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第56話 雪解けへの道と、弟子から師匠へ

 夜の部が開店し、次々に客が来店する。仮面をつけた魔王討伐隊の面々を見て、それでも仮面の下の美貌は感じ取れるのか、男性客は素顔を気にしていたが、無粋な詮索はしなかった。


 コーディは女性客に人気で、その接客も初めてだというのにさまになっている。アイリーンも快活に客を席に案内し、よく通る声でオーダーを通す。


 スラム街でたくましく生きる常連の男たちが乾杯をして、いかにも訳ありな姿をした女性が隅の席で通好みのブレンドをたしなみ、リゲルとマッキンリーがエールのジョッキを突き合わせ、珍しくゼクトもその席に加わっている。


 ライアとリーザ、そしてサクヤさんは、師匠のことが気になっているようだった。当の師匠は俺が想像した以上に仕事の飲み込みが早く、接客が淡々としていることが少し気になる程度で、コーディ・アイリーンと共にホールは問題なく回っている。


 師匠は仕事をする傍ら、いつでもこちらに来られるように目を配っていた。首輪によって囚われてしまったミミアは、やはりまだ、師匠のことを怖がっている。


 まだ師匠は謝罪の言葉を口にしていない。自分がミミアの誘拐に加担したことを告げて、それで父親のギュスターブに罰されると思っていたようだが、そうはならなかった。


 娘をさらわれてもなお、ギュスターブ――いや、年上なのだから敬称をつけるべきだろう。ギュスターブさんが師匠を責めなかったことについて、俺自身も意外だと感じていた。


 狼人族の親子は、今はカウンターに座って落ち着かなさそうにしている。娘のミミアは膝の上に手を置いて身をぎゅっと縮こまらせているが、酒場の喧騒は新鮮に感じているようで、好奇心をそそられていることを示すように、ふさふさの尻尾が音に合わせてふわふわと揺れている。


「……あそこにいる獣人は、普通に耳を見せているな。外を歩くときは、フードで隠している者がほとんどだったが。本当にこの酒場は、獣人を差別しないのか」

「王都の全員が、獣人に偏見を持ってるわけじゃない。ライアの主人は、騎士団の百人長を務めている人間の女性だ。二人とも、そうそう真似できないくらいに互いを信頼し合ってる」

「そうか……王都で暮らしている獣人全てが、蔑視を受けているわけではないんだな」


 ギュスターブさんは狼の毛質をした顎髭を撫で、三角の耳を垂れる。獣人は耳に感情が出る――それはミミアも同じで、話を聞きながらフードを取りたそうにしていた。耳にかぶさっていると気になるのだろう。


 それにしても父親は剛毅そのものだが、娘は小柄――というと、ユマの家もそうなので、ユマはこの親子に親近感を感じているようだった。カウンターの中でヴェルレーヌの指導を受け、ギュスターブさんに出す黒エールの泡を消さないように注いでいる。ミラルカは自分から志願して、ミミアに出すための飲み物を作っていた。教授らしく、少しの狂いもなくレシピ通りに作るために、秤まで使って材料を量っている。


「お待たせいたしました、お客様」

「ん、俺はまだ何も頼んでないが」

「そちらのお客様……いえ、オーナーからでございます」


 いつもと同じ流れだが、隅で飲んでいる酔っ払いからという流れでないと、微妙に気恥ずかしいものがあった。ギュスターブさんは黒エールを受け取り、しばらく呆然としていたが、くっ、と口元に笑みを浮かべる。


「ミミア、飲んでもいいか。父さん、今日は酔っ払わないからな」

「……私のことは、気にしなくていい。お父さん、お酒好きだから、いっぱい飲んで」


 見た目から推察できる年齢にしては、話し方がたどたどしいのは、まだ捕まっていた時のショックが抜けていないからか――そう思うと、胸が詰まる。


「俺が思うに、あんたは何も気に病む必要はないと思うが……あのサクヤという月兎族は、俺を娘のところに案内してくれた。娘を助けたのはあんたのギルドだ。そんなあんたの仲間があの首輪を作ったというのは、何かしらの訳ありなんだろうが、俺には難しいことはわからん。一つ言えるのは、あの娘に俺が復讐したところで、ミミアは喜ばんということだ」

