167.フラグがたったのかも……
女神様はコホンと一度咳払い。そして「ステータスを見てごらんなさい、新たに使える様になった魔法一覧を見られますよ」と仰られました。
ステータスを開いてみると、豪華な魔法が並んでいます。
『完全治癒魔法』『蘇生魔法』『瞬間移動』『広範囲回復魔法』『光の壁(ライトウォール』
『完全治癒魔法』って、どんな病気でも治せるの?もう聖水要らないじゃん。
『蘇生魔法』蘇生が出来るんだ、生き返った人ってゾンビじゃないよね?でも、だくさんの魔法量を要するわね。満タンで2回が限度かぁ。
『瞬間移動』って知っている人や知っている街なら、そこまでワープできるんですって。じゃあ、先程悩んでいた問題はクリアね。移動手段を考えなくったって大丈夫。だって私マサトの事は知っているのだもの。
んと、それから『広範囲回復魔法』か。範囲の中に居る人全てに回復をさせられるのね。敵味方の区別が出来るのかしら、一度弱い敵で試してみなくちゃね。
最後に『光の壁(ライトウォール』か。どうやらシールドみたいだね。悪魔の攻撃に特化しているんだって、うふふ、これで悪魔対策はバッチリね。
よく分かりました。こんな特別な魔法を一気に手に入れて良いものなの?いきなり攻略しやすくなっていませんか?これだけ持っていても五分五分って、悪魔ってどんだけ強いのよ。
これは悪魔討伐に必要な魔法ばかりなのね、覚悟を決めました。これなら役に立てる、死ぬフラグを回避できるかもしれない。少し希望が持てるようになり、嬉しくなってきました。
「フフフ、すごく喜んでいるわね。これであなたも真の賢者よ。真の賢者になる試練の事なんて何も知らなかったのに、よく頑張ってくれました。リリパット達も、ドワーフ達もあなたに感謝していましたよ。私の庇護下に置かれている者たちを助けてくれて、有難うございます。お礼にこの魔法を授けましょう」
ニヤニヤしているのを見られてしまいました。ちょっと恥ずかしい。私が両手で自身の顔を覆うと、ちょっと間を置いた、女神様は微笑みながら両手をパッと広げました。
『分身』
「この魔法はあなたの実体のない分身を作る事が出来る魔法よ。敵のアジトを偵察する時や、洞窟を探索する時に役に立つ魔法だけど、ここでの使い方はね……」
実体のない私の分身は、幻の様なものです。荷物を持つことや話すことも出来ないですが、頷いたり微笑んだりすることは可能です。
女神様……私がマサトの所へ行く前に、悔いが残らない様に考えてくれたのですね。有難うございます。きっと、フラグを覆します。そして、後悔しない為にも行ってきます。
今手に入れた魔法『分身』を使って5人の分身を作りました。そして、それぞれの分身に『瞬間移動』かけました。
◇ ◇ ◇
孤児院では子供たちがせっせと畑仕事、いたずらネズミに荒らされた畑も見事に蘇り、旬の野菜たちがぎっしりです。きっとクマさんもいっぱい手伝ってくれたのでしょうね。ふふふ、あんなに不愛想だったライタも小さな子に優しく教えて、立派になったものだよ。それに凄いよ、クックバードも10羽以上いるし。いつでも美味しい卵を食べられるね。
あれ?シスターマーガレットさんの隣にはおお、第二部隊の隊長でジョージさんではないですか。ルイ様繋がりなんでしょうけど、いつの間に仲良くなっちゃったの?このこのぉ。あらあら、シスターマーガレットさん少し赤くなっている。うふふ、お幸せにね。
うん。ここは大丈夫だ。絶対また来るからね。元気でいてね。
シスターマーガレットは誰かに見られている気配を感じました。その方向へ眼をやると優しく微笑むミドリの姿に見えたのですが、スーッと消えていったのです。
「あれ?今ミドリちゃんが居た様な気がしたのですけど……気のせいだったみたいです。彼女元気にしているかしら?また来てくれないかな……」
◇ ◇ ◇
うわあ、ルナカモマイルのハーブ園、見事に花が咲いているよ。まだ収穫できる時期だったんだね。あ、従業員の方たちも沢山居るじゃない。皆戻ってくれたのですね。
従業員たちも居ないのにアニカさんよく頑張ったよね。
