モブNo.113:「我々に賛同しないというなら、このコロニーごと吹き飛ばしてやる!」
第三者サイド
ゲートのメンテナンスの最終作業が終了すると、最終シフトの作業員や傭兵が、続々とコロニーに戻ってくる。
その最終シフトの人間全員がコロニーに帰還してから、ようやく全ての人間が職務から解放される事になる。
作業員は、建設会社が用意する大型船で帰ることになっているため、船が来るまでは特に動きはない。
だが傭兵達は各個人の船があるため、最終シフトの人間でないかぎり、解放と同時に帰路に着く者が殆んどだ。
その傭兵達が、自分達の船が置いてある駐艇場に向かうための通路に差し掛かると、アサルトビームライフルと手榴弾。熱光線反射防護服と対物理用防護ベストを重ね着した何人もの作業員達が、通路を封鎖していた。
傭兵達は何か異常事態があったのかと勘ぐったが、特になにかあった様子はなく、目の前の作業員がおかしいのだとすぐに理解した。
「何の真似だあんたら?こちとら早く帰って報酬がほしいんだ。そこを退いてくれ」
たまたま先頭にいた傭兵が、作業員達に話しかける。
すると、
「我々は『帝国の未来を憂う者』だ!」
「この国は貴族・王族により、市民が常に不利益をうけている!」
「我々はその不利益に対し異を唱え、抵抗するものである!」
「ついてはお前達に、この国の邪悪の象徴である皇帝を滅する正義の尖兵になる名誉を授けよう!」
「この名誉を受けたものは、邪悪たる皇帝、そしてその手下である貴族共を殲滅する様々な作戦に参加できるのだ!」
武装した作業員達が、示しあわせたように連なって怪しげな主張をしはじめた。
「頭わいてんのか?せっかく先代と今代の皇帝が国の立て直しを始めて、少しずつ良くなってるのに、皇帝を殺すってなんの冗談だ?」
先頭にいた傭兵が、彼等の主張を否定する。
すると作業員の1人が怒りの表情になり、大声で自分達の正義を主張しはじめた。
「皇帝がいる限り貴族が生まれ、民衆は搾取され続けるんだ!今の皇帝は甘いかもしれんが、将来必ずまた暴君が産まれる!だからこそ貴族と皇帝を殲滅するんだ!」
「産まれない場合だってあるだろ!」
「そんなことはない!必ず暴君は産まれる!歴史がそう証明している!」
その作業員の言葉が真実であることは、傭兵達も理解はしている。
先代の皇帝が即位するまで、この国の最高権力者は愚帝と暗君と暴君が大半を占めていたのだから。
しかしだからといって、今居る賢帝を亡き者にしてよいはずはない。
「だったらその暴君が出たときに、有志でもなんでも募るんだな」
先頭にいる傭兵の言葉に、他の傭兵達も同意を示す。
作業員達は武装しているとはいえ、大半の人間があまり使いなれてない様子だった。
歴戦の傭兵達からすれば、制圧するのは至極簡単な事だった。
作業員達もそれは理解していた。
故に、それなりの対策は講じていた。
「我々に賛同しないというなら、このコロニーごと吹き飛ばしてやる!」
激怒した作業員が、汎用端末の通話待機画面を見せつけてきた。
第三者サイド:終了
僕が目を覚ましたのは、最終シフトの人達全員が帰ってきて、傭兵達が駐艇場に到着するぐらいの時間だった。
こうすれば、支度をして、手続きをして、朝食を食べ終わった頃には、駐艇場が空いているというわけだ。
大抵の人達は事前に全部済ませておいて、解放と同時に出ようとするので、どうしても駐艇場が混雑するんだよね。
ともかく身だしなみを整えて手続きにむかう事にする。
シフトが終わってすぐに取りに行ってもいいのだけれど、係の人は大概手続きの書類製作で忙しくしているので、僕は控えるようにしている。
