をいたぶり始めた感じかな。
逆にいえば、彼等が遊んでいたおかげで、テノン・カラレマ嬢は死んでないわけだ。
それにしても面倒だなあ。
手を貸したら邪魔だと言われるだろうし。
貸さなかったら彼女のお仲間、いるかどうかは知らないけど。に責め立てられるだろう。
どうしようかなあと考えていたところ、敵部隊の1機、白い羽の方に梟のマークが入った機体が1機、こちらに向かってまっすぐにヘッドオン
状態で近寄ってきた。
こうなったら戦闘をするしかないわけだけど、なんとなく嫌な感じがしたので、すれ違う寸前に加速して距離をとった。
予感は当たっていた。
向こうが『撃墜騙し』のような技を使って上を取ろうとしてきたからだ。
速度を上げていたおかげでギリギリさけられたが、嫌な予感がして速度を上げていなかったら危なかった。
それからは格闘戦の定番といえる後ろの取り合いが始まった。
ブレイク(急旋回)やらシザーズやらベクタード・スラスト(推力偏向)なんかを駆使してなんとか後ろを取ろうとするのだけど、簡単には取らせてくれない。
一瞬だけ攻撃できるタイミングができたりするが、なかなか当てられない。
もちろんこっちだって当たるつもりはない。
そしてはっきりいって、この白地に片翼金色の梟は、青雀蜂や正体不明の赤青コンビよりはるかに動きがいい。
傭兵のランクなら間違いなく王階級だ。
こんな実力者がいる部隊相手ではテノン・カラレマ嬢では勝てる訳がない。
そんな彼女は、さっきまで雑魚扱いしていた僕に対して、
『ちょっと!私がピンチなんだから早く助けなさいよ!』
と、救援を求めてきたが、こっちにそんな暇はない。
幸い他の4機がこっちに来ないからなんとかなっているが、参戦されたら本気でヤバい。
ある意味、彼女がいたぶられているおかげでこっちも生き延びているといった状況だ。
とはいえ、そろそろ落とされるかもしれない。
そんな考えが浮かんでいた時、レーダーに反応があった。
敵の増援かとも思ったのだけれど、有りがたいことに敵味方識別装置で確認する限り味方だった。
僕と対峙している奴以外の敵部隊は、それに動揺したのか、急に動きが悪くなった。
その隙をついて、テノン・カラレマ嬢が破れかぶれで放ったビームが敵部隊の一機に当たった。
撃墜されるようなダメージではないように思えたが、彼等は早々に引き上げていった。
もちろん僕と対峙していた白地に片翼金色の梟も、即座に引き上げていった。
あー助かった……。
おまたせいたしました。
インフルエンザが長引いた上に、治ると同時に別作品の書籍化作業が来てしまいました。
書籍化作業は絶賛作業中です。
次回の更新はどうなるやら…
ご意見・ご感想・誤字報告よろしくお願いいたします