「……あの人が首輪を作ったっていうのは、今でも怖い。でも、このギルドが私を助けてくれたのなら、あの人が悪いことをしないように、見ていてくれる。それなら、安心できる」


 師匠は遠くから俺たちを見て、会話を聞いている。その瞳を見ても、何を考えているのかまでは分からない。


「俺の単純な頭では、まったく理解が追いつかん。恩人のところに憎むべき相手がいるというのは、複雑すぎていかんな。そしてその憎むべき相手が、あんな少女となればなおさらだ。悪事を働くのなら、もっと凶悪な外見をしていてもらいたいもんだ」

「……ギュスターブさん。ミミアも、それで許してくれるのか?」

「……本当のことを言うと、獣になっていた時のことは覚えてないから、いつの間にかお医者様のところにいて、お父さんが来てくれてた。だから、怖かったのは首輪をつけられた時だけ。でも、もうはずれた」


 彼女はそう言って首元を見せる。首輪のあともなく、拘束されていたことによるあざなどは残っていなかった。それは、獣人の回復力によるところもあるだろう。


「私は、ここにお礼を言おうと思って来た。サクヤさんは、ここの偉い人にお仕えしてるって言ってた」


 ミミアが比較的、このギルドや俺たちに好意的な理由が分かった。ミミアを助け、父親と引き合わせたサクヤさんに感謝しているからだ。


 そして俺が師匠と組んで、獣人を捕まえていた――と疑われることもなかったのは、やはりサクヤさんの話し方が良かったのだろう。普通ならば俺と師匠の関係を見て、共謀を疑われてもおかしくない。


「お客様方、大切な話の途中で失礼いたします。エールは泡を楽しむものでございますから、消える前にお飲みいただければ幸いです」

「ああ、そうだな。では……娘のことで、世話になった。改めて礼を言わせてもらう」

「……お父さん、乾杯は?」


 ミミアがギュスターブさんの肘をつついて言う。すると彼は苦笑して、身体を引いて娘も乾杯できるようにすると、三人で杯を合わせてくれた。


「乾杯」

「ああ、すまんな。娘はどうも、こういう酒場でのやりとりに憧れていたようだ」

「大人になったら、お父さんみたいにお酒を飲めるから、楽しみにしてた……でも、お酒じゃないみたい」

「おまえにはまだ少し早いな。王都では、16歳から飲んでも問題ないそうだ」


 ギュスターブさんは王都の法を知っている。娘を助けるために訪れた彼は、王都に良い印象を持っていないように見えたが、王都のことを全く知ろうとしないということではなかったようだ。


 獣人たちのほうが、人間に対して理解を示そうとしている。それでも突き放してしまう人間が多いのは、「獣人は人間より強く、集団になれば人間を駆逐することができる」という恐怖からきている。


 実際に人間が獣人に支配されている地域もあるため、無理もない部分はある。しかし王都で人間がしていることは、多数派として力を振りかざし、獣人に圧力を加えることによる支配だ。


「種族の違いを、人間のすべてが受け入れられるわけじゃないかもしれない。でも、今よりは、わだかまりを薄くできればと思う。人間が獣人を利用するなんてことが、二度と起こらないように」

「……あんたのような人間が増えれば、それも不可能ではないのかもな。いや、俺も何か行動を起こすべきだと分かってはいる。親父はもう老いているから、俺はじきに次の族長になる。狼人族の代表として、他の獣人族にも働きかけ、人間と和議の場を持ちたい」


 ギュスターブさん、そして虎人族の族長の玄孫であるリコ。彼らの力を借りれば、アルベイン王国の全ての獣人の代表と、人間側の代表が一同に会し、すべての種族の今後を考えられるかもしれない。


 国王陛下と交渉し、大々的に全種族会議を呼び掛けてもらうという手もある。しかしまずしておくべきことは、俺が今までのように陰で動き、一つ一つの種族の理解を得ることだ。


