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第48話 勇者の師とギルド正常化作戦


 クライブを赤の双子亭の拘留部屋に入れるところまで見届けてから、俺は一度外に出てきた。


 リーザに黒の獅子亭の動向を見に行ってもらっていたので、彼女に持たせている連絡用の魔道具を使って呼んでみたところ、到着まで数分待つことになった。黒の獅子亭が襲撃されているなら駆け付けるつもりだったが、これなら状況を聞くだけで大丈夫そうだ。レオニードさんも自宅で大いびきをかいて寝ているそうである。


 俺のギルドの情報部員は常時連絡が取れるように、王都の中程度の距離ならいつでも意志の疎通ができる魔道具を持っている。それらも全て、一つずつ俺が魔法を付与して作ったものである。


 魔道具は、魔法が使える者ならば、作り方さえ知っていれば作れるのだ。魔法を永続的に付与するにもコツがあり、それを知らなければ魔法の効果が数日で薄れてしまったりもするのだが。


(クライブを従わせていたもう一人の幹部……外から入り込んだ冒険者。SSランクの冒険者を従わせる者は、それ以上の力を持っている)


 千年に一人と言われた力を持つ、『奇跡の子供たち』。俺たちが戦った魔王、ヴェルレーヌ。


 それ以外に、SSSランクの力を持っている人物を、俺は今まで生きてきて一人しか知らない。俺に魔法を教えてくれた師匠だ。


 俺は十三歳のとき、師匠の元を離れて魔王討伐に志願した。それから、一度も会っていない。


 もともと自由に生き、諸国を放浪していた師匠は、俺のことなど忘れて、今もどこかで気まぐれに弟子を取ったり、好きなことをやって生きているだろう。


 しかし、強化魔法でクライブの力を引き出し、従属の魔道具まで自分で作ったのだとしたら――そんなことができるのは、やはりあの人しか考えられない。


 世界の各地に現れては、語り継がれるほどの善行を行うか、あるいは忌み嫌われる邪悪として振る舞う『灰色の道化師』。


 彼女が今この王都にいて、俺と敵対しているなどと考えたくはないし、あってほしくはない。しかし彼女の性格を考えると、不思議ではないと思える。


 ――私はディー君に殺してもらいたいと思ったから、育ててあげようと思ったんだよ。


 そんな冗談を笑って言う彼女は、子供のようで、ずっと追いつけないほど大人のようで。最後まで何を考えているのかわからなかった。


 師匠の真意を知ることのないままに、俺は彼女の元を離れ、魔王を討伐し、彼女の元には帰らなかった。


 彼女が新たな弟子を作り、戯れに白の山羊亭に送り込んだのか。それとも、彼女自身なのか。


 俺が勝手に、自分の記憶と結びつけているだけで、強化魔法の使い手は他にもいるのか。


 だが、SSランクの冒険者を従わせる力を持つ者など、俺たちとヴェルレーヌ以外にそうそう現れるわけがない。


 師匠だと断じることはできない。しかし誰が相手であったとしても、戦いは避けられない。

 ならば俺にできることは、持てる力の全てを尽くし、相手を封殺することだけだ。


 ◆◇◆


 考えているうちに、リーザが到着する。彼女は壊された門を見て目を丸くしていた。


「こ、これ、ここだけ竜巻が起きて壊れちゃったみたいに見えますけど、何があったんですか?」

