165.女神様
ミザリが帽子を取った所初めて見たわ。サラサラでやや白めの美しい金髪の隙間から見えるピンと尖った耳。この耳って……
「ミドリさん驚きましたか?ミザリはエルフであり、実は私の使徒だったのですよ」
「えええっ!え……あの、えっと」
どのように処理をして良いのか分かりません。何処に目をやってよいのか分からなくて、あっちキョロキョロこっちキョロキョロ。唇をワナワナ震わせている私に、ミザリは申し訳なさそうにこちらを見つめてきます。
と、いう事はですよ。今までミザリは色々な道や、リリパットやドワーフの村を知っていたりして、凄いなぁと思っていたけれども、いたけれどもですよ。女神様の使徒って事は道や村の事を知っていて当然って訳じゃないですか。何だか煮え切らない思いです。
「ミドリ、ミザリは私の言いつけを守っていただけなのです。どうか許してあげて」
あまり申し訳なさそうな表情をしていない女神様が、申し訳なさそうに喋ります。半分面白がっているんじゃないかしら?それよりもミザリです。彼女は本当に申し訳なさそうな表情を浮かべていて、私がチラリを見ると、眼を逸らして瞳を閉じでしまいました。
「戸惑うのも当然ですよね、騙していたわけではありませんでしたが、隠していてすみませんでした」
恥ずかしそうに眼を閉じたままペコっと頭を下げたミザリ、そして謙虚なミザリなんて見た事も無かったので、どう返していいのか分からず「い、いやぁ」と全く気に利かない言葉しか出てこない私。それを何やら微笑ましい笑顔で見つめて来るカリン様。
コホン……何だかこちらが悪い事をしているような気分になってきたので、気持ちを切り替えます。うん、ここは大丈夫だよって言わんばかりの笑顔だよ。私はミザリの方を向いてニッコリです。
へえ、よく見るとエルフのミザリってとても可愛い。そう言えばエルフってとっても長生きでしょ?本当は幾つなのかしら?私がミザリの顔をぼーっと見つめていると、女神様もコホンと咳払い。
「もういいですか?では、私の方からこれまでの事を説明させて頂きますね」
そう言えば「フハハハハ」とかの前振りがどれだけ必要だったのかよく分かりません。もしかしたら私をリラックスさせる為だったのでしょうか?かえって動揺しましたけど、そして突然真顔になった女神様はこう説明してくれました。
女神様は私が賢者になる事は随分前から分かっていたそうです。全てはここに導くために……
ミザリをステア率いる『銀世界』のパーティに入って貰ったのも全て予定された事でした。アイラと私が出会った事は想定には入っていなかったのですが、女神様にはいずれ私と『銀世界』が接触することは判っていたのです。
「私の目的はミドリ様に警戒されずに接触する事でした」
「もう、その様ってのやめてよ。ミザリにそう言われると身体がムズムズするわよ。じゃあ、フィン君がいじめられることも分かっていたの?」
「……じゃあ、ミドリさんと呼ばせて頂きます。で、話を戻します。いじめられる人がフィン君だとまでは判ってはいませんでした。けれど、誰かがステアのいい様に使われるだろうという事は予言されておられました。そして、その人をミドリさんが助けるという事も」
「あの、敬語もやめてね。次敬語を使ったらどこかへ行っちゃうよ」
……あ、何処かへ行っちゃうって言ったけど、お願いに来ているのは私だったよ。とんだ赤っ恥だわ。
「……分かった。それでね、あんた達とマッドラクンを倒しに行った時……」
お、私の意味わからんセリフを飲み込んでくれてありがとう。そして、いきなり砕けたね。ミザリはそうでなくちゃ。んでもって、大事な話の続き続き。
「うん。でも、その長い話はいいんだよ。私が言いたいのはミザリがここに来るまでに色々手伝ってくれたって事でしょ?それと、これは多分だけど、ミザリが一緒に来た訳は、私が賢者の杖を持つにふさわしいかどうかを査定する事」
私は自分の考えを言って、どうだとばかりにミザリを見つめました。だってね、私、ミザリに騙されたなんてこれっぽちも思ってなくて、二人だったからここまでの旅も楽しかったんだよ。
突然、女神様がフフンとばかりに胸を張り、腕組みをしながら私に説明を始めました。
「その通りです。カナディフシティでの出来事で、あなたには賢者になる資格は出来ていました。問題は賢者の杖を持つに相応しいかです。リリパットの村の問題、ドワーフの村の問題をあなたに解決してもらう事で、杖に相応しい人物かどうか見極める事にしたのですよ。あなたの行動はミザリを通して知ることが出来ました」
カナディフシティでの出来事と言うのはファングタイガーを倒した事ですね。つまりその時点でこのシナリオが作られたわけなのですな。女神様に言わせると、それぞれの問題は杖を持つための試練って訳だったのですね。ん?……おいおいちょっと待ってよ。相応しいかどうかを見るとか言っておきながら、村の問題を解決してもらいたかっただけじゃないのかい。
何故ニヤニヤ笑っているのですか?私ってば、体よく使われただけなのでは?
「ふふふ、余計な詮索は無用です。さあ、杖を持つべきものの証として、3つの神器を出しなさい」
ふふふって、何がおかしいのですか……絶対誤魔化していますよね。で、3つの神器ってなんですの?私がキョトンとしているとミザリが隣から耳打ちをしてくれます。
「いまあんたが着ている『光の羽衣』と『光の書』、それと『マジックステッキ』よ。それが3つの神器」
「え?じゃあ、私それを知らない間に集めていたというか……集める為にまんまとミザリに乗せられていたって訳なのね。はぁ、掌で踊らされていたってわけかぁ」
私がやられちゃったなぁと頭をポリポリ掻くと、女神様は黙って頷きました。でも、なんでそんな事をしないといけないわけなのですか?何か目的があるはず。
「あなたが考えている通り、これにはちゃんとした理由があります」
ここで色々な事をやっていると、現実と錯覚してしまう時が有るのですけれど、あくまでもこの中はゲームの中の世界。錯覚を起こしてしまう程に、本当に『ファンタジックワールドの指輪』の威力って凄いと思います。で、ゲームの中なのだからクリアをするために必要な事が有るのです。だいたいは悪人退治でしょ?
女神様が言うには、その悪人を倒すのにはどうしても賢者の杖があった方がいいのですって。というか、無いと勝てない程の物なのだそうです。その訳は杖を持てば判るって。そして、女神様は静かに話を続けました。
「いま、悪魔と戦おうとしている冒険者たちが居ます。賢者の杖を持ったあなたが居ないと、彼らは必ず全滅するでしょう。あなたが行ったとしても勝てる確率は五分五分です。危険な戦いですが、あなたはどうしますか?」
「もしかして向かっている冒険者たちって……」
「そう、あなたも知っている冒険者、マサトです」
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