モブNo.110:「それはおもてなしのしがいがあるわね」
結局それからすぐに、将軍閣下から解放されたけど、普段は飲まないアルコールを、少しではあるが口にしてしまったのもあり、その日は宇宙港内で一泊することにした。
さすがに翌朝には何事もなく、行きに使ったゲートは使用せず、回り道ではあるけれど料金の安いゲートをいくつも通り、何日間かかけて惑星イッツに帰りついた。
拠点の惑星であるため宇宙港には停泊せず、惑星上に降下して傭兵ギルドの駐艇場に船を停泊させ、受付には寄らず、そのまま自宅に戻り爆睡をかました。
目を覚ました後は、仕事から戻った時の習慣である掃除とゴミ出しを済ませてから、この前にいった入浴施設の『リラクゼーションヘルスランド』に行こうとも思った。
あそこなら朝食も取れるし、何より仕事の疲れを癒す事ができる。
そうして『リラクゼーションヘルスランド』に到着すると、朝食前にまずは風呂に入った。
船のシャワーや自宅の風呂も悪くはないが、この広い風呂には敵わないと改めて実感する。
以前の様にバーナードのおっさんに遭遇する事もなく、1人でゆっくりと風呂と朝食を楽しんだ。
風呂と朝食の後は、大抵『アニメンバー』に行って色々買い漁るのが定番だけど、たまには映画にでもと考え、近くにある『シネマ・デュドメ』という複合映画館に足を向けた。
今上映がかかっている作品で面白そうなのは、
パニックコメディの『シャーク・ガール』
アクション巨編の『リベンジングオーガ』
漫画実写化の恋愛コメディ『逆ハー女王の苦難』
ぐらいだろうか。
何れもそれなりに面白そうだったけれど、取り敢えず上映時間まで一番短い『リベンジングオーガ』を見ることにした。
内容は有角種族の統治する惑星に突如武装集団がやってきて、若い女性と子供以外を皆殺しにしたあと、若い女性と子供と一緒に貴重な資源や彼等の文化財で侵略者にとって価値のあるものを根こそぎ奪っていった。
そんな状態でも、たった1人偶然に生き残った有角種族の少年(17歳ぐらい)が、武装集団の基地に潜入し、獣人種の狼とゴリラ。鳥人種の禿鷲。リーダーであるヒューマンに復讐するというものだった。
パターンといえばパターンだけど、色々ギミックがあってなかなか面白かった。
映画も終わり、昼食をどうしようなんて考えながらぶらぶらしていると、どこからか大声が響いてきた。
「今現在!帝国は大きく弱体化しています!今こそ!植民地にされた全ての国家が立ち上がり、帝国を倒壊させるのです!そうして本来の生活を、国家を取り戻すのです!」
どうやら以前に見たあの団体だった。
事実、皇帝に弓引いた貴族が大量に処分された事で、圧政から解放された人達が数多く出ることになった。
それに乗じて、植民地の解放を訴えているらしい。
しかし現在、独立はしたくてもそれだけの経済力がなかったり、食糧を他の宙域から輸入していたりと、簡単にはいかない状況にある所もある。
さらには、独立するには戦闘が不可避と考え、反乱軍との戦争があったこともあり、独立を忌避する人達も少なくない。
そして、反乱軍との戦争前は多少は見逃されていたこうした彼等とその主張だが、
「警察だ!迷惑防止条例に基づき解散を命ずる!従わない場合は逮捕する!」
戦争終結後のピリピリした状態ではそうもいかず、しっかりと取り締まりの対象になってしまっている。
こんな時は巻き込まれないようにさっさと移動するに限る。
ヒロインサイド:スクーナ・ノスワイル
惑星ラグモス。
別名『岩の樹海』と呼ばれる巨大な1つの大陸と、豊かで美しい海を所有するこの惑星が、今回のプラネットレースグランプリ予選会の会場だ。
太さが最小30cmから最大50mで、長さは最小1㎝から最大1万mにもなる岩の柱が惑星内の大陸に無限と思えるくらいに乱立しており、どうしてこうなったのかは学者達の間でも未だに結論は出ていないらしい。
自然現象で岩の柱が割れたりして落下する事はあっても、凶悪な原生生物が居たりすることもない安全な所ではある。
しかし、連続する岩の柱のせいで方向感覚がおかしくなってしまい、方位磁石がなければ、いや、方位磁石があったとしても迷ってしまう天然の迷宮になっている。