 獣人は王国の干渉を警戒し、各地に分散して暮らしている。そんな彼らを集合させようとしても、簡単にはいかないだろう。事前に王国側の獣人差別派を説得し、態度を軟化させ、相互理解を導かなくてはならない。そのうえで集まらなければ、悲劇が起こることもありうる。


 人間と獣人が和解できれば、それは王国の歴史に残る出来事になるだろう。

 そこに名前を刻むのは、表舞台に立つ人物に任せたい。俺はお膳立てをするだけだ――そう、国王陛下の息女であり、王位継承権を持つマナリナに、百年、いや千年続く花を持たせる。もちろん、彼女とも話して、その意向を汲む必要はあるが。


 何もかもが、師匠の代わりに詫びたいからというわけではない。

 獣人たちと話し、その想いを知るうちに、何かがしたいという気持ちになっただけだ。


「……堅苦しい話は一旦置いておくか。旨そうな酒だ……こんな酒は、村では飲んだことがない」


 黒いエールのジョッキに口をつけ、ギュスターブさんはぐいっと飲む。

 そこでピタリ、と彼は固まると――残った黒エールを一気に喉に流し込んでしまった。


「っ……かはぁ……なんだこれは。なんなんだこの酒は……うまい。旨すぎる……!」


 すでに一杯目で目を赤らめ、ギュスターブさんが興奮気味に言う。ミミアは隣で驚いていたが、父の飲みっぷりを見届けたあとに、自分のドリンクを見る。


 ミルクに狼人族が好む『ムーンベリー』の果肉入りシロップを入れ、白と黄色の二層に分かれた飲み物『ホワイトムーン』。香りだけでそれと気づいたのか、ミミアはグラスを包むように両手で持って口をつけた。


 こくっ、と一口飲んだあと、ミミアの目が輝き始める。俺とヴェルレーヌ、そしてカウンターの中にいるミラルカとユマを見やり、口をぱくぱくと動かすが、声にならない――感激しすぎているのだ。


 ギュスターブさんが娘の頭に手を置き、落ち着かせる。ミミアは恥ずかしそうに顔を紅潮させつつも、再びドリンクに口をつけた。

 獣人は育った地の果実を好み、老若男女があらゆる方法で食べるという。その好物の味を、今回は甘味の方向で引き出した。

 ムーンベリーのシロップを作る時に使う蜜は、『クィーンキラービー』という魔物の巣で採れる特別な蜂蜜で、その上品な甘さが彼女に気に入ってもらえたようだった。


「……こんなに甘くしたムーンベリーは、初めて食べた。パンに塗ってもおいしそう」

「瓶詰にしてお持ち帰りもございますので、よろしければお土産にお持ちください。日持ちしますので、村まで持ち帰られても良いかと思います」

「ああ、娘だけでなく、妻にも食べさせたい。甘いものを摂りたくても、なかなか手に入らない土地だからな……」


 砂糖は貴重品で、アルベイン王国の国内でも、地域によっては全く手に入らない。そういった地では、ごくまれに隊商キャラバンが持ち込む砂糖が、同じ重さの金と交換されることもあるという。


 クィーンキラービーは毒を持っていて一般人には危険な魔物だが、俺は解毒ができるので怖くはなく、その生態を巣に潜って調べたことがあった。その結果、キラービーを養蜂して蜂蜜を量産することができそうなのだが、その方法を獣人に伝えられれば、彼らも自前で甘味を得ることができるだろう。


「俺たちは互いの文化を良く知らない。黒エールがギュスターブさんに喜んでもらえたように、狼人族の名産が、多くの人間の心を動かすこともあると思う。現金な考えかもしれないが、俺はそういう方法で溝を埋めることも考えたい」

「……俺が、無類の酒好きなだけかもしれんぞ? と言いたいところだが。あんたの言うことには一理ある」


 ユマがもう一杯エールを注ぎ、ヴェルレーヌにパスし、ギュスターブさんに出す。二杯目が出てきて、ギュスターブさんは少年のように喜びを顔に出し、娘の手前自重して、咳ばらいをした。