「白の山羊亭の幹部に襲撃されたが、なんとか凌いだ。黒の獅子亭は無事だったみたいだな」

「は、はい、何事もなかったです。あ、でもうろちょろしてる怪しい人がいたので、黒の獅子亭の守衛の方に突き出しておきました」


 敵はシェリーに首輪をつけて操り、彼女の男性を魅惑する能力を利用しようと考えたのだろう。ロッテと二人合わせて支配下に置けば、赤の双子亭を掌中にできる。


 黒の獅子亭については、敵は探りを入れるだけにとどまった。対立しているギルドを潰すよりも、まず傘下のギルドを完全に従わせることを優先したからだと考えられる。


「それにしてもマスター、今回はどうしたんですか? いつも、よそのギルドに干渉するのはルール違反だって言ってたじゃないですか」

「今もそう思ってるが、例外はある。今回ばかりは、他のギルドの内情を知る必要があるんだ」

「分かりました、マスターがそうおっしゃるなら。ではですね、サクヤさんたちから入ってきた情報をこちらで整理しておきましたので、お伝えしますね」


 白の山羊亭の傘下に置かれた七つのギルドのうち、ここ最近で大きな変化があったのは、紫の蠍亭、青の射手亭、緑の大蟹亭の三つだった。青の射手亭は獣人監禁の件で処罰され、既に活動を停止しているので、現状活動しているギルドでは二つとなる。


 いずれも、白の山羊亭に振られた仕事の内容が表に出なくなり、一般の依頼を受けることがなくなった。所属している冒険者が大量脱退するという話もあったようだが、どういったわけかうやむやになり、それ以降の情報が出てきていない。 


「一般の依頼を受けることがなくなった時点で、それを生業にしていた冒険者の人たちは抜けるはずです。でも、そうはならなかった。おそらく、ギルドマスターや幹部からの圧力があったってことですよね……そんな状況なら、末端の人たちから内情が漏れてもおかしくないんですけど、すごくガードが堅いんです。緘口令を敷くなりして、情報統制を行ってるとしか思えないですね」

「そうか……それらのギルドは、完全に白の山羊亭の操り人形になってたってことだな」

「はい。サクヤさんも言ってましたが、うかつに近づくと戦うしかないくらい、殺気立った感じになっちゃってます。紫の蠍亭も、少し前までは最低限の話は通じる組織だったのに、今はぜんぜんだめですね」


 前にアイリーンが紫の蠍亭と交戦したときは、彼らはギルドとして依頼を遂行しているだけだという考えもあった。


 しかし、そうでなかったとしたら。紫の蠍亭だけでなく、緑の大蟹亭も、まっとうな冒険者ギルドであることをあきらめ、法を犯す仕事に手を染めるようになっていった――それは白の山羊亭に干渉されてからか、それとも、その前からなのか。現状ではどちらとも言えない。


「このまま普通じゃない状態のギルドを放っておくのは、私個人としても、すごく危険なんじゃないかと思います。マスター、どうすればいいんでしょうか」

「ここから先は俺に任せておいてくれ」

「ほ、本当にですか……? 白の山羊亭と、様子がおかしいギルドを、一気に何とかしちゃうんですか? マスターならできるとは思いますけど、その、言い方は悪いですけど、そんな大きなことを進んでするのって、マスターらしくないっていうか……」

