モブNo.127:『まったく……なんで私がこんな奴と組まないといけないのよ!あーあ。シオラちゃんと組めたリリンちゃんがうらやましいなあ』
傭兵ギルドを出て直ぐに向かった『アニメンバー』では、『呪殺連戦』の新刊だけでなく『 Assassin×Family』の新刊まで手にはいったのはラッキーだった。
ゲームの『スティールシャフトシリーズ』のリメイクコレクションも発売になっていたのでこれもゲットしておいた。
それ以外にも、気になった食料品の追加や衛生用品の補充など色々仕入れてから、船に乗って現地へと向かった。
現地の惑星ガルペーを起点としたザンザハ宙域にある、警備・巡回の起点となる施設集中型作業基地コロニーに到着すると、当たり前の事だけど、僕以外にも受けている人がいっぱいいた。
その中に、あの新人のシオラ・ディロパーズ嬢の姿もあった。
彼女は短期間でメキメキと頭角を表し、すでに城兵階級になっていて、実力のある若手グループのリーダーになっているらしい。流石は陽キャサイドの人は違うね。
僕は受けるつもりはなかったけど、同じような雇用条件で長期希望の人もそれなりにいるらしい。
しかし何よりも、全員が驚く事態があった。
それは、この警備・巡回の現場に、女王階級の『人食薔薇』ことカティ・アルプテトと、同じく王階級の『禿鷲』ことタルガス・エルガイワがこの場に居たことだ。
『人食薔薇』ことカティ・アルプテトは、自分の事を『緑柱石の薔薇』と呼べと言っているらしいけど、緑の胴体に真珠色の翼と尾翼というカラーリングの機体の、翼部分にある緑の薔薇の意匠の花の中心が、どう見ても牙の生えた口にしか見えないため、みんなが『人食薔薇』と呼ぶようになったそうだ。
ちなみに彼女自身は、黒目で長い黒髪に白い肌の女性で、お淑やかなお嬢様といった感じの人物だった。
『禿鷲』ことタルガス・エルガイワの方は、ボサボサの金髪に髭面の歴戦の強者といった感じの壮年男性で、ツヤの無い灰色の機体には禿鷲の意匠だけがプリントされている。
腐肉食動物で、どちらかと言えば悪い印象のある禿鷲を自ら名乗る理由として、元軍の督戦隊だったという噂があるが定かではない。
ちなみに督戦隊というのは、軍隊において、自軍部隊を後方より監視し、自軍兵士が命令無しに勝手に戦闘から退却(敵前逃亡)或いは降伏(投降)する様な行動を採れば攻撃を加え、強制的に戦闘を続行させる任務を持った部隊のことで、僕達傭兵はまず出くわすことはない。
勿論彼らにだってこの仕事を受ける権利はある。
が、普通なら彼等に相応しい=もっとわりのいい、仕事を受けるはずだ。
まあどんな仕事を受けるかは本人の自由なのだから、それ以上はなにも言う必要はないだろう。
だが間違いなく言える事は、その2人共に、僕が絶対に近寄っていい人物ではないという事だ!
まあ、雲の上の人の王階級や、女王階級の人にわざわざ話しかける必要性はないしね。
しかし、これで仕事が楽になりそうだ。
さてその肝心な仕事のほうだけど、僕が受けた短期の警備・巡回は、最近出動が多く、休暇をとれなかった人の休暇の為の穴埋め的な役割だ。
シオラ・ディロパーズ嬢達も多分こっちだろう。
着いて早々にシフトに組み込まれ、僕はさっそくシフトに出てくれと言われてしまった。
逆に長期の人は純粋な増員扱いで、巡回の回数を増やす為に、直ぐ様固定的なシフトに組み込まれたらしい。
巡回は基本的に二人一組で行動するのが普通なので、出動時には誰かと一緒という事になる。
そしてその相棒は、雇った側が能力を考慮して振り分けるのがルールであり、それによって決定した僕の相棒は、シオラ・ディロパーズ嬢の取り巻きの一人で、テノンという茶髪に緑目の女の子で、顔合わせの瞬間からブツブツ言いまくっていた。
『まったく……なんで私がこんな奴と組まないといけないのよ!あーあ。シオラちゃんと組めたリリンちゃんがうらやましいなあ』
巡回の間は通信を開きっぱなしにしておくのもルールなので、相手の船からは不満の声が丸聞こえだ。
多分、司教階級昇格のための資格のためにこの依頼を受けたんだろうね。
ちなみにテノン嬢は兵士階級だ。
『こんなのさっさと済ませちゃって、海賊潰しにいこっと!』
そういうとテノン嬢は、僕を無視して先にいってしまうが、これってば時間制だから、時間が来るまでは最初に戻ったらちょっと休暇してまたスタートだから急いでも意味がないのに。
しかも巡回ルートからおもいっきり外れている。
でもそれを僕が指摘したらキレそうだなあ。――五月蝿いわね!ちょっと外れただけでしょ!黙ってなさいよデブ!――とかね。
それでも指摘しないとそのままどっかいきそうだしなあ……。
「もしもし。巡回ルートおもいっきり外れてますよ」
『え?』
僕の顔は見たくないからと、音声だけのやり取りにしてあるのだけど、今気がついて驚いたのはわかった。
するとやっぱり、
『い……いちいち五月蝿いわね!そんなのわかってたわよ!あんた程度が私に指図しないで!』
というセリフが返ってきた。
なんというか予想通りの反応だ。
ディロパーズ嬢の性格からして、こういうタイプの人は受け付けない感じなんだけど……彼女の前では猫を被っている感じかな?
ディロパーズ嬢は……見破るのは難しいかな。
ブツブツ言っている彼女を放置しつつ、なんとか巡回ルートを一周して戻ってくると、
『ねえ、信号発信器渡すから回ってきてよ。私は海賊退治してくるからさ』
一瞬以前の俺様君やピンク頭を思い出してしまった。
まさかどっちかの血族じゃないよね……?
でも彼女の提案は不可能なんだよね。
「『信号発信器』は特殊な工具がないとはずせませんよ」
『はあ?!なによそれ!?』
「信号発信器」は、自分の位置を示すだけではなく、敵に遭遇したときに援軍を差し向ける目印にもなるので、警備・巡回の仕事をしている場合は外さないほうがいいだろう。
彼女は、最初は外せ外せと騒いでいたけど、僕だけじゃなく、整備や管制塔の人にも外すなと言われた事に拗ねてしまい、後の巡回中はずっと黙り込んでいた。
まあ静かでよかったけど……
明日は別の人に当たりますように。
ちょっと短くなってしまいました…
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