「コホン。食文化の交流か……考えてもみなかったが。同胞たちを説得するには、そういう方法もあるのかもな。狼人族には、正直を言うと、俺と同じような酒好きが多い……ん? この香ばしい匂いは……」

「お酒だけではありません。こちら、リブロースの香草焼きでございます」


 酒に合うと思って食べ物を出すと、何も食べていなかったのか、親子のお腹が揃って鳴った。


「……これは、この三叉の道具と、ナイフを使って食うのか?」

「それでは簡単に、作法についてお教えいたします」


 狼人族は、ふだん手掴みでものを食べる。虎人族は食器を使っていたが、そのあたりは種族ごとに差があるようだ。


 ミミアも見よう見まねで食器を使い、手を使って食べそうになるところを我慢して、最初はヴェルレーヌが切り分けた肉を口に運んだ。


「むぐっ……!」

「~~~~っ!」


 二人の尻尾が跳ねる。ミミアは椅子の上で飛び跳ねるくらいに感激し、興奮気味に父の背中を叩く。そんな二人をホールから見て、コーディとアイリーンも楽しそうに笑っていた。


「なんだこの肉は……この骨の近くの部位は、そこまで柔らかくならないはずだ。一体どうすればこんな……」

「果汁につけておいたり、乳を加工したものに漬けると、肉の繊維が柔らかくなるのです」

「……ほっぺたが落ちそうって、こういうことを言うんだってわかった。すごい……このお肉、お肉じゃない。もっと別の美味しい何かだと思う」


 肉も調理法次第で味が変わる。それを人間だけの技術としておかないで、無類の肉好きと言われる獣人たちにも伝えるべきだと俺は思う。


 そして野菜をまったく食べないという彼らは、ミラルカが厨房から運んできたサラダを食べて、再び未知の感動を味わうのだが――何を食べさせても喜ぶので、料理番も厨房から顔を出して嬉しそうにしていた。


 ◆◇◆


 店の営業が終わるまで、ギュスターブさん親子は飲み物と酒に舌鼓を打ち、最後はギュスターブさんは上機嫌になって、リゲルたちと肩を組んで歌っていた。こういうときに、リゲルの誰とでも打ち解ける明るさは頼りになる。


 ゼクトも絡まれていたが、彼とミヅハが兄妹であると知ると、ギュスターブさんは娘と仲良くしてやってくれ、とミミアを紹介し、ミヅハも快諾した。自分たちの境遇が近いことを知ると、彼女たちは急速に親しくなり、ミミアの口数も増えて、笑顔が見られるようになった。


