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第66話 パーティの団欒とコーディの疑問

※本日は17:00、21:00の二回更新いたします。

 コーディと飲む前に、俺は風呂上がり組のミラルカ、ユマ、アイリーンの髪をそれぞれ乾かすことになった。


「ディックさん、すごくお上手です……髪を乾かすお店を開けるくらいです」

「だよね~、やってもらってると寝ちゃいそうになるくらいだし、サラッサラになるよね。ミラルカはどうだった?」


 ミラルカの髪は手入れが行き届いているが、いつも乾かすのに1時間ほどかかるとのことだった。俺の熱風乾燥技術を用いれば、15分ほどで乾かせる。迷宮探索をすればやはり多少は髪が傷むが、それも髪に手ぐしを通すときに回復魔法を使って整えておいた。


 彼女は指通りを試して、するっと通ることを確かめると、居間のソファに足を組んで座ったままで言った。


「なかなか上手にできたわね。私の髪を、これからも時々乾かしてもいいわよ」

「一ヶ月に一度くらいにしてくれ……と、似たようなことをアイリーンにも言った気がするな」


 なぜミラルカが上からの態度なのかは、彼女だからとしか言いようがない。ごくたまにしか素直にならないので、常に期待してはいけないのだ。と、今さら言い聞かせるようなことでもないが。


「あたしは一週間に2、3回がいいんだけどな~。ディックに乾かしてもらうまでは、もうお手入れが大変だから切っちゃおうかなと思ってたし」

「ユマは昔から、肩より長く伸ばしたことはないわね。聖職者は髪が短い人が多いけれど、それは何か戒律で決まっていたりするの?」

「いえ、特に決まってはいません。お母様に、伸ばしてみてはどうかと言われることもあるのですが……」

「それは新鮮だな。髪の長いユマか……ぐっと大人っぽくなるかもな」

「……大人っぽく……そ、そうなんでしょうか……私でも、大人っぽくなれますか?」


 ユマは髪の先に触れて照れ照れとしている。もちろん髪が短くてもライアのように、大人の女性という雰囲気がすごく出ている人もいるので、個人差はあるが。ユマは十分に女の子らしいと思うが、年齢もあって、どちらかというと少女寄りの印象だ。


「気分を変えるにはいいよね、髪型を変えるのも。ディックはいつも同じ髪型だけど、たまには変えないの?」

「ギルドマスターの会合に出るときは、やむなくきっちりした格好をしてるぞ。というか店で飲んでるときと、外に出るときも微妙に違うぞ。冒険してるときもな」

「時と場合を意識するということにおいては、あなたは意外と気配りするから、たまに感心することもあるわ」

「ミラルカ、ディックのことよく見てるもんね。あたしもちょっとは気にしないとね~、身だしなみとか」

「み、見ているというか……観察対象というくらいかしらね」


 男性に接する機会が少ないので、研究材料にでもされているのだろうか。話を聞く限りでは、あれほど多くの男性を玉砕させてきたにもかかわらず、まだミラルカを狙う男性は絶えないというが。


 その王都の高嶺の花の一輪といえる女性が、パジャマ姿で男に髪を乾かさせているなどと知れたら、俺は暗殺の対象になってしまうだろう。俺を暗殺できるやつがいたら大したものだが。


「んにゅ……あれ? うち、いつの間にこんなところで……ふぁぁ……」


 ミヅハの狐耳がぴくっと動いたかと思うと、ソファの一つで丸まって寝ていた彼女が目を覚ます。彼女は口を押さえてあくびをすると、俺が見ていることに気づいて顔を赤らめた。


「い、嫌やわ、そんなとこじっと見て。ディック様はゆだんもすきもあらへんわ」

「おはよう、ミヅハ。兄貴は家に帰っていったぞ」

「あ、せや。兄上が、明日はうちだけギルドのお店番でいいのかって聞いてました。俺も手伝っても構わんが、みたいな」

「ひとつ気になったんだが、ゼクトはあれだけ実力があるのにわりと仕事を選ばないな。青の射手亭にいたのも謎なんだが、昔からそういう感じなのか?」

「兄上様は、うちの一族やとめっちゃ才能に恵まれてて、天才って言われてましたけど、あんまり自覚がないんです。族長になる前に外の世界を知りたい、見聞を広めたいって言って、村を出たんですけど、村にいたころとあんまり変わってないです。マイペースな人やから」


 前線に出たいという気持ちは出していたが、妹を一人にするのも同じくらい気になるということだろうか。いずれにせよ、ゼクトはギルドマスターとして指示を出せば、たいがいのことは受けてくれるという気がする。


