モブNo.108:「そんなもんで慰謝料が取れるわけがないだろうが」
惑星ガロスティダルは、銀河大帝国の国内に点在する帝室直轄地の一つだ。
その理由は、その惑星の近隣に帝国首都である惑星ハインへの直通ゲートが往復分存在し、交通・物流はもちろん、軍事的にも重要な地点であるからだ。
実際、現在帝国の一地方となっている元・国家に対し、このゲートを使用して侵略戦争を仕掛けてきたのだから、その重要度は推して知るべしだ。
そんな帝室直轄地はもちろんの事だが物凄く警備が厳しく、先だっての反乱軍討伐の時にすら警備が動かなかったと言われている。
当然僕達のような傭兵はめちゃくちゃ厳しい検問を受ける事になる。
さらに、このゲートだけは使用料がめちゃくちゃ高い。
もちろん貴族も平民も同じ値段だ。
首都の安全を考え、先代陛下もこれだけは妥協したらしい。
とはいえ平民も使えないわけではないので、修学旅行時や社員旅行時にはよく利用されるらしい。
しかし今回は、依頼主である株式会社スターデンが首都惑星であるハインに本社を持つ老舗企業な事と、ジャック・バルドー・ブレスキン帝国軍中央艦隊討伐部隊総司令官兼第1艦隊司令官のご意向があってか、検問はわりとあっさりと通過という有難い状況だった。
あの司教階級の彼等、有り難く『身代わり君』と呼ぼう。も、さすがにこんなところで馬鹿をすることはなかった。
ちなみにゲート使用料は、通過する船一隻に対してかかるので、通過時は全員航空母艦に収納済みだ。
そうして少し緊張しているうちに、船外カメラモニターは、ゲートを通過した瞬間を映し出していた。
直通とは言ったが、ゲートを通過しても直ぐに惑星ハインへ到着するわけではなく、ゲートから3時間ぐらいは飛ぶ必要がある。
有事にはこの距離を利用して、敵の迎撃を行うのだそうだ。
ここまでくればもう大丈夫ではあるけど、念のために警備はしっかりと実行する。
そうして見えてきた首都惑星ハインは、青く美しい惑星だった。
この首都惑星には、高校の修学旅行で一度だけ来たことがある。
その時は皇城を外から眺めたり、テーマパークコロニーに行ったり、自由行動時にアニメショップや書店に行ったりの、お決まりのコースを巡るだけだった。
そうして惑星ハインに到着する直前に、傭兵全員が航空母艦から船を発艦させる。
この惑星ハインでは、惑星に直接降下できるのは、皇族である皇帝陛下と公爵閣下の御座船とその護衛・帝国軍所属の一部艦船・物資輸送用の専用貨物船のみで、それ以外の全ての船の降下は禁止されている。
今回の依頼主の貨物も、物資輸送用の専用貨物船に載せ替えて納入されるらしい。
現在は惑星全体を覆う巨大バリアを開発中との噂だ。
その為この惑星ハインには、用途に応じたコロニーが数多く存在する。
惑星上に降りるための軌道エレベーターがある宇宙港を中心に、貨物の搬入・搬出専用コロニーや、自家用(民間)船舶の停泊専用コロニー、警察専用コロニー、軍の駐留用コロニー、そしてもちろん傭兵ギルド専用のコロニーもある。
そうして惑星ハインに到着すると、依頼主である株式会社スターデンの関係者から、依頼の終了証明と共に、画面越しではあるが、護衛をした傭兵達への感謝と労い、そして亡くなった者達への冥福と感謝の言葉をいただいた。
傭兵ギルド専用のコロニー=傭兵ギルド本部コロニー出張所に船を泊め、早速報酬を受け取りにいくことにする。
が、どうやらこの出張所の受付は女性しかいないらしい。
物凄く嫌な予感しかしないが、行くしかないので思いきって話しかけてみた。
「すみません。護衛依頼の終了証明をもってきたので、手続きをお願いします」
「はい。かしこまりました。終了証明と身分証明をこちらの検査機にかざして下さい……はい。ジョン・ウーゾス様ですね。株式会社スターデンからの依頼は達成。報酬が振り込まれておりますのでお受け取りください」
「あ、情報でお願いします」
「かしこまりました。少々お待ちください…。支払いにご使用の端末をこちらに」
