モブNo.125:「滅菌洗浄カプセルなんか買うんじゃ無かった……」
婆ちゃんの魔の手?から逃れ、介護施設からもどってくると、以前に母さんが黙らせたという近所のババア共(2人)が家にやってきていた。
以前には、僕が傭兵をやっている事に対して、野蛮だの、犯罪者まがいだの、人生の敗者だのと悪口を垂れ流してくれた連中だ。
当然だけど、母さんの友人であるはずはないし、近所付き合いもろくにないらしい。
そんな連中が、なんの用なのかと思っていると、『最近は物の値段が~』とか、『先行きが不安だから投資がいいのよ~』とか、色々と遠回しに表現してはいるが、要は金を寄越せと言いにきていたのだ。
友人でもなんでもない母の、しかも以前に悪い噂を吹聴した対象に対して金の無心とは、なんとも厚顔無恥な人達だ。
なので丁寧にお断りすると今度は、『犯罪者の癖に~』とか、『私達が有効につかってやる』とか、以前に出くわしたピンク頭女みたいなことを言ってきた。
なので、
「敷地内から今すぐ退出してください。でなければ、不法侵入と恐喝の容疑で警察を呼びますし、余り酷いと実力行使をしますよ。なにしろ僕は傭兵なんていう野蛮な職業についてますからね。荒事には慣れてるんですよ。その備えもしてありますしね」
僕がそういって腰の銃に視線を向けると、ババア共は慌てて逃げ出していった。
「ごめんね母さん。これでまた悪い噂を振り撒かれそうだ」
「気にしなくていいわよ。あの人達はこの辺りでも有名な嫌われ者だから」
なんでも、僕以外にもいろんな人の悪口や、あることないことを吹聴していたために、集落の人達から存分に嫌われているらしい。
そんなトラブルがありつつも、それから2日はのんびりと過ごして、田舎に来てから5日目の朝には帰る事にした。
帰る当日にはバルビス中央駅まで父さんと母さんが見送りに来てくれた。
「身体に気をつけてな」
「何かあったら連絡してね」
特に湿っぽい雰囲気になることもなく別れ、それからなにごともなく惑星タブルの宇宙港に到着し、定期船に乗り、そこから2日の行程で、無事に惑星イッツに帰ってくることができた。
来るときもそうだったのだけど、普段なら傭兵ギルドの駐艇場に自分の船を泊めているので、宇宙港にいること自体なかなか新鮮だ。
宇宙港から軌道エレベーターで惑星上に降り、高速超電導浮上式鉄道でパルベア駅に到着したときには、すでに夜11時近くになっていた。
そこからタクシーでマンションにもどると、荷解きもせずにベッドに倒れこんだ。
そして翌朝になってから、朝食やら部屋の掃除やらを済ましたあと、大家さんにお土産を持って挨拶にいき、その足で傭兵ギルドに向かった。
傭兵ギルドのカウンターに行く前に、掲示板にある依頼をみるのが、僕のいつもの習慣だ。
それをみる限り、僕が12日ほど休んでいる間に、依頼の種類がかなり片寄った感じになっていた。
「よう。休暇はどうだった?両親には会って来たんだろう?」
ローンズのおっさんは、なぜか無駄にいい笑顔を向けてきた。
「借金もトラブルもなくなったからね。これからは平穏無事なはずだよ。それより、海賊捜索と退治がやけに多くなってない?没落貴族はかなり捕縛なり退治なりされたはずだと思うんだけど?それに宙域の巡回単体の依頼なんて初めてみるんだけど?」
僕が純粋に思った疑問をぶつけると、ローンズのおっさんの表情が変わった。
「情報によると、海賊と名乗っちゃいるが、明らかにがっちり武装した軍艦を乗り回しているらしい。ネキレルマの通商破壊工作なのは間違いないだろうって話だ」
