モブNo.112:「おう。しかし、お前は本当にこういう地味な仕事が好きだな」
『スターダストハンバーガー』で食事をした後、アニメンバーで『スケルトンナイトの異世界行脚』の新刊。通常の書店・帝進書店で時代小説の『傭兵稼業』シリーズの文庫版3巻を買って家に帰ろうとした時に、
「こんにちは」
誰かに声をかけられた。
最初はキャッチセールスかなと思ったのだけど、声をかけてきた人物をよく見ると、それは以前レーダーの事でお世話になった『修理と再資源化のキュリースガレージ』の店長さんであるグレイシア・キュリースさんだった。
お店では黄色いツナギに遮光ゴーグルだったけど、今はピシッとしたスーツを着こんでいる。
「あ…ど、どうも。レーダーの調達の時にはお世話になりました」
「あれから調子はどう?」
「はい。正常に作動してくれてます」
お店での必要な会話をするならともかく、道端で立ち話をするとなると、かなり気恥ずかしくなるんだよなあ。
「そうだ。番号教えてくれる?私もお店の番号も教えるからさ。うちは未使用の型落ちなんかも引き取ってるから、レーダーの新しいのなんかが入ったらおすすめとかしたいし」
まあ話の内容が部品関係の話なだけ、緊張は少ないけどね。
「ああ、はい。良いのがあったらよろしくお願いします。予算があればですけど」
そんなに新しい物が欲しいとは思わないけど、こういったお店と連絡先を交換していても損にはならないだろう。
そうして事務連絡用にと番号を交換し、店舗のリストに『キュリースガレージ』が加わった。
「これでよしと。そういえばなんかお買いもの中?」
キュリースさんも操作が終わると、普通に話をしてきた。
「それは終わったので帰るところなんです」
「いいな~。私は今からリサイクル組合の会合。どうせ大した話もしない上に毎度毎度同じ話を聞かないといけないのよねえ…」
そう呟いたキュリースさんは、以前のゴンザレスと同じような表情をしていた。
「面倒臭そうですねぇ。お察しします」
そういった会合に出席したことのない僕ですら、その会合がどれだけ苦痛なのかが、その表情から想像できてしまう。
「じゃあそろそろ行かないと。遅れたら面倒臭いのよ。じゃあなんかの良いのが入ったら連絡するから」
「はい。お願いします」
そう言うとキュリースさんは、疲れた表情をしながらも、軽快な足取りで立ち去って行った。
その後僕は、一度自宅に帰ってから、近所のスーパーに夕食の材料を買いにいった。
翌朝はいつも通り掃除とゴミ出しをしてから、仕事を受けるべく傭兵ギルドに向かった。
掲示板を一見してから、ローンズのおっちゃんに声をかけた。
「ういっす」
「おう。少しは気分転換が出来たみたいだな」
「軍が絡む依頼は二度とやりたくないけどね」
将軍閣下に目を付けられたからもう手遅れだけどね。
「知っててチョイスした訳じゃねーぞ?」
「それぐらい解ってるよ。で、なんかいいのはない?
