モブNo.120:『なんであんな雑魚っぽいのが落とせないんだよ!?』
二戦目が終了し、2時間の休憩兼移動を終え、たどりついた三戦目の戦場は何にもない空間で、戦闘艇同士の正面切っての戦闘ということらしい。
そして当然というかなんというか、
『よし!お前ら全員俺の指示に従えよ!』
ダッシド・デノーガーという馬鹿が、また調子の良い事を喚き始める。
正直取り巻きの数人以外は、誰一人完全に相手にしていない。
みんな緊張気味なのに、連中だけ能天気で実にうらやましい。
相手方は精鋭と新人を取り混ぜてきたらしく、待機中の動きにも差がみられるが、それが真実か擬態か見抜くのはなかなかに難しそうだ。
気を引き締めていかないと、あっさりとやられてしまうことになる。
あ、でもあっさりやられて退場したほうが楽かなあ……、あっさりやられてるお手本がいるわけだし。
そんな事を考えていると、ブレスキン将軍閣下が画面に映しだされた。
『それではこれより、模擬戦の三戦目を開始する。今回は邪魔物も遮蔽物もなしだ!双方一勝一敗。思う存分格闘戦を繰り広げてくれ!では5秒のカウントダウンで開始だ』
将軍閣下はにんまりと笑い、右腕を上げる。
『5! 4! 3! 2! 1!』
すると、シュネーラ・フロス中佐殿の声でカウントダウンが始まり、
『戦闘開始だ!』
将軍閣下の合図と同時に右腕がふりおろされ、三戦目の演習が開始された。
それにしても将軍閣下。一戦目と二戦目はカウントダウンなんかしなかったのに、なんで今回はやったんだろう?
賭けでもしててテンションが上がったからかね?
そうして戦闘が開始されるわけだけど、正面同士のぶつかり合いは、やっぱり怖い。
遮蔽物がないから安全が確保出来ないからだ。
だったら味方を遮蔽物にすれば良いと思うが、向こうだってこちらを遮蔽物にするだろうからお相子になる。
あと位置取りも大事だ。
何かあった時に、自分なりの機動が出来るように、しておかないといけない。
乱戦時の撃墜の原因の1つに、敵味方関係なく機体同士の接触というのが必ずあるくらいだ。
ちなみに戦闘機動の素晴らしさは、ロスヴァイゼさんは別格、ダンさんは格上決定とすると、かなりいい動きをしているのはアーサー君とレビン君の2人で、ランベルト君とディロパーズ嬢はその次といった感じだ。
相手側もやっぱり一筋縄ではいかない感じで、自称司令官のダッシド・デノーガーはあっさりやられ、それ以外にも何人かやられていた。
そして今僕は、最初に出くわした時のロスヴァイゼさん・ランベルト君のコンビよろしく、大量の敵機に追われていた。
その時のロスヴァイゼさんほどではないけど、数が多いために『撃墜騙し』も出来ない――先頭を飛び越えても後続に反応される――ので、味方の為にしばらくは命懸けの鬼ごっこをやるしかない。
ちなみに僕に群がってくる理由としては、ロスヴァイゼさんやアーサー君に挑むよりはマシと判断されたからだろうね。
多分新人の人達らしいので何とか躱せているけど、一瞬たりとも気が抜けない状況なのは変わりない。
早く誰か援護に来てほしいから、取り敢えず現状を全員に報告しておこう。
☆ ☆ ☆
【第1艦隊サイド:戦闘艇部隊選抜メンバー達】
『なんであんな雑魚っぽいのが落とせないんだよ!?』
『おい!距離が詰まってるぞ!!散れ散れ!』
『ちょっと!危ないじゃないの!』
『それにしても……これだけの数に追われててよく撃墜されないな、あのパイロット』
『運が良いだけに決まってるじゃない。じゃなきゃトップだったナーディルスが撃墜されるわけがないもの!』