成る程、それなら海賊退治や海賊捜索が増えるわけだ。
この場合の海賊船は、正確には私掠船と言い、戦争状態にある一国の政府から、その敵国の船を攻撃しその船や積み荷、荷物を奪う許可(私掠免許)を得た個人の船であり、国に属した海賊船と言える。
多分だけど、船がどうみても軍艦な事から考えると、『私掠船』ではなく『国掠船』な感じが否めない。
「でもそれなら軍隊の出番じゃんか」
「もちろん軍は出ずっぱりらしいが、手も目も耳も足りないらしい。そこで宙域の巡回なんて依頼が単独で出てきたってところだな」
宙域の巡回は、本来は『警備』の依頼の中の一つの仕事で、長期の警備をする場合に発生する必須とも言える仕事だ。
そうでもしないといけないぐらい、海賊がはびこっているということだろう。
「それでなんの仕事を受けるんだ?」
「もうちょっと考えてみるよ。色々情報見たいしね」
「そうか。ま、それがお前さんのやり方だよな」
ローンズのおっさんは、そういいながらプラボトルのコーヒーを開け、喉に流し込んだ。
傭兵ギルドを出た後は、パットソン調剤薬局にいくべく、闇市商店街に向かった。
勿論、今回の様々な情報を情報屋から得るためだ。
相変わらず怪しい雰囲気の漂う空間だが、完全に馴れてきてしまっている自分がいるのが何となく寂しいやら悔しいやらだ。
商店街自体は平和で、相変わらず怪しさだけが大爆発している状態だ。
さてあの肉屋さんだけど、今回特に惣菜の売り出しはしておらず、『本日ミノタウロス肉セールの日!ステーキ用・すき焼きしゃぶしゃぶ用大特価!』とだけ提示してあった。
そのうちにパットソン調剤薬局にたどり着くと、珍しく中に患者がいた。
爺さん1人がゴンザレスから薬の説明を受けて……いるわけではないらしい。
「だから、毎回毎回なんで私の手を握ってくるんですかねグイルーテさん」
「そりゃあゴンザレス嬢ちゃんの手がすべすべしとるのが悪いの」
どうやら、患者の爺さんにセクハラをされているらしい。
ゴンザレスも、流石に老人を殴るわけにもいかず、苦虫を嚙み潰したような笑顔をしていた。
するとそこに、1人の婆さんが薬局の中に入ってきて、
「いい加減にしなこのくされジジイが!」
と、爺さんの頭をプラボトルでぶん殴った。
「何するんじゃ……げっ婆さん!」
「先生に迷惑かけるんじゃないよ!」
「わしは別に迷惑は……」
爺さんが反論を試みるが、婆さんは爺さんの耳を掴み、
「それじゃ先生。うちの宿六が失礼しました」
と、爺さんを怒鳴りつけていた時とは別人のような声で挨拶をしながら薬局を出ていった。
ご夫婦が出ていくと、ゴンザレスは大きくため息をついた。
「あの爺さん……いつもあんな感じなのか?」
「まあな……」
かなり疲労困憊しているらしいので、僕の要件は回復してからでいいだろう。
「滅菌洗浄カプセルなんか買うんじゃ無かった……」
元々は男に戻るのが嫌だった癖に、協会の爺さんたちに眼を付けられてから、早く元に戻りたがっているが滅菌洗浄カプセルを買ったせいで、脳をもとの身体に戻すための手術費用がないんだよね。
「今更後悔してもどうしようもないっしょ。それに、もしかしたらお前が男に戻ったら、ここって患者こなくなったりして」
僕としては冗談のつもりだったのだけれど、
「薬剤師になった時にはすでにこの外見だったからな……。あるかも?」
と、責任者は真剣に返答してきた。
医療関係は意外にも人間関係が大事らしい。
執筆以外の仕事の予定が多くて執筆が滞りぎみ……
ご意見・ご感想・誤字報告よろしくお願いいたします
かたつむりの方も書籍化がきまりました




