モブNo.126: 「色々キナ臭いからな、気を付けろよ」
ゴンザレスの精神が回復するまで待つべく、薬局内の角にある椅子に座ると、間を置かずに次の患者がやってきた。
また爺さんだったけど、こっちはまともらしく、普通に処方箋をだしてきた。
するとゴンザレスは、へこんだ様子をみせることもなく、
「かしこまりました。少々お待ちくださいね」
と、答えてから奥にある調合室に向かうと、その爺さんの薬を用意し始めた。
薬剤師といっても調合することはめったになく、処方箋にしたがった薬剤を、量や日数分を間違える事なく用意するというのが主な仕事だそうだ。
もちろん調合をするときもあるらしいが、頻繁にすることはないらしい。
それこそ大きな病院の中にある薬局は、調合から小分けまで全自動でやってくれるらしく、薬剤師は薬を間違えないように入力するだけらしい。
とはいえ、間違った薬を渡したり、数量を間違えたりすれば相手の命にかかわるのだから、その表情は真剣そのものだ。
薬を準備し終えると、
「スオレスさん。お薬御用意できましたよ」
と、本人は普通にしてるんだろうが、儀体の美人度合いのせいで、見事なスマイルを披露していた。
これにレビンくんはやられたんだろうな……。
それからも、患者は続け様にやってきた。
ほとんどは老人だが、若い男性や女性。子供連れや学生などもいた。
そうして全員に薬を処方し終わるまでに1時間半ほどかかってしまった。
ゴンザレスはとりあえず暫くは患者が来ることはないだろうと判断し、一旦薬局を閉めた。
ようやくこっちの目的を遂げられそうだ。
「それで、お前は薬じゃないよな?」
疲れた様子でプラボトルのレモネードを流し込みながら、ゴンザレスは僕に話を振ってくる。
「ああ。最近また増えてる海賊……いや、ネキレルマの私掠船の情報がほしい。あと国境線周りの治安や現状とかの情報も」
僕は現金の入った封筒をカウンターに置く。
「前に見つけたのが一つあるけど、改めて色々探してみて、それと一緒に提供するよ」
ゴンザレスは封筒を仕舞い込むと、首の後ろのコネクターにコードを差し込み、眼を閉じて動かなくなった。
それから約1時間半ほど経過すると、再びゴンザレスが動きはじめた。
コードを抜き、レモネードを飲み干すと、集めた情報を話し始めた。
「まず結論として、ネキレルマが軍隊を使って私掠船を装い、通商破壊をしているのは間違いない。まあこのあたりは軍やギルドも知ってる話だ。かなり広めに展開されているけど、国境線近くがほとんどだ。しかし……通商破壊が目的なら中まで入り込もうとするはずなんだけどな?」
「軍艦ってわかる時点で隠す気は薄い気がする」
「もう一つ。これは先に掴んでた情報だけど、紅いビームを放った戦闘艇を探しているらしい。おまえが戦場で見たやつだ」
「あれね……」
「パイロットごと引き抜くなり、機体だけ奪うなりどちらでもいいらしい」
それは間違いなく不可能だね。
ゲルヒルデさんの性格からして、勝手に乗り込もうとしたら確実に消されるだろうしね。
それにしても、なんでゲルヒルデさんが第7艦隊にいたんだろうか?
普通に考えれば、気に入った人が第7艦隊にいたって事になるかな。
司令官のサラマス・トーンチード准将からして好感度の高い人だからありえなくはない。
「あとは、帝国国民の反貴族・反皇帝感情の増幅。これは最近多いあの活動家連中だな」
「でもあの連中って結構前からいたよね?」
今ほどの派手に活動はしていなかったが、僕らが生まれてくるずっと前から存在している団体?組織?のはずだ。
「そいつらに接触して、資金提供ってとこだろう。そしてそいつらと敵対関係にある、帝国国内に未だに残っている反皇帝派の貴族達への接触だな」
「一回失敗してるのに?」
「『だからこそ』なのか『今度こそ』なのかはわからないが、帝国市民達には嫌われてるし、活動家連中からは不倶戴天の敵だろ?」
「物資不足な上にバカ貴族が威張り、市民が不満を溜めればいずれ爆発する。そこを自分達がってところか」
「上手く行くとは思わないけどな」
「いくと思ってるんだろうな。宰相のカイエセ・ドーウィンは」
「俺達が入った年の生徒会長があんな感じじゃなかったか?」
「そういえばそんな感じだったねえ……無駄に暑苦しかったのをよく覚えているよ」
僕とゴンザレスの頭には、あの胡散臭い演説をした濃い感じの男の顔と、学生時代に無駄に方策を打ち出して嫌われていた生徒会長の顔が浮かんでいた。
「それで、国境辺りにいくのか?」
「う~ん。『警備』はあんまり長期には行きたくないからねえ。よくても臨時の2週間のやつぐらいかな」
あまり長期間マンション空けるわけにもいかないし、なんとなく向こうには長居をしたくないというのが本音だ。
「色々キナ臭いからな、気を付けろよ」
「わかってるよ。またな」
そんなありきたりの挨拶を交わしてから、薬局を後にした
翌日。
僕が傭兵ギルドで受けた仕事はこんな感じだ。
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業務内容:惑星ガルペーを起点とした、ザンザハ宙域の警備・巡回
業務期間:銀河標準時間で2週間
3交代制の8時間連続勤務で16時間の待機休憩。
業務環境:管理コロニー内にある宿泊施設(カプセルホテル式)の無料使用・食事の無料支給。
宇宙船の燃料支給。
業務条件:宇宙船の持ち込み必須。
持ち込み宇宙船が破損した場合の修理費は自腹。
緊急時には、待機休憩時でも対処・出撃すること。
上記理由により、待機休憩時のコロニー外への外出不可
報酬:70万クレジット・固定・戦闘があった場合は戦果を上乗せ
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戦闘がなければ実に楽な仕事だけど、高確率で発生するとは思う。
ローンズのおっさんの話によると、大勢の人間が受けているらしく、王階級の人も受けているらしい。
「愛国心って訳でもないんだろうがな。まあ王階級ともなれば『警備』でも報酬額が段違いだからなあ、そりゃ熱心にもなるだろうぜ」
手続きをしながら、ローンズのおっさんが呟く。
「僕がいくところにも来てくれないかなあ……」
「なんだ。お前にしちゃミーハーな発言だな」
「仕事が楽になるでしょ」
王階級の人がいれば、敵が来ても返り討ちにしてくれるだろうし、その人がいるからと近寄らないようになるかもしれない。
傭兵としては情けない考えかもしれないけど、事実には違いない。
「で、出発はどうするんだ?」
「夜には出るよ。準備がちょっと残ってるけどそれくらいには終わるから」
「そうか。出発前には一回顔を見せろよ」
「わかった」
ローンズのおっさんとそんな会話をかわしたあと、僕は傭兵ギルドをでると、『アニメンバー』に向かった。
出来れば新刊を何冊か手に入れていきたいからね。
『呪殺連戦』の新刊でてるかなあ……?
最近眠くてたまらないです
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