掲示板には海賊退治ばっかりでさ」
領地改善の為の物流が盛んになっているせいか、海賊の目撃が多くなっているようだ。
「そうだなあ。以前にもやったゲート修理の警備があるぞ」
「場所は?」
「惑星ガトハガから程近い惑星レオエオデュドのゲートだ」
見せてもらった詳細はこんな感じだった。
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業務内容:ワームホール安定盤取り替え作業時の護衛。
業務期間:銀河標準時間で72時間。
3交代制の8時間連続勤務で16時間の待機休憩。
業務環境:管理コロニー内にある宿泊施設(カプセルホテル式)の無料使用・食事の無料支給。
宇宙船の燃料支給。
業務条件:宇宙船の持ち込み必須。
持ち込み宇宙船が破損した場合の修理費は自腹。
緊急時には、待機休憩時でも対処・出撃すること。
上記理由により、待機休憩時のコロニー外への外出不可
報酬: 36万クレジット・固定
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業務時間と報酬以外は以前の依頼と全く変わりはないが、問題は場所だ。
惑星レオエオデュドは国境線にあるため、ネキレルマに近い距離にある。
さらにはこの前の戦場に近く、今の情勢だとなかなか不安定な状態だ。
とはいえ、国境線を警戒している貴族の私兵や軍の見回りも多いので、以前はえらいことになったけど、今回はそんなことはないと信じたい。
「これにするよ」
「おう。しかし、お前は本当にこういう地味な仕事が好きだな」
おっちゃんがからかってくるが、取り敢えず無視して手続きを進める。
これ以上目立ってたまるもんか。
出発は翌朝。昨晩のうちにしっかり準備し、作業開始日前には到着することができた。
今回はデブリ回収の手伝いは無く、純粋な警備だけらしい。
初日は何事もなく、待機時間が退屈という問題以外は何一つ起こらなかった。
このままなにも起こらずに、平穏に終了してくれよ。
そんなことを考えていた2日目のシフト終了後の夕食時、僕の近くにいた、飯と一緒に酒を飲んでた作業員グループの人達から、
「なあ、この前の貴族の反乱があっただろ?」
「あったけどそれがどうした」
「あれって、皇帝が不甲斐ないからだと思わねえか?」
明日も作業があるだろうに、夜になるからといって飲み始めた仲間内でも、かなり飲んでいた中年の男性がそんなことをいいだした。
ちなみに、一般のコロニーなら昼夜の時間を区切っているので問題はないのだけれど、こういった施設集中型作業基地コロニーでは昼夜の感覚がなくなるため、自分達が仕事を開始するのが朝。仕事の終了時が夜。というふうに区別している。
ちなみにその男性の言っている事はあながち間違いではない。
皇帝陛下に、反抗的な貴族達を黙らせる圧力があれば、あの反乱は起こらなかったかもしれないのは間違いないからだ。
「なにいってんだ。今の皇帝陛下は俺達民衆の事をよく考えてくれる方だぞ?」
「おまけに美人だしな!」
同僚の人達は男性の言葉を聞き、笑いながらそう答えた。
「でも俺達民衆は、いまだにクソ貴族共に苦しめられてるじゃねえか!」
「でもそのクソ貴族は、その反乱で大勢が成敗されたじゃないか」
「でもまだ絶対残ってるだろ?!あんな小娘が国を治めてるからクソ貴族共がのさばるんだ!そのせいでむざむざと殺されるなんて冗談じゃねえ!」
男性が大声を出したせいで、周囲の人達の視線が男性に集中した。
さらには、さっきからの発言が聞こえていた人もいて、軽く男性を睨んでいる人もいた。
さすが支持率が75%の『美女すぐる皇帝陛下』の人気は凄いね。
「おい!さすがに不敬だぞ!やめないか!」
「うるせえ!誰がフケまみれだ!」
「みんな!こいつを押さえるの手伝え!」
それを察した同僚の人達が、全力でその男性を取り押さえにかかった。
男性は暴れるが、さすがに大の男数人に押さえ付けられると抵抗出来なくなっていた。
かなり酔っ払っていたけど、言動から考えるともしかして例の反帝国運動の工作員の人だったりするのかな?
まあ気持ちはわからなくもないけど、今のところ人気のある皇帝陛下のあからさまな批判はまずいお。
翌日の朝食時に、昨日暴言を吐いた工作員みたいな人を含めた作業員グループの人達が、その場にいた他の作業員や傭兵達に謝罪をした。
まだ酒は残っているらしく、気持ち悪そうにはしていたけど。
そのあとの作業員の人達は、二日酔いなど微塵もみせずにテキパキと仕事をこなしていき、3日目のシフトも無事に終了した。
もちろん終わったからといって帰っていいわけはなく、拘束時間が終了するまでがお仕事だ。
今度は何の騒ぎが起こることもなく、無事に1日が過ぎていった。
が、騒動は僕の預かり知らないところで発生していた。
この度、本作品『キモオタモブ傭兵は、身の程を弁える』の第1巻発売が7月25日にオーバーラップ文庫より発売されることが決定いたしました!
イラスト担当はハム様です。
大筋は変わりませんが、書籍版はWeb版には居ないキャラクターが登場し、変更されている箇所もあるので、違いを楽しんでいただけると幸いです。」
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