「あ、でもうちは、兄上様には戦ってて欲しいです。兄上様、黙ってると迫力あるから、接客業にはちょっと向いてへんかなって」

「妹さんにこんなことを言われてると知ったら、お兄ちゃんショックだろうね。あたしもお父さんに良く言ってたなー、顔が怖いから友達と遊んでるとこにこないでって」

「私のお父様は、自分から気にしているので、お友達から『怖くないですよ』と言ってくれたことがあります。お父様、身体はとても大きいですけど、繊細なので」


 グレナディンさんはユマを溺愛しているので、その娘の友達を怖がらせてはいけない、と気を使うのも想像がつく。


 父親の話が出てきて思ったが、ミラルカはどうなのだろう。父親の話を詳しく聞いたことがない。


「うちの父は偏屈だから、あまり友人には見せたくないわね。変な魔法を作って実験しようとするし」

「ミラルカのお父さんって、魔法大学の教授さんだもんね。あ、これって言ってよかったのかな」


 ミラルカが俺を見やるが、特に秘密というわけでもなかったらしい。しかし父親のことを明かすのは思うところがあるのか、何ともいえない微妙な表情だった。


「ディック、もしフェンルート・イーリスという人に魔法大学で遭遇しても、今はそんなに構わないでおいてね。父は変人だから、変な実験に付き合わされるわよ」

「あ、ああ……フェンルートさんっていうのか」

「変な実験って、何か面白そうじゃない? ディック、そういうの好きそう」

「うちも興味あります。でも、ミラルカさんはあんまり乗り気じゃなさそうなのはなんでやろ?」

「実験の内容を見れば分かると思うわ。私みたいに、破壊の美学を追い求めるような明快さはなくて、難解というか、はた迷惑というか……」


 困り顔をしているミラルカを見て、たまに傍若無人なところのある彼女だが、それはもしかして父の影響なのではないかと考えてしまった。


 ◆◇◆


 王都アルヴィナスに外部からやってくる人間は、王都の南北を貫いて平行に並んでいる12の通りのうち、南中央門から近い7、8番通りか、西門に近い一番通り、そして東門に近い俺たちの12番通りのいずれかに立ち寄ることが多い。


 交易で初めて王都を訪れた商人は、税関のある西門から入ってきて、1番通りにある高い宿に泊まり、そこで王都では通りごとに住民の生活水準が違うということを知り、次からは適切な価格の宿を利用するようになる。豪商であれば金に糸目をつけず、1番通りの宿にこだわるのだろうが、俺から言わせてみると、1番通りという名前がブランドになっているだけで、3番通りまでの生活水準は、実はさほど変わらない。11番通りまでが平民街というイメージで、12番通りはスラム街だ――といっても、ルールが統制されているスラムは、見た目ほど住み心地の悪い場所ではない。


 俺が来たばかりの頃は、路地裏を除けばゴロツキに身ぐるみ剥がれてパンツ一枚になった男が倒れているような、本当に王都の中なのか疑わしいような場所だった。そして俺は、地方の村では存在しなかった、王都における階層的な身分構造の存在を知った――12番通りの住人は、他の庶民たちが自分の暮らしに不満を持たないようにと、劣悪な住環境を強いられていたのだ。


 その環境を変えるために陰ながら働きかけるということも、12番通りのギルドハウスを譲り受けた俺の、一年目の活動に含まれていた。


「ディック、どうかしたのかい? 何か考えてるみたいだけど。よかったら、気兼ねなく話してくれないか」


 カウンターに座ってコーディが言う。俺は何を作ろうかと考えながら出した酒を見て、上の空では良くないと頭を切り替えた。


「ああいや、コーディの目には、この12番通りの暮らしはどう映るんだろうと思っただけだ」

「活気に溢れているし、昔と比べたら、治安も雲泥の差だ。僕はいいところだと思っているよ」

「そうか。12番通りが、文字通り12番めに空気の悪い街じゃなくなる日も来るか」

「……ディックはやっぱり、人をまとめたりする立場が向いているよ。この通りにギルドがあるから、町の人々の暮らしを向上させたいと思っているんだろう?」


 コーディの指摘は鋭いところを突いている。俺を見ていれば分かることなのだろうが、素直に肯定するのは気恥ずかしかった。


「そういうわけじゃない。この通りに暮らしてるから育ちが悪いとか、変な偏見を持たれるような状況は、変えたいとは思ってるけどな」

「それを考えて、ある程度実現させている。君はどんな場所に暮らしても、きっと同じことができるだろう。目立ちたくないというけど、それを人々は謙遜と捉える。マナリナ王女がそうであったようにね」


