モブNo.103:「なにその節操の無さすぎる荷物のチョイス…」
コロニー解体現場の警備の仕事が無事に終了し、無事に、何事もなく惑星イッツに到着し、家にたどり着いた時には、すぐさまベッドにダイブした。
そうして戻った日から2日はのんびりと過ごし、3日目は出立準備をし、4日目の朝には仕事を受けるべく傭兵ギルドに向かった。
幸いディロパーズ嬢に逢うこともなく、ローンズのおっちゃんのところにたどり着けた。
「今回は海賊の襲撃なんかはなかったらしいな。のんびり出来たんじゃないのか?」
「まあ7割ほどはね」
「3割はなんだったんだ?」
「傭兵の後輩関連でちょっとね。しかもここで登録したらしいからさ。出来れば関わりたくないかな」
「そりゃ災難だったな。できるだけここに居たくないってんならいい依頼がある。タイミングがよかったな」
僕の少ない言葉で、何かあった事を察してくれたらしく、依頼書を見せてくれた。
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業務内容:輸送船団の護衛。
業務期間:惑星イッツより惑星ガロスティダルを経由しての首都惑星ハイン到着までの約96時間。
銀河標準時間を基準とした2交代制の12時間連続勤務で12時間の待機休憩。
業務環境:随伴する航空母艦での食事の無料支給・宇宙船の燃料支給・待機休憩時の停泊。宿泊施設はないので基本的に各自の船内での寝泊まりになります。
業務条件:階級が騎士階級かそれ以上であること。
宇宙船の持ち込み必須。
持ち込み宇宙船が破損した場合の修理費は自腹。
報酬: 150万クレジット・固定。危険手当支給。
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内容を見る限り、この依頼はなかなかに好条件だった。
護衛の仕事の場合、基本的に無休で傭兵同士で時間を調整しながら休憩をとるのが普通だ。
それを、航空母艦。といっても大型の貨物船を改造したやつとかだろうけど。を利用できて、休憩がしっかり取れるのはありがたい。
なにより、階級が騎士階級でなければ受けられないというのがいい。
「これならルーキーは来れないぜ。募集人員は50~70名。募集の締め切りは今日まで。現在の募集人数は65名。出発前のミーティングは明日早朝6時。その後直ぐに出発だそうだ。依頼者は株式会社スターデン・流通事業部だ。積み荷は色々と多岐にわたるらしい。葉巻や酒や高級フルーツやらの嗜好品・惑星ルルックに生息するスノーモスの吐く糸で織った雪絹布・博物館に寄贈する植物標本や動物標本・惑星ネゴラ産の純銀の鋳塊・産地は秘匿だが金の鋳塊。他にも色々なものがある」
「なにその節操の無さすぎる荷物のチョイス…」
本来なら個別に輸送されるであろうものを、何故にこんなに固まった状態で輸送するんだろう?
「今現在色んな星で復興作業中だろ?そのために領主の貴族は金が必要だ。そこを狙ってスターデン社が色々買い付けたらしい」
「商魂逞しいなあ…」
「で、どうするよ?」
「取り敢えず受けるよ。なかなか条件のいい依頼だしね」
それに、会うと気まずい人に会うんじゃないかと思いながらビクビクしてるよりはいいからね。
そうして依頼を受けた後に、すぐにゴンザレスの所に行って調べてもらったところ、スターデン社が意欲的に品物を買って、首都ハインで売りさばいてるのが確認出来ただけだった。
それから一度家に帰ると、即座に支度をしてから買い出しに行き、必要な物全部を船に乗せておく。
さらには船の点検を済ませ、燃料・水・汚水タンクのチェックをやっておく。
さらに今晩は家には帰らず、ギルド近くのカプセルホテルですごす。
こうすれば、朝にはバタバタせずにすむし、寝坊以外で遅刻することはない。
船で寝泊まりしないのは、燃料・水・食料を減らさないためだ。宇宙に出た後は何が起こるかわからないからね。
そして翌朝。
ミーティングが行われるホールに行ってみると、誰もいなかったどころか準備すら出来ていなかった。
流石に目が覚めたからって1時間前に会場入りはやりすぎたかな。
それから20分ほどして依頼先の関係者数人とギルド職員数名とドロイド何体かがやってきて準備を始めた。
職員とドロイドが椅子を並べ終わるころには、傭兵達もポツポツと集まってきたので、一番後ろの角の椅子に座る。
ミーティング開始5分前になると、参加したほぼ全ての傭兵が着席していた。
そしてなぜか僕の回りには、ランベルト君とロスヴァイゼさん。アーサー君とセイラ嬢。がさつ女のモリーゼに、『無敵のタフガイ』のダンさんという、知り合いがひしめいていた。
ちなみにロスヴァイゼさんとセイラ嬢は騎士階級ではないが、ランベルト君とアーサー君のパートナーという位置付けだ。
パートナーは傭兵の資格がなくてもなれる。が、依頼の受領や賞金の受け取りはできないようになっている。
ちなみに、反乱軍との戦争後に姿をみなかったレビン君だが、昨日闇市商店街にある怪しさ満点のカフェのオープンテラスで友達らしい人達と中二病的会話をしていたのを見かけたので、僕の数少ない知り合いはみんな生き残って帰ってきたようだ。
そのうちに傭兵も全員集まり、時間が来るとスターデン社の人による説明がはじまった。
「えー今回我が社の依頼にご参加くださりありがとうございます。今回は我が社が、言い方は悪いですが、近隣の復興領地の資金不足に目を付け、適正価格より少し安めに買い付け、帝国首都ハインで販売する予定です。その品物の輸送の護衛をしていただきます」
典型的なサラリーマンといった感じ男性が説明を始めると、全員の端末に資料が一斉に配布された。
「今回はご参加くださった皆様の階級・実積などをギルド職員の方々、及び私の知人でもあるジャック・バルドー・ブレスキン大将閣下にお知恵を拝借し、我々の方でシフトを決めさせていただきました。契約期間内はこのシフトで動いていただく事になります。もちろん緊急時には休憩中でも動いていただく事になります。労働条件については募集要項にあるとおりです。なにかご質問はありますか?」
ちょっとまった。いまなんか嫌な名前が出てきたお?
おかしいなあ。ゴンザレスの奴が調べても、微塵も名前が出て来なかったのに。
あいつが嘘をつく可能性は低い。
情報屋は信用商売だから、わざと偽情報を掴ませた場合信用が地に落ちる。
元々ゴンザレスを疑うつもりはないけどね。
とはいえ後で連絡しておこう。
ディロパーズ嬢関連で、もしかしたら軍に目を付けられているんじゃないかなという不安があるなか、軍絡みの依頼は受けたくない。
とはいえ今更ながら辞めますとは言えないし、質問なんかしたら目立ってしまう。
もしかしてこの中に軍の関係者が居るんじゃないだろうか?
もちろん全く関係無いのかもしれない。
が、警戒するに越したことはないかな。
「それでは特にご質問も無いようですので、これにてミーティングを終了させていただきます。出発は40分後ですので、それまでに衛星軌道上に上がっておくようにしてください。それではよろしくお願いいたします」
こうしてミーティングが終了すると、全員が一斉に駐艇場に向かった。
僕はいつものように、最後に出るために他の連中が出ていくのを見守った。
出来ればこのまま座っておきたいなあ…。
モブにとってよくない依頼だった罠w
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