『上官も酷いぜ。ナーディルスにとってはせっかく汚名返上のチャンスなのに出してくれないなんてよ』
『撃墜されたショックで、かなり神経過敏になってたからな。正しい判断だよ』
『とにかくこの雑魚を早いとこ潰して、ナーディルスの敵討ちが終わったら次は『羽兜』を狙うぞ!』
『了解!仕掛けるわよ!前に回り込んで取り囲んで!』
『待て!別方向からの部隊を待った方が……』
『臆病者は黙ってろ!』
『ナーディルスの敵をとる気がないなら邪魔しないで!』
★ ★ ★
今まで後ろにいた連中が、なぜかはわからないけど、横に広がって速度を上げてきた。
今までは、敵機が列を作っていたので厚みがあったけれど、横に広がって薄くなったなら、『撃墜騙し』が仕掛けられる。
なので、スロットル全開で飛ばしている今の状況で、敵の一機が真後ろにきたところで機首をあげる・機体下部にある姿勢制御用のスラスターを一瞬だけ全力噴射・メインブースター停止を、タイミングを合わせて同時に行う。
すると、機体は回転しながら相手の機体を飛び越す形になり、そのタイミングで威嚇のビームを放ちつつ、彼等の進行方向とは逆の方向に全力で逃げる。
もちろんただ逃げるわけじゃない。
十分な距離を取ったら、反撃のために反転するのは当然だよね。
流石に相手もこのぐらいは予測しているだろうから、すぐにこちらに向かって来るだろう。
しかもまとまって来るだろうから、取り敢えず散開してもらう必要がある。
なので先ずは陽子魚雷風の閃光ミサイルを低速にして1発発射。
そして敵機が近くに来た時に、陽子魚雷風の閃光ミサイルにビームを当てれば、
着弾扱いになって閃光が発生する。
こうすれば、敵機は反射的に舵を左右どちらかに切るので、どれか1機を追いかけて撃墜し、また逃げる。
これなら相手も混乱し、こちらを追ってくるにしても時間を食ってしまう。
その間に、逃げるなり反撃の態勢を整えるならすればいい。
そういうプランだったのだけど。
最初の『撃墜騙し』を仕掛けた時点で、僕の真後ろにいた人が被弾して撃沈扱い。
さらにその現状に誰一人反応せず、簡単に逃げることが出来た。
そうしてかなりの距離が空いてから、まとまった状態で追い付いて来たので、陽子魚雷風閃光ミサイルを低速で発射し、ビームを当てて閃光を発生させた。
すると、1機だけを除いて全機が撃沈扱いになっていた。
その理由としては、彼等が陽子魚雷風閃光ミサイルをギリギリの距離で回避しようとしていたからだ。
もちろん彼等にはミサイルを避ける技術はあったし度胸もあった。
ただ、僕がミサイル本体を撃つとは思わなかったんだろうね。
生き残った人はたまたま距離をとっていたから助かった感じだ。
さて、後はその残った人をと思った瞬間、演習終了のブザーが鳴り響いた。
『双方そこまで!演習第三戦目は、第1艦隊戦闘艇部隊残存10!傭兵部隊13!よって勝者、傭兵部隊!』
シュネーラ・フロス中佐によって勝敗の結果が言い渡されると、味方からは歓声が、相手方からはため息が聞こえてきた。
☆ ☆ ☆
【サイド:エドワルド・ナーディルス】
俺が負けるなんて何かの間違いだ!
あの雑魚が何か卑怯な手を使ったに違いない!
俺の出撃が却下されたのも、あの雑魚が金を渡して指示したに違いない!
第1艦隊側が敗北した以上、俺がその名誉を挽回しないといけないんだ!
★ ★ ★
書籍化作業が一段落したので再開。
またすぐに原稿の直しがはいるので苦しくなるかも…
ご意見・ご感想・誤字報告よろしくお願いいたします




