モブNo.104:『じゃあ改めてその辺の情報を探ってみる。この情報はロハでいいからな』
将軍閣下が製作したシフトでは、僕は最初のシフトに組み込まれた。
同じシフトになったのは、ランベルト君・ロスヴァイゼさん組とダンさんだった。
銀河標準時的には、僕らが昼間、アーサー君・セイラ嬢組とモリーゼは夜間を担当する感じになる。
アーサー君たちは今頃眠くなくても横になっていることだろう。
開始したばかりなのもあって、仕事は実に平穏だった。
あまりにも平穏なので、思わずゴンザレスにさっきの確認をしたかったが、仕事中にするわけには行かないので我慢した。
ありがたいことに、全体の定期報告以外、ランベルト君もロスヴァイゼさんもモリーゼも、他の誰かも話しかけてくることはなく、静かに時間は過ぎていった。
そうして初回の仕事が終わって、休憩時間に入ってすぐにゴンザレスに連絡をした。
『よう。いま護衛の仕事中じゃないのか?』
あいつめ。のんきに焼き鳥なんか食べてやがった。
たしか商店街にあった『焼きコカトリスの針金亭』って店のやつだろう。
「今は休憩中。それより聞きたいことがある。なんで今回の依頼に軍、しかも第1艦隊の将軍閣下が噛んでることがわからなかったんだ?」
僕は冷静に事実だけをつたえた。
ゴンザレスがわざと教えなかったなんてことは微塵も思ってない。
おそらく彼の腕をもってしても、裏を取れなかったのだろう。
『そうだったか…。すまない。いいわけにしかならないが、俺のネットダイブでも潜れないようなところでやりとりがあったか。もしくはカメラもマイクも無いところで交わされた会話はわからないし、指示の内容が書かれた紙を金属の板にでも挟んで、配達業者に頼まずに相手に渡したなら内容はわからない。もちろん。書くのも読むのもカメラのないところ。さらには直接会って筆談をして、その紙を直ぐに燃やされたりしたら、そのやり取りを知るのは絶対に不可能だからな。改めて申し訳なかった』
ゴンザレスは自分の力不足を否定することなく、素直に謝罪をした。
彼の実力から考えて、潜れない深さはそうそうないだろうから、取られたのは後者の手段かな。
そう考えると、防諜の手段は案外原始的やつの方が効果的なんだな。
『じゃあ改めてその辺の情報を探ってみる。この情報はロハでいいからな』
ゴンザレスは、情報が取れなかったことに、プロとしてのプライドが刺激されたのか、かなり真剣な表情をしていた。
「ああ。連絡は同じぐらいの時間に頼むよ」
そうやって、初日の休憩は何事もなく過ぎていった。
2日目の仕事も何事もなく終了すると、休憩に入ってすぐにゴンザレスから連絡が入った。
『よう。情報がとれたぞ』
そう報告してきたゴンザレスの顔は、かなりやつれてはいたが、やり遂げたプロの顔をしていた。
「それで、仔細はわかったの?」
『株式会社スターデンが、利益を上げるために開始した買い叩きなわけだが、護衛として傭兵を雇った事がなかったために、社長が友人であったジャック・バルドー・ブレスキン大将閣下にアドバイスをお願いしたらしい。その時に人材発掘と不穏勢力のおびきだしを交換条件にしたようだ」
「つまり会社がもうけようとやったことに、たまたま将軍閣下が相談を受けて、それに便乗して人材発掘とおとりを実行したってことか?たしか将軍閣下って侯爵だったよな」
『ああ。将軍閣下は若い頃から身分的なものを気にしないタイプだったらしく、平民だった社長とも学生時代からの友人だったらしい。噂だと学生時代に揉め事から先代陛下をぶん殴ったけど、その事がきっかけで良き友人になったなんて話もある』
「とんでもないなあの人…」
先代陛下は若くして亡くなられたが、その陛下の学生時代なら、まだまだ身分差がでかい時代だ。
そのころに侯爵の身分の人間が平民と友人になるとか、ましてや皇族を殴るなんて死刑になってもおかしくはない事実だ。
それにしても、将軍閣下の学生時代の話はともかく、前回は取れなかった情報をよくゲットできたもんだ。
できればどうやったか知りたいけど、教えてはくれないだろうね。
『お前の事だから、軍の人材発掘には引っ掛かりたくないだろう。気を付けて行動するんだな』
「わかったよ。情報ありがとうな」
これは相当に気をつけないと危ない。
もしかしたら軍の人間が、社員や傭兵に紛れ込んでいるかもしれないからだ。
こうなったら精々目立たないようにしないといけない。
しかしこのあと、軍のスカウト関係とは違うベクトルでの厄介事が振りかかってきた。
ゴンザレスからの連絡後、食事を終了して、シャワーでも借りてから船に帰ろうとした時に、何者かに声をかけられた。
「おい。ちょっといいか」
声をかけてきたのは、僕よりは少し歳上な感じの男性で、その後ろには取り巻きっぽいのが何人かいた。
「なにかご用ですか?」
「お前。『羽兜』のロスヴァイゼって女知ってるか?」
「ええまあ。見かけたことぐらいは」
ここで、知り合いですなんて言ったらヤバそうな感じがしたので、さらっと嘘をついた。
「ああいういい女は、あんなガキじゃなくて俺みたいな男にこそ相応しいと思わないか?」
男性は髪を整えるポーズをとるが、ダンさんほどは格好よくはなかった。
「相応しいかどうかはしりませんが、それと僕に話しかけることになんの関係が?」
「あのランベルトってガキをシメるのに協力しろ」
「いやですよ」
僕は男の提案を即座に断った。
すると男性は怒りの表情になり、
「あんなガキが俺と同じ司教階級なんて許せねえ!お前だってあんなのが自分より階級が上だと思うとむかつくだろうが!」
と、怒鳴り付けてきた。
つまりは嫉妬から複数で囲んで後輩をシメたら、その彼女も美味しくいただこうという目論見だったらしい。
それにしてもこの人、司教階級だったのか。とてもそうは見えないけど。
「僕は別になんとも思いませんね。それに今は休憩中ですけど仕事の最中ですよ」
僕がそう指摘すると、男性は苦々しく舌打ちをした。
護衛や警備の仕事の場合、傭兵同士の私闘は厳禁とされている。
理由として、怪我をしたり、万が一死んだりした場合、護衛や警備に穴が空くからだ。
さらにその原因になった人物には、ペナルティが課せられたりする場合もある。
相手はそれを思い出したらしく、
「けっ!腰抜けが!」
と、捨てセリフを吐いてからその場を離れていった。
取り敢えずロスヴァイゼさんに連絡…は、しなくていいか。
あの人達、多分何にもしないだろうし、やったとしても、ロスヴァイゼさんにはかなわないだろうしね。
そして3日目。
ようやく行程の折り返しにやってきた。
今日明日と無事に終了するためには、ここで誰かと会話してフラグを立てないようにしないといけない。
まあいままでも仕事中は誰とも話してないから大丈夫だろう。
なんて呑気におもっていたのはうかつだった。
自分自身でのモノローグでもフラグは成立するんだよな…。
3日目がスタートして6時間ほどたったころ、
『10時の方向に反応。おそらく海賊です』
ロスヴァイゼさんが海賊を発見した。
新型にアップデートした僕の船のレーダーでは反応すらでてないのに。
さすがは古代の電子戦機、次元が違うお。
最近リアルが忙しい…
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