「俺も自分でそう思ってるけどな。俺がこれまで通りに隠棲するには、然るべき環境作りが必要なんだ」


 リーザは最初、ぽかんとしていたが、しばらくしてくすっと笑う。


「ふふっ……安心しました。そういうことなら、すごくマスターらしいです」

「リーザ、できればサクヤさんと合流して、しばらく固まって行動してくれ。一番怖いのは、敵が個々のギルド員を狙ってくることだからな」

「はい、分かりました。私たち情報部員が安全確保を徹底したら、そうそう捕まったり、危ない目に遭ったりはしませんから。また状況が落ち着いたら知らせてください」

「ああ。今は武闘派の出番ってことで、よろしく頼む」


 リーザは頷いて、夜の闇に消えていく。彼女のことだ、身を守れと命じれば、それを遂行することに徹するだろう――サクヤさんや、他の情報部員も同じだ。


 あとは、3つのギルドを同時に制圧するために、どのようにメンバーを割り振るかを決めなければならない。相手にするギルドごとに、適任者は変わってくる。


 俺は白の山羊亭のもう一人の幹部を見つけ出す。魔王討伐隊の仲間でも、無傷では済まない相手かもしれない――ならば、俺が直接相手をする。


 相手が誰であろうが、手加減抜きで迅速にことを終わらせる。赤の双子亭で傷ついたギルド員たちのように、誰かが苦しむところをもう見たくはない。



 ◆◇◆



 翌日の朝、俺は魔法大学の近くにある訓練場に、魔王討伐隊の面々を集めた。


「ディック、あたしはどこに行けばいい? 一番危なそうな紫の蠍亭に行ったほうがいいのかな」

「アイリーンなら大丈夫だとは思うが、紫の蠍亭は毒を使うやつが多い。格闘よりは、距離を取って戦った方がよさそうだ」

「わかった、僕が行こう。彼らの仕事の対象が、騎士団の人間だったということがあってね。一度、挨拶をしておきたかったんだ」


 暗殺か、それとも誘拐か――冒険者の仕事ではないそれらを生業としてしまった、いわば闇のギルド。そこに乗り込むのが光剣の勇者というのは、因果なものだ。


「ユマは『緑の大蟹亭』に行ってくれるか。このギルドにはゴーレム使いがいるが、ユマの力があれば無力化できる。アイリーンに護衛をしてもらえば、近づかれることもないだろう」

「はい、わかりました。ゴーレムさんは、精霊さまや、人の魂を宿して動くものですからね。お役に立つことができて光栄です」

「よーし、ユマちゃんのことはあたしが絶対守ってあげるから! もし鬼神化しても、すぐ鎮めてもらえるしね。あれって、しばらく放っておくと色々大変なんだよね~……」


 鬼神化の副作用は、破壊衝動以外にもいろいろとあるらしい。アイリーンが言いたがらないので、教えてもらってはいないのだが。


「それじゃ、私とディックで、白の山羊亭ということになるのかしら……一番の強敵だものね。私たち二人なら、相手にならないでしょうけれど」

「そうだといいがな。状況から見ると、白の山羊亭には、SSSランクの敵がいる可能性がある」


 そう言うと、皆に緊張が走る――しかし、コーディ、アイリーン、ミラルカの武闘派三人の瞳には、すぐに並々ならぬ闘志が宿る。


「ディック、僕も自分の仕事を終えたらすぐに駆け付けるよ」

「ヴェルレーヌさんと戦ったときみたいに、フルパーティで戦えば絶対負けないしね。ちょっと卑怯かもだけど、それがあたしたち『魔王討伐隊』だし」

「どんな能力を持っているのか、興味はあるわね。一瞬で終わらないといいのだけど」


 まったく、頼りがいがあることこの上ない。クライブがこの三人を前にしたら、俺なんかが世間の広さを教えるよりも、何倍も良い教育になったことだろう。


「それと、ディック。今回の件が終わったら、ここで僕と鍛錬をしてくれると嬉しい。本当は、今日もそれで呼んでくれたんだと思って、準備もしてきたんだよ」

「わ、悪い。できるだけ早いうちに、時間を作るよ」

「うん、分かった。ここまで念を押しておけば大丈夫かな。忘れられると寂しいからね」


 コーディは気持ちを切り替え、練習用の剣ではなく、実戦用の長剣を持ち出す。『光剣』を剣として使う場面は、今回の作戦ではそうそう訪れないということだ。


 そして全員で揃って仮面を取り出す。俺一人だけが、顔をすっぽり覆う鉄仮面を取り出すと、なぜか全員から注視される。


「……その仮面の方が、デザインがいいわね。次からは私もそれにするわ」

「もー、ディックったら。そうやって、一人だけ抜け駆けするんだから」

「本当だね。このほうが正体を完全に隠せるし、僕の分も作ってもらおうかな」

「ディックさん、とってもお似合いです♪ ますます正義の味方という感じがします」

「い、いや……いつも同じ仮面だと、特定されるかと思っただけなんだがな」


 この四人の一体感は何なのか――元から仲は良かったのだが、ますます良くなったように思える。


 俺たちのパーティは、魔王討伐の旅をした時から全く変わっていない。仮面の救い手を名乗るようになってから、それを実感させられる機会が増えていた。楽しいと言っては不謹慎だが、全員が同じ方向を向いてくれていることを、とても有り難く思う。


 白の山羊亭を狂わせた存在と対峙する時は、そう遠くはない。その時を待ち望みながら、俺は皆と共に訓練場から出て、散開してそれぞれの作戦行動を開始した。


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