受付嬢の言葉に従い、差し出された走査機に腕輪型端末をかざすと、ピピッという電子音が鳴り、僕の腕輪型端末に報酬が支払われた。
「株式会社スターデンからの輸送船団の護衛依頼の報酬・固定給150万クレジットに危険手当150万クレジットを追加した合計300万クレジットです。お受け取りください」
「あ、ありがとうございました」
僕はお礼を言った後、拍子抜けすると同時に物凄く警戒した。
女性の受付に手続きをお願いして、こんなにスムーズに終了するなんて怪しすぎる。
なので、一旦安心させてからの不意打ちがくるとおもったからだ。
だがギルドの方からは何も言ってくることはなかった。
まあ僕以外にも同じ依頼の手続きをする人達がいっぱい居たので悪目立ちしなかったのと、物凄く目立つ人達が居たからかもしれない。
案の定、ランベルト・ロスヴァイゼ組と、アーサー・セイラ組、そして『身代わり君』達が、軍人らしき人達に囲まれていた。
やっぱりスカウトが来たらしいね。
手柄を譲っておいてよかった。
とはいえランベルト君辺りが口を滑らさないとも限らないし、ろくでもない奴が絡んでくるかもしれないので早めに退散することにしよう。
受付から駐艇場に移動するまでの間、他の傭兵に絡まれることもなく、無事に自分の船までたどり着き、燃料補給をすますことができた。
ちなみに、コロニー間の移動が頻繁なため、全てのコロニーに燃料供給施設があるそうだ。
これで直に出発できると思い、船に乗り込もうとした瞬間、
「おい。なんでてめえがここにいるんだよキモオタ野郎」
と、嫌みな台詞を浴びせられた。
その正体は、取り巻き共々恐喝罪で逮捕されたはずの、『煉獄』という傭兵チームのリーダーをやっている女王階級の傭兵、ストライダム・ビッセン伯爵令息だった。
今回は『煉獄』の取り巻きはおらず、1人だった。
まあ、本人が殴られた以外大した被害はなかったから、父親に頼んでだしてもらったか、先の反乱軍鎮圧に志願して、恩赦でももらったんだろうね。
「護衛の依頼で来ただけで、今から帰るところですよ」
本当はこんなやつに敬語なんか使いたくはないが、面倒を避けるためには使った方いい。
「だよな。お前が本部の所属になるなんざ身の程知らずもいいとこだからな」
「はい。ですので失礼します」
それだけ言ってさっさと船に乗り込もうとすると、
「待て。お前、『羽兜』の金髪女を知ってるよな?」
と、声をかけられた。
なんだろう。同じような台詞を最近聞いた気がする。
「ええまあ。今回一緒に仕事をしましたからね」
「じゃあそいつを俺のところに連れてこい」
まあ、コイツの用件なんかは所詮こんなものだろうね。
なのですかさず、
「無理ですね。私が話しかけたところで見向きもされませんよ」
と、答えてやった。
コイツからすれば、僕の評価なんかこの程度だろうから、こう言えばあっさり引きさがるだろう。
船をだした後にロスヴァイゼさんに連絡することにしよう。
しかしコイツの返答は、僕の予想を遥かに超えてきた。
「ちっ!役に立たねえな。おい!役に立たなかったんだから慰謝料を寄越せ!」
え?なにいってんのコイツ。
そんな事で慰謝料なんか取れるわけないじゃん!
以前は、嫌みや暴言を吐いてはきたが、金を要求してくるなんてことはなかった。
おそらく逮捕された事で、父親からお小遣いを貰えなくなったんだろう。
だから、取り巻きがいないわけか。
もしかすると階級を降格させられたりもしたのかな?
それで即カツアゲ、いや、コイツからすれば正当な要求なんだろうな。
どうしたものかとため息をついていると、
「そんなもんで慰謝料が取れるわけがないだろうが」
という、以前に聞いた、そして聞きたくない野太い声が聞こえてきた。
今回はこちらが先で、遅れてしまいました。
最後に現れたのは何者でしょう…?
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