モブNo.111:「全宇宙の女性を敵に回すセリフだな…」
厄介事に巻き込まれないようにさっさとその場から移動し、昼食をとるべく向かったのは、馴染みのあるファーストフードチェーンの『スターダストハンバーガー』だった。
注文したのは、アイスコーヒーにチーズバーガーにポテトのセット。
新作のホワイトソースバーガーを勧められたが、なんとなくやめておいた。
そうしてテーブルに座り、腕輪型端末でラノベを読みながらポテトをつまんでいると、近くの席にいた2人の女子高生の会話が聞こえてきた。
「ジャーン!ついに取れましたプラチナチケット!」
「プラネットレースグランプリ決勝戦の観戦チケットじゃん!どうしたのそれ?!」
「正規のチケット申し込みに挑戦したら取れたんだよー!」
「いいな~。私なんか申し込みした瞬間にSOLD OUTだったよ」
「取れたのはマジ偶然の幸運だよね~。これでノスワイル様に逢えるわ!」
「いやいや。観戦チケットじゃ逢えないから」
「もしかしたら遭遇するかもしれないじゃない!」
「まあ私だって逢えるもんなら逢いたいけどさ。下手な男より格好いいし」
「だよね~なんとかしてお逢いできないかな~」
どうやらノスワイルさんのファンらしい。
やっぱり彼女は女性に人気があるんだなと実感した。
「レースが終わった後に何故か控え室に呼び出されて『レースの最中に魅力的な娘がいたから、捕まえておこうと思ってね』とか言われて恋人兼チームマスコットとか…」
「あるわけないでしょそんなの」
「だよね~!でもさ。やっぱりチームのメンバーかスタッフとかに恋人とか居るんだろうね。絶対公表しなさそうだけど」
「そりゃそうでしょ。チーム外の人間だとすれば、男ならノスワイル様より背が高いパーフェクトイケメンで、女なら可憐で儚げで守ってあげたくなる感じゃないとね」
「いやいや。男で可憐で儚げで守ってあげたくなる男の娘な感じもよくない?」
「それは…アリ!」
なんだか話の内容が怪しくなってきたなあ。
男性の恋人はともかく女性の恋人ってのはどうなんだろう?
もしかしてノスワイルさんそういう趣味……なわけはないと思う。
女性にモテまくるってのも大変なんだなあ。
そういえば、ノスワイルさんっポイ感じな人が主役のオリジナルの薄い本があったような気がするけど……この後『アニメンバー』に行って探して……いや。それは止めておこう。
ヒロインサイド:ロスヴァイゼ
「ん~美味しい♪やっぱりここのマスカットパフェは最高よね♪」
私は目の前にある翡翠色をしたデザートを口にし、称賛の声をあげた。
そうやって私がマスカットパフェを堪能していると、
「なあ。お前ってさ…その身体が出来てから色々食べまくってるけど、なんで船が食事にこだわるんだ?」
私の搭乗者であるランベルトが不思議そうな表情で声をかけてきた。
「この身体は細胞体だから食事は必要よ」
「だからって食べ過ぎじゃないか?」
まあ確かにその指摘はまちがってないわね。
何しろ私のテーブルには、10個以上の空のパフェの器が並んでいるのだから。
「だってこの細胞体の身体はどれだけ食べても太ったりしないもの。だったら色々楽しまないと損じゃない」
人間と違い、この細胞体でできた分体は摂取した食事をエネルギーに変換したのち、余剰分を蓄積したとしても外見に変化はない。
「全宇宙の女性を敵に回すセリフだな…」
ランベルトはコーヒーを飲みながら微妙な表情をした。
ちなみに今私達がいるお店は、『エストレラコーヒー』というカフェチェーンで、それなりにお洒落なお店です。
以前キャプテンウーゾスに話を聞き、彼の知り合いの素人に絡まれたお店です。
「ところで。前々からきてる軍からのお誘いはどうするのよ?」
「受けたくはないなあ。なんか窮屈そうだし、絶対分体を寄越せって言って来る奴が増えるだろう。今でもいるんだし…」
ランベルトは、先だっての戦争での戦果を評価された皇帝陛下主催の慰労会に参加したときにもそうだけど、今回の首都への護衛の終わりの時も、軍の人間から入隊を誘われていました。
しかしその口振りからすると、入隊するつもりはなさそうです。
「確かに鬱陶しいわね。とくにあの女とか」
「あの女って…ハイリアット大尉だっけ。美人だけど、なんか苦手なんだよな…」