 ――しかし楽しい時間は、あっという間に過ぎる。


 閉店ぎりぎりまでミヅハと話していたミミアに、ギュスターブさんがついに声をかける。


「ミミア、そろそろお暇させてもらうぞ。片付けもあるだろうからな」

「……わかった。ミヅハちゃん、またね」

「うん、また来てな、ミミアちゃん」


 店の一同で、二人を見送る。ずっと何も言わず、少し遠くから見ている師匠に、ギュスターブさんが言った。


「俺とミミアは、このギルドに助けてもらった。その分で、あんたがしたことは手打ちにする。だが俺たちが許しても、この国の法はあんたを裁くことになるだろう」

「どんな罰でも受けるよ。それが、ディー君が私にしてくれたことに応える、唯一の方法だから」

「そうか。それなら、俺はもういい。ミミア、どうする?」


 ギュスターブさんが聞くと、ミミアは意を決したように、師匠の前に歩いていく。


「……私じゃなくて、あのお兄ちゃんに、ごめんなさいって言わないとだめ」

「……うん。これから、毎日謝っても足りないくらいだよね」


 ミミアが、師匠と俺の関係をどれだけ察しているのか――想像していたよりも、少女の勘は鋭いものだ。


「二度と悪さをしないことだ、とおじさんは偉そうに言っておくぞ。それじゃ、またな。ギルドマスター」

「道中、気を付けて。何かあったら、いつでも俺たちを頼ってくれ」


 狼人族の親子が店を出ていく。最後にミミアはこちらに頭を下げてから、父を追いかけていった。


「……さて。ディック、ひとつ大仕事を終えたところで、課題が山積みのようだけど。僕に何かできることはあるかい?」


 コーディが言うと、横からリゲルとマッキンリーが出てきて割り込む。


「兄さん、あの狼のおじさん、すごく喜んでましたよ! 娘が笑うのを見るのは久しぶりだって!」

「同じ年頃どうし、友達ができたようで良かった。これもマスターの人徳のもとに、人が集まってるからですね」


 マッキンリーはたまに優男らしからぬ青臭いことを言うが、それがこの男の良いところだとも思う。熱血型のリゲルともうまくやっていけるわけだ。


 そして、次はライアとサクヤさんが真剣そのものの顔でやってくる。彼女たちも今日はずっと一緒に酒を酌み交わして、親交が深まったようだ。


「獣人と人間の問題の解決……冒険者ギルドの扱う問題の範疇ではない、そう思っていた時期もありました。しかし、マスターの率いるこのギルドなら……」 

「私はマスターの意志に従います。これまでも、そしてこれからも。存分に手足としてお使いください」

「二人とも、ありがとうな。期待に応えられるように、何とかやってみるよ」


 魔王討伐隊の面々も、今日は遅くまで一生懸命に働いてくれた。彼女たちには借りが増えてばかりだ。


「これからも決して目立たないように……だね。そのために、僕たちが手伝えることはあるかな?」

「あなたにしては大それた考えだけど、悪くはないと思うわ。種族の和解に反対する者がいたら殲滅するだけよ」

「どんな方でも、お話しすることできっと心は通じます。そして、全員で約束の地へと導かれるのです」

「それは天国に行っちゃってるような……ユマちゃんだからそれは仕方ないとして、あたしも鬼族の代表になってくれるように、お父さんに話してみようかな。獣人の人たちと鬼族って立場が近いから、ずっと気になってたんだよね。どうせならみんなで仲良くすればいいじゃない、って」


 4人全員、相変わらず意見が一致していて頼もしい限りだ。しかし昔の俺たちだったら、「世の中を良くするために」なんて動機は持てなかっただろう。


 初めからそれを考えていたコーディは、昔も今も変わらず正義感に満ちている。5年かけて、俺は彼女に追いつくことができたのだと思う。


「うちと兄上様も、お話を聞いて感激してました。このギルドに入るのは、運命やったんやって」

「ギルドマスター、その志に俺も全面的に賛同する」

「ディックさんがこんなに真面目になるなんて……それも、お師匠様っていう人と会ったからなんですか?」


 ミヅハとゼクトに続いて、リーザが聞いてくる。師匠のことは、今日店に来ているギルド員には、全員に紹介してあった。


「……私はもう師匠じゃないよ。ディー君には、教えることがなくなっちゃって、教えられる立場だから」

「お、教えられる……それって、手取り足取りですか? 今夜は寝かさないぜってことですか?」

「俺のセリフか、それ……一生言いそうにないんだがな」

「では、お師匠様は、ご主人様から何を教わるおつもりなのですか? 後学のためにお聞かせください」


 ヴェルレーヌの質問に、師匠はしばらく考えて――そのメイド服を着てから初めて、かすかに微笑んで答えた。


「みんなが聞いたら笑うくらいのこと。きっと誰もが知ってる当たり前のことを、ディー君に教わりたい」


 その答え合わせをするのは、師匠が罪を償うことができた後になるだろう。


 人を傷つけること、心を踏みにじろうとすること。それを、師匠はもう繰り返すことはない。


 それが期待に終わるのか、その通りになるのか。一度は離れた不肖の弟子だが、これからは彼女を近くで見守っていきたいと思った。


※更新が遅くなって申し訳ありません!

 いつもお読みいただきありがとうございます、大変励みになっております。

 今回で第二部が終了となり、次回から三部に入っていきます。

 節目になりますので、よろしければご意見ご感想などいただけると幸いです。


 今後とも引き続き、本作にお付き合いいただけると嬉しいです。

 よろしくお願いいたします!

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