あ、あそこにはビベックさんとビベック夫人だ。立つことも必死だったのに、頑張ってリハビリをしたんだね。あ、ビベックさんあんなに重そうな荷物を運んで、ちょっと無理しすぎじゃないの?ほら、アニカさんに叱られちゃった。
あ、フウリさんがお茶を入れて持ってきました。フウリさんもとっても元気そうだわ。ふふふ、ビベックさん達、絶対彼女に頭上がんないわよね。みんな楽しそう。いいなあ、私も参加したい。
はぁ、良かったなぁ、皆元気になって。また来るね、また出来立ての美味しいハーブティーをご馳走してね。
……またこられたらいいなぁ
◇ ◇ ◇
わぁ、エイ、ヤア!と元気な声が響き渡っているね。前来た時にはジゴロウ師匠ひとりで掃除していたのに、門下生全員戻ってきたうえに、さらに増えているじゃない。
指導しているのは……あ、あれが師範代のチョンさんですね、負けたことを恥じて一人で修行の旅に出かけたって言う。でも、戻ってきたという事はサラさん達が必死になって探したんだろうね。
お、よく見るとジゴロウ師匠も指導に参加しているじゃないの。私も師匠のお陰で強くなれたのだから、他の人にもちゃんと教えてあげてね。でも、セクハラはダメだよ。折角いる女性の門下生も逃げちゃうからね。
分身の私が『サラ流棒術道場』の門の陰から覗いていると、サラさんは私の存在に気付きました。驚いた顔をして、こちらに走って来るサラさん。
ごめんね。この魔法長くはもたないの……
「あれ?ミドリさんが居たと思ったんだけど……おかしいわね。彼女元気かな、また来てくれるかな……」
◇ ◇ ◇
「あれ?ミドリちゃん、神殿から帰ってきたの?ん?なんか影が薄いね」
分身の私はマリーさんの声は聞こえているのですが、返答することは出来ません。せいぜい微笑んだり、頷いたりするくらいです。
それしかできないので、私は精一杯微笑んで頷きました。コッソリ陰からマリーさんを見ようと思っていたのですが、なんと、マリーさんの目の前にワープしちゃったんですよ。
「どうしたの?話せないの?……ははぁミドリちゃん分身魔法を使っているんだね。だから話せないんだ。という事は、無事神殿に辿り着けて賢者の杖を手に入れたって訳なんだね」
「……分身でここに来ているってことは、暫くは帰れないから姿を見せてくれたって事なんだね。わかるよ、私も長い間この仕事をしているから、ミドリちゃんが危険な場所に行こうとしている事くらい分かるんだよ」
分身の私でも涙を流すことは出来るんですね。ポロリとなりました。
「あのね、あんたの弟子のアイラもあの男子も頑張っているよ、もう何でもこなせるくらいになっている。あんたのお陰だね、ミドリちゃん」
私は空に指で文字を書きました。
『マリーさん有難う、お元気でね。また帰って来るね』
「ホントだよ、ちゃんと本当の顔を見せてよね、それと……」
話の途中で時間が来たみたい、ゆっくりと私の身体がその場から離れていったのです。
「おい、今いた冒険者、消えなかったか?」
「ああ、俺も見たぜ、マリーさんどうなっているんだ?」
「煩いわよ。誰も居なかったわよ、幻でも見ていたんじゃないの?それよりさっさと仕事に行ってきなさい」
「そうだったのかな……おかしいなぁ……」
冒険者たちはキョトンとして去っていきました。
(ミドリちゃん、きっと帰って来てね)
◇ ◇ ◇
おや、ここは森の中ですね。アイラ依頼中なのかしら?
「そうそう、その調子よ、『火の魔法』で足止めをしたわ。今よフィン」
目の前に現れたビックベアー5体の攻撃を難なく躱しながら、確実にフィンは切り裂いていきます。そこへ後ろの死角から数匹のポイズンスパイダーがフィンを襲い、毒を受けてしまいますが、ネルの素早い解毒でフィンは難を逃れ、再びビックベアーに挑みます。ネルはその後すかさずポイズンスパイダーを痺れさせ、動きを封じた後、アイラが鋭い『火の魔法』ですべてのポイズンスパイダーを攻撃しました。
ビックベアーはフィンが、ポイズンスパイダーはアイラがほぼ同時に全滅させた後、お疲れ様と言う様にネルが2人に『回復』をかけました。素晴らしい連係プレーでした。
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