モブNo.118:「犯罪をしたのは姉だが、俺にも反省すべき事もあったから、それに反論はしない」
結構な数に追い回されてるみたいだけど、ランベルト君がヤバくなればロスヴァイゼさんに交代するだろうから放置しても大丈夫だね。
それよりこの人に集中しないと失礼だろう。
この人の機体はさっき僕に一撃食らっているので、何らかの損害はあるはずなんだけど、そんなことを感じさせない動きで僕に格闘戦を挑んできた。
この人としては、僕がランベルト君のフォローに入るのを阻止するためと、さっき食らったことの仕返しが目的なんだろう。
惑星大気内用の戦闘機や戦闘艇同士の接近戦闘は、犬同士が尻尾を追いかけ合う姿に似ていることからドッグファイトって呼ばれているわけだけど、こっちは野良犬、向こうは軍用犬ってところかな。
あの『青雀蜂』と比べてはいけないのだろうけど、動きに無駄も多いので、まだまだ訓練生といった感じがある。
でも油断は禁物、全力で落としにいかないと。
☆ ☆ ☆
【第1艦隊サイド:戦闘艇部隊選抜メンバー】
クソッ!クソッ!クソッ!
なんで第1艦隊の戦闘機部隊期待のルーキーであり将来のトップエースである俺が、小惑星に隠れての不意打ちなんかに被弾するんだ?!
しかも実力者と言われる『羽兜』じゃなくてあんな雑魚にっ!
幸い当たった攻撃はそんなにダメージはなく、十分な動きが出来るから十分に落とせる!
向こうは1発当てていることから油断しているはず!
俺はエリートだ!その俺にあんな雑魚落とせない訳がない!
おかしい……
おかしいおかしいおかしい?!
何でだ!?
あの雑魚は照準に捉えた瞬間に視界から消える。
そして次の瞬間には警報が鳴り響く。
それを必死で旋回して、相手の背後が見えた瞬間に警報が鳴り止み、雑魚を照準に捉えた瞬間にまた視界から消え、再度警報が鳴り響く。
振り切っても振り切っても警報が止まらない。
このまま永遠に警報は鳴り止まないのだろうかと思った瞬間に、機体に軽い振動が走って動きが止まり、警報も鳴り止んだ。
一瞬何が起こったかわからなかったが、数秒後に理解した。
撃墜されたのだ。
訓練ではあるものの、期待のルーキーであり、将来のトップエースが傭兵なんかに撃墜された……。
冗談じゃない!俺はエリートなんだ!傭兵に敗北したなんて不名誉をこのままにして良いわけがない!
俺はダメージ・フィードバック・フィールド・システムのスイッチを切るべく手を伸ばした。
今なら相手は油断している。
戦場では何が起こるかわからない。今すぐ動いて後ろから撃てば確実に勝てる。
そしてスイッチを押そうとゆっくりと手を伸ばし、今まさに押そうとした瞬間に、ビーッ!というブザーが鳴り、
『双方それまで!この度の小惑星帯での戦闘結果は、第1艦隊戦闘艇部隊残機14。傭兵部隊残機17。よって傭兵部隊の勝利とする!』
という、審判を勤めているシュネーラ・フロス中佐の声が響いてきた。
その瞬間、俺は傭兵に負けたという汚名を一生涯背負っていかなければいかなくなったのだ。
★ ★ ★
☆ ☆ ☆
【第1艦隊サイド:第三者視点】
戦場全体を見渡せる場所に陣取っている第1艦隊旗艦である超大型戦闘艇『グレート・ホエール』の艦橋で、ジャック・バルドー・ブレスキンは今回の模擬戦の結果に、満足げに頷いていた。
「負けたか。まあ順当だな。調子に乗ってた奴らも少しは堪えたろう」
「でもこれで、向こうは勢いづきますね」
審判を勤めたシュネーラ・フロスが軽くため息をつく。
「一部はな。それより傭兵側は良いのが多いな。『羽兜』に『白い』のに『黒い』の。まとめて部隊に欲しいな。何人かナンパしてこれないか?」
「そこは閣下の手腕ではありませんか?」
「俺にナンパの腕を期待するな」