そうして忘れ物がないように荷物と部屋の中をチェックしてから部屋をでると、大きなバッグを持った作業員の人に出くわした。
「あ、どうも」
宿泊施設は、作業員も傭兵もいっしょくたなので別段警戒することもなく、軽く挨拶して手続きに向かおうとすると、
「くそっ!もうバレたのかよっ!」
なぜか作業員の人が大声をあげ、バッグから銃を取り出し、僕に銃口を向けてきた。
「手を上げろ!動くな!」
銃を持つ手が震え、構えも素人丸出し。
呼吸も荒く、かなり興奮しているので、逆らったら危ないと思い両手をあげる。
僕が両手を上げた事で少しは落ち着いたらしく、呼吸が静かになってきた。
なので、
「あの~何がバレたんです?」
現状確認をかねて質問をしてみることにした。
「このコロニーに爆弾をしかけて傭兵共を我等の尖兵にし、皇帝と貴族共を襲撃する計画だ!」
作業員の人は、熱量のこもった返答をしてきた訳だけど、その発言に僕は心当たりがあった。
「ひょっとして、時々街で街頭演説やってた反帝国運動って人達のお仲間ですか?」
出来れば外れてほしいなと思いながら、作業員の人に正解を訪ねてみた。
「そうだ!我々は皇帝と貴族を滅する為に活動している!お前だって貴族に嫌な目にあわされたことはあるだろう!」
やっぱり正解しちゃったかあ……。
このままこの人を放置する訳にはいかないけど、下手に反撃すると、周りの人達に僕が一方的に攻撃したように思われてしまうかもしれない。
「ええ、ありますよ。数え切れないくらい」
なのでここは話に乗っておく。
まあ、貴族に何度も嫌な目にあわされたのは間違いないしね。
「だったら我々の同志になれ!憎き皇帝や貴族を根絶やしにしようじゃないか!」
作業員の人、いや、反帝国活動家の人は、同志を見つけたとばかりに熱心に勧誘をしてくる。
「ところで、貴方は何処かに向かう途中だったのでは?」
「ああ!そうだ!こいつを早くセットしにいかないと!」
僕の根本的な質問に、反帝国活動家の人は慌てた様子で銃をバッグにしまい、慌てて走り出した。
このあたりがやっぱり素人かな。
銃を簡単にしまっちゃうし、なにより僕が堂々と腰に下げている熱線銃を取り上げてもいない。
熱線銃の威力を最弱にして、気絶なり行動不能なりにさせてもいいけど、ここは付いていって情報を聞き出す事にしよう。
「そのバッグの中身って時限爆弾ですか?」
「いや。リモート爆弾だ。しかもこいつが親機だから、こいつが爆発しないかぎりほかのは爆発しない」
反帝国活動家の人は、ついて来る僕を同志になったと思っているのか、あっさりと質問に答えてくれた。
「なんでそれを最初にセットしないんです?」
「別の奴を親機だと勘違いしてたんだよ…」
反帝国活動家メンバー全員がとは思わないけど、少なくともこの人は反帝国活動家には向いていない。
そんなことを考えているうちに、どうやら設置場所であるらしい倉庫に到着した。
倉庫の中に入ると、リモート爆弾を隅っこに置き、
「よし。これでスイッチを入れれば準備完了だ!」
と、スイッチをいれる寸前に、威力を最弱にした熱線銃を反帝国活動家の人のこめかみに撃ち込んだ。
反帝国活動家の人は、そのままどさりと倒れ込み、動かなくなった。
僕は脈を調べて生きているのを確認すると、反帝国活動家の人の首を足で踏みつけ、熱線銃を突き付けた。
船に戻れば、犯罪者捕獲用の麻酔銃も手錠もあるのだけど、取りにもどる訳にはいかないからね。
そしてその体勢のままコロニーの管理部に連絡し、警察を呼んでもらうことにした。
どんなジャンルにも、向いてない人というのはいるものです。
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