 マナリナと言われて彼女のことを思い出したが、探索隊を激励してもらったことには、俺からもお礼を言っておきたい。近いうちに会う機会を作れないだろうか――と、そんなことばかりしていると、女性の尻ばかり追いかけていると言われかねない。


「まあ、その話はそれくらいにしておいてだな……何を飲みたい?」

「そうだね……本当は明日のことを考えると、酒精のないものが良いんだろうけど、ちょっとだけ飲みたい気分だね」

「そうか。じゃあ、適度に酔えるが、時間が経つと穏やかに抜けてきてよく寝られるってやつにするか」

「うん、それで頼むよ。ディックは本当にお酒に詳しいんだね」

「酒というか、効果を決めるのは原料だけどな。液体なら全部ブレンドの材料に使ってみるってくらいは、いろいろ試してきたつもりだ。痛い目にも遭ったがな」

「あはは……何か酒場のオーナーというより、怪しい実験をしている人みたいだね。魔法大学に提出する論文の題材としても通用するんじゃないかな、ディックのお酒の作り方は」


 魔法大学は今、半分休校状態になっている。王都の民には、もし地下迷宮で何か起こったらすぐに避難できるようにと警戒令が出されているが、今の段階で避難を試みた住民はいない。


 それだけ王都には永きに渡る平和が続き、外敵に脅かされることもなかったということだ。その信頼は裏切れないし、だからこそ宰相ロウェは責任の重圧に苦しんでいたのだろう。


 つい考え込んでしまうので、今はブレンドに集中することにした。清涼感と刺激を合わせ持つ『ペパムン草』を漬け込んだリキュールと、酸味のある『クワンの実』の果汁、さらにブランデーをシェイカーで混ぜ、氷を入れたグラスに注ぐ。


「これは……香りだけでも気分が落ち着くね。すっとするというか……だけど、かなりきつそうだ」

「酒についてはそこまで教えてないよな。エールは酒精が比較的薄いほうなんだが、みんな水代わりみたいに量を飲むことで気分がよくなるわけだ。こういう酒は、一杯でも酔うやつは酔うってくらいには濃いから、もし他で飲むことがあったら、きつい酒ばかりは選ばない方がいいな。俺はよくやってしまうんだが、複数の種類の酒精を身体に入れるのも気をつけた方がいい。悪酔いが半端じゃなくなる場合がある」

「ありがとう、丁寧に教えてくれて。なんだか、やっとディックにお店の客として認められたみたいだな」

「いや、エールだけしか飲まなくても、十分酒の楽しみは知ってるといえるんだけどな。俺が頭でっかちなだけで、本当は飲みたいものを好きなだけ飲むのがいいと思ってるよ」


 俺は自分の分も同じものにしておき、コーディの隣の席に戻った。洒落たグラス同士を合わせるのは、格好をつけているようで似合わないと思うが、どちらともなく乾杯し、それぞれに一口飲む。


「ん……ああ、美味しい。少しピリッとくるけど、飲み口はさっぱりしてるね」

「そのピリッとくる成分が、後で酒を残りにくくしてくれるみたいだな」

「甘みが控えめで、これなら今の格好で飲んでいても大丈夫そうだね。前にベアトリスの屋敷でご馳走になったお酒は、女の人向けっていう感じが凄くして、気恥ずかしかったんだけど。僕には似合わないからね」

「あー……あれはちょっと俺も、勇み足だったかなという気はしてるんだが。でも、気づいた後に誤魔化すのは違うと思ってな」

「それなんだけど……なぜ、気がついたのかな? 5年も一緒にいたけど、気づくそぶりなんてなかったじゃないか」


 コーディは酒をもう一口飲むと、俺の方を横目で見る。

 昔なら、男なのにやけに色気のある仕草をするやつだと考えたりして、俺にはそういう趣味はない、と多少の葛藤を覚えたところだろう。


 ――しかし、今はそれよりも。


 俺がコーディの正体を知ったのが『覗き見』によるものだということを、これ以上隠しておくこともできない。王国の危機だというのに、コーディの信頼を失うことは絶対に避けるべきなのだが、避けては通れない道だ。


「……別に、怒ってたたっ斬るとか、そういうことを言ったりはしないよ。僕の性格は分かっているだろう?」

「あ、ああ……基本的には温厚だよな。怒るってことがめったにない」

「うん。今回のことでは怒る可能性があるけれど、ちょっとくらいは君も覚悟して話してもらいたいな」


 それはごもっともな話で、コーディが気にしているのに答えないというのは、それこそ人としてどうかという行為だ。俺は観念して、コーディの正体を知った経緯を話すことにした。


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