双方軽口を叩きながらも、手元にある資料から眼を放しておらず、
「では、2時間の移動兼休憩後2回目の戦闘訓練を開始します」
「ああ。よろしくたのむ」
冷静に次の模擬戦を開始するための準備を開始した。
★ ★ ★
なんとかこっちが勝ったみたいだね。
最後に格闘戦を挑んできた人はなかなかしぶとかったし、なんとか落とせてよかったよ。
次の模擬戦は違う場所で行われる上に、2時間という長い休憩時間がある。
そのための場所移動と休憩のために航空母艦に着艦すると、
『お疲れ様でした。次の訓練のための演習地に向かうので、航空母艦にお戻り下さい。移動の間に燃料・弾薬の補充と、システムのダメージデータのクリアを実行いたします』
フラックス・エイルード少尉とミリシアナ・トーデル少尉が出迎えをしてくれた。
次の戦闘までこれだけの休憩を設けるのは、こちらの体制を万全にするためだろう。
普通なら軍が有利になるように、実戦なら休憩が失くなるのはよくある事だっていって休憩は極端に短く、向こうのメンバーは総入れ替えってのが基本かな。
それをやらないだけ、将軍閣下は公平といって良いだろう。
船を着艦させてから、食堂で飲み物をもらっていると、食堂の端から大声が響いてきた。
「おい!よく聞け!次の戦闘では全員俺の立てた作戦の指示に従え!その方が効率的に勝てるからな!」
こっち側で一番最初に落とされた連中のリーダーがなんか喚いてるお。
あいつはダッシド・デノーガーという司教階級の傭兵で、別の支部から移ってきた奴だったりする。
大抵の司教階級は首都の傭兵ギルドにいくか、地元に残るかだが、他の支部に移るのもおかしくはない。
が、こいつは多分居心地が悪くなって逃げ出してきたタイプだね。
「まずそこの女3人は俺の直衛、後は左右と真ん中に分かれて適当に突っ込め」
そして、どこが作戦だと言いたくなる戯言をはいてきた。
連中のお仲間の数人以外は、全員が冷たい視線をむけ、同時に鼻で笑っていた。
その事実に気がついたデノーガーは顔を真っ赤にし、
「俺は司教階級だぞ!階級が上の俺に従うのがルールだろうが!」
と、怒鳴り付けた。
するとそこに、
「司教階級ならお前以外にもいるだろう」
ヒーロー君ことユーリィ・プリリエラ君が、デノーガー一味の前に立ちはだかった。
「ああん?犯罪者の弟が偉そうな口を利くんじゃねーよ!」
「犯罪をしたのは姉だが、俺にも反省すべき事もあったから、それに反論はしない」
デノーガーがヒーロー君、いや、ユーリィ君をあおるが、彼は慌てる事なく冷静に返答し、
「だがさっきも言ったが、お前以外にも司教階級はいる。さらに最初に指揮は必要ないといって突っ込んでいって一番最初に撃墜されたのはお前だろう?自分が最初に作戦を立てずに突っ込んでやられたのに、次は自分が司令官だとふんぞり返るだけのつもりとはな。アホすぎてあきれ返るな。以上の事から、お前が指揮をする意味がない。それぞれで勝手にやった方が勝てるからな」
そのユーリィ君のセリフに、デノーガーはさらに真っ赤になり、
「この犯罪者の弟が偉そうな口を利くな!」
と、さっきと同じセリフを吐いてユーリィ君を罵ったが、
「それには反論はしないと言ったじゃないか。聞いてなかったのか?」
それがどうかしたか?という表情でデノーガーを見つめる。
「ともかく俺はお前の指揮には従わない。やりたきゃ勝手にやるんだな」
ユーリィ君はそういうと、怒りまくりのデノーガーを無視して食堂をでていった。
その時なぜか彼に睨まれたような気がした。
睨まれる理由はわからなくはないけどね。
特典だという本へのサインを頼まれたのですが、あまりにも字が下手すぎてだめでした。
当たった人申し訳なく……
ご意見・ご感想・誤字報告よろしくお願いいたします