そんな岩の柱の間を飛ぶこのコースは、飛行コースの選択・咄嗟の判断が問われる、シンプルだがパイロットの実力がためされるコースといえる。
そこでのレース直前の控え室で、私はレースに向けて神経を研ぎ澄ませるために瞑想をしていた。
そこにノックの音が響く。
「スクーナ。いいかい?」
「どうぞ」
入って来たのは、このプラネットレースチーム『クリスタルウィード』のオーナーであり、レーシングチームのリーダーでもある、グニル・カーラッドだった。
年齢不詳だけど見た感じは30代に思える男性だ。
「レースの方は上手く行きそうかい?」
「ええ。何回か飛んだことがあるからコースもヤバそうなポイントもきちんと把握してるわ」
この場合のヤバそうと言うのは、戦闘を仕掛けてこられそうな場所という事だ。
以前にもそこで仕掛けられた事がある。
「そうか。君の実力なら予選突破は確実だろうが、油断はしないように」
「ええ。解ってるわ」
「でも1位は狙わなくていいぞ。予選さえ突破できればいい。体力を温存しておけ。営業が控えてるからな」
彼がそういうと、私は全身を強張らせた。
「お仕事?」
「ああ。先日バーゲン帰りのお客様を営業二課の連中がもてなしたんだが失敗、フォローに来たアルバイトも失敗してしまって売り上げが心許ない」
「その次のお客様はどんな人なの?」
「繊細で気難しいお客様だ。扱い方には注意しないといけない」
「それはおもてなしのしがいがあるわね」
第三者が聞いたら、私が枕営業でもしているかのような会話だけれど、私達がしたこの会話の真の意味はこんな感じだ。
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「でも1位は狙わなくていいぞ。予選さえ突破できればいい。体力を温存しておけ。任務がある」
「襲撃任務?」
「ああ。先日買い叩きをやらかした株式会社スターデンの輸送部隊を別部隊が襲撃したが全滅。協力者だったサークルース伯爵家の部隊に救援を求めたが連中も返り討ちにあった。そのため資金が足りない」
「襲撃する相手は?」
「先だっての反乱には参加しなかった貴族だ」
「それはおもてなしのしがいがあるわね」
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『営業』これが任務がある時の符丁。
私が所属しているプラネットレーシングチーム『クリスタルウィード』は、反帝国抵抗運動組織の隠れ蓑なのだ。
一時期はカイデス海賊団としても行動していたのだけれど、有名になりすぎてしまったので、小惑星を改造した要塞を製作してアジトにし、情報を流して壊滅させた。
その時の小型の有人戦闘艇は、チームの移動用輸送船『シード1』に搭載してあるシミュレーターにもなるリモートシステムで動かしていた。
その際の戦闘で、私や友人のアエロ・ゼルリア・ティンクスを含めた多数の人間が、傭兵ジョン・ウーゾスに一度は撃墜されている。
私は5回挑んで5回とも撃墜された。
でも不思議と悔しくはなかった。
高校1年生の時の『教員による傭兵斡旋事件』で戦場に居た時、私はジョン・ウーゾスの動きを真似していたお陰で生き延びたのだから。
「とはいえまずはレースだ。賭け屋でのオッズは君が一番人気。ファンの期待に答えつつ、賭け屋に多少は利益を出してやるといい」
オーナー兼リーダーは爽やかで暑苦しい雰囲気を纏わせながら親指を立てた。
これは……私に任務が来たのがわかって別の人に賭けたわね。
関係者はブックマーク禁止なのに……。
だったら力をセーブしてトップを取ってやるわ。
動かない岩とジョン・ウーゾスより動きの悪い相手に負けるとは思わないもの。
ヒロインサイド:終了
アエロ嬢の名前を変更しました!
スクーナ・ノスワイルさんの裏家業ですが派閥があり、
独立派…植民地の独立・帝国は残す
吸収派…植民地の独立・帝国は滅ぼす・領地は周辺国に分配
民主化…植民地は独立しない・帝国は滅ぼす・合議制民主国家にする
の3つに分類されます。
ノスワイルさんたち(レースチームのメンバー)は吸収派閥です
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