「それは正しい感覚ですから忘れないように」
ランベルトの言うハイリアット大尉とは、軍隊のプロパガンダ要員であざとすぎる女の事です。
あの女が苦手というランベルトの感覚は、どうやら至極正常なようです。
「こう考えると昇級したのはまちがいだったかな…。傭兵ギルドでも同じ司教階級の貴族連中に色々絡まれるし。こう考えると、ずっと騎士階級でいる人達の気持ちがわかるよ…」
ランベルトはため息をつきながらコーヒーを飲み干した。
彼もそれなりには腕が上がってきましたが、私に乗っていなければせいぜい城兵階級程度です。
しかし司教階級の傭兵達の中には、今の彼と同級かそれ以下の腕の連中が意外にも多数存在しているのです。
もちろん、戦闘は最低限でそれ以外の功績で司教階級になった人間もいるのでしょうが、そういう人間は醸し出す雰囲気がちがいます。
何より確かな実力や、誠実な仕事振りで昇級したものは無駄に絡んできません。
絡んでくるのは、実力も誠実な仕事振りもないゴミ以下の連中と、
「あ!いたいた!リアグラズ君よ!」
「やっぱりイケてるわよね!」
「余計なおまけもいるみたいだけど……」
明らかにお金目当ての頭の悪そうな女達でしょうか。
傭兵ギルドでも散々絡んで来ていましたが、ついにギルドの外でも絡んできましたか。
しかも3人ともギルドの受付嬢です。
さらに、そのうちの一人はストライダム・ビッセンとかいう女王階級傭兵のシンパだった女です。
金蔓が居なくなったので、今いる有望株であるランベルトに目を付けたんでしょう。熱心な事です。
「ねえリアグラズ君。私達ちょっと貴方にお話があるのだけど」
受付の女の一人、カルニナ・バートンが、私の事を完全に無視して、ランベルトに色気を出しながら話しかけます。
「なに?この後予定があるんで手短に頼みたいんだけど」
が、ランベルトはうざったそうに返事をするだけです。
「こ…ここじゃだめなのよ。それに彼女が居てはちょっと話しにくくて…だから私達と一緒に来て欲しいの」
あ、今受付の女がイラっとしましたね。
表現をなんとか取り繕って、再度声をかけますが、
「じゃあお引き取りを。目の前にいる相棒をのけ者にしないといけないなら話はしない」
「なっ…!」
ランベルトは一切相手をしません。
なぜランベルトがこの受付の女を嫌っているのか?
その理由は、ストライダム・ビッセンを刑務所送りにしたアルフォンス・ゼイストールという受付の……女?男?……まあとにかくその受付係に、この女が自分と相棒を奴隷としてストライダム・ビッセンに売り渡そうとしていた事実を聞いたからです。
まあ自分を奴隷に落とそうとした相手に言い寄られて絆される人はいませんよね。
というかこいつらはいつまで私を無視するんですかね?
「いい加減諦めたらどうですか?」
私が声を出すと、受付の女達はようやく私に視線を向けました。
「私達はリアグラズ君に用があるの。遠慮しようって考えはないのかしら?」
「ないわね。ランベルトが誰かの奴隷にでもされたらたまらないもの」
受付の女はこちらを馬鹿にするような態度で話しかけてきたわけですが、私の返答に少しは怯んだようですね。
「そんなこと…」
「ないとはいわないよな?実際あの場に俺を連れてきたのはあんただからな」
そして言い訳をしようとした受付の女に対して、ランベルトが珍しく怒りの感情を剥き出しにしています。
普段は能天気なランベルトからすれば信じられなかったんでしょうね。
「じゃ…じゃあ日を改めるわね…」
「「失礼しました!」」
そのランベルトの雰囲気に、受付の女達は怯えた表情をみせながらそくさと退散した。
その光景に安堵のため息を付くランベルトを見ながら、私は次のパフェを何にするか考えながらマスカットパフェを口に運んだ。
「はー美味しい」
ヒロインサイド:終了
最近になって、本格的なべっ甲飴の材料は砂糖・水飴・水だけで製作していると知りました。
うちのばあちゃんは水飴のところを蜂蜜を使用していたし、地元のお店は蜂蜜入りの店だったのでてっきり…
ですので、ゴンザレスの薬局の鼈甲飴は蜂蜜製ということでお願いいたします
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