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デートに行きましょう2

「今日は馬車で行こうか。遅くなるといけないしね」


 ウィルシスの気遣いに私は思わずウィルシスを二度見しましたよっ。

 まさかウィルシスから遅くなるといけないとか、そんな普通の言葉を聞く日が来るとは思いませんでしたっ。

 

 ハッ…まさかこのウィルシスは偽物とか、そういうことでしょうか、それとも…


「ウィルシス、病気ですか?」


「どういう意味かな?」


 ものすごく怖い笑顔で微笑まれました。

 ウィルシスですね、うん、間違いなくウィルシスです!


「さぁ、乗って」


 手を差し出され、まるで普通の紳士のような振る舞いに再び私は目を丸くします。

 いつもならここは問答無用に私を抱き上げて膝に乗せるのに…。


「やっぱりどこかおかしいのではないですか?」


 不安になり立ち止まる私の耳に、ウィルシスは唇を近づけて囁きます。


「おかしなこと言ってると公開キスするよ?」

 

 失礼しました! ウィルシスは本日も絶好調です!

 

 私は慌てて馬車に飛び乗り、席について向かいに座るウィルシスを眺め、やはり、おや?と首を傾げました。

 何かいつもと違うような気がします。いつもみたいにべたべた触ってきませんので、なんだか残念で…


 残念てなんですかー! 今の無しですっ 気の迷いですっ!


 顔を真っ赤にして手の甲で頬の熱を冷ましていると、ウィルシスがそれに気が付いてこちらを見ます。

 うぅ…今は見ないでください。


「顔が赤いけどどうかした?」


「かっ、あっ、にゃんでもないでしゅ!」


 にゃ…て、それに、でしゅって噛みましたよ…。

 さらに赤くなって俯くと、ウィルシスは優しく微笑み、私はさらに彼を見られなくなって俯くのでした。


________________



 なんだか気まずい雰囲気の馬車がようやく止まり、降りた場所は町の商店街が立ち並ぶ大通り。

 ただし、こちらの通りはギルドの道とは違う方の大きな通りで、雑貨や服飾店もあるけれどほとんど食品が占めるギルドの大通りと違い、こちらは雑貨屋さん、服飾店、文房具屋さんといろんなお店が立ち並び、食品が少なめの通りになっています。


「ふわわわわわわ~っ」


 あっちへふらふら、こっちへふらふらしてしまうのは買い物好きな女性の特徴ですかね? 今は目の前に並ぶキラキラ輝くネックレスや指輪を見て目を輝かせております!

 

「欲しいものはある?」


「いえいえ。私は装飾品は着けない主義ですので見ているのが一番なのです」


 ショーケースの中を見て回っていると、気になる物発見!

 

「耳かき?」


 この世界で耳かきなんて初めて見ました。しかもなぜかダイヤモンドでできた耳かきです!

 無駄にゴージャスっ


「何故ダイヤモンドで耳かきなんて作っているのでしょう?」


「…耳かき」


 ウィルシスがぐっと何かを堪えております。


「もったいないです。こんな高級な耳かき使えませんよ」


 硬度が高くても細いのですぐに折れそうです。怖いですよこの細さっ

 そんなことを呟いておりましたら、なぜかウィルシスがぶふっと吹き出し、腹を抱えて笑い出しました。


「リア、それは耳かきじゃなくて東方から伝わった(かんざし)という装飾品だよ」


 簪!? ありえません! この形状はどこからどう見ても日本人の好きな耳かきです! いや、好きかどうかはしりませんが。

 とにかくどこかで商隊の方が簪と耳かきを聞き間違えたのです。きっとそうですっ。

 

 これは耳かきですっ! 主張致しますよ!


 いい加減笑いやめてくださいっっ!


 ・・・・・


 そんなほのぼの(?)としたやり取りをしながら、あちこちの店をひかしているうちに気が付いたのですが、行く先々でウィルシスが若い娘さんの視線を浴びております。


 ファンでしょうか?


 そんなことをぼんやり思っていると、私はいつの間にか増えた綺麗なお姉さんの輪の外にはじかれ、中央にいるウィルシスから離れてしまいましたっ。


「ウィルシスッ」


 声をかけますが、今日の私は大人ではなく子供の姿。

 背の高い女性達の外側からではウィルシスの姿は見えないし、女性達もだんだん熱心にウィルシスを口説き始めていて、私の声はかき消されてしまいました。


「いいお店知ってるわ。案内しましょうか?」


 ぴょこぴょこ飛び跳ねてアピールしますが、私が跳ねて見たものは、ウィルシスが胸のバインっと大きな女性に腕を絡められ、すり寄られる姿です。


 なぜ今日のウィルシスはフェミニストなのでしょう?

 いつもならば周りの人など気にもとめずに私の傍に来てくれるのに…


 ん? 何かもやもやしますよ? それに私のそばにいつもって…


 まさか…しっ…?


 一人プルプルと首を横に振ります。


 いえ!嫉妬じゃないですよ! これは嫉妬じゃなくて! そう! 一人にされて寂しくなっただけです!

 そうに決まっているのですっとガッツポーズをとっておりましたら、女性の声がしました。


「ね、行きましょう?」


 私が大人の姿になっても叶わないような美人がウィルシスを誘います。

 その姿は美男美女で絵になっていて…


「ぴっ」


 喉がひくっと鳴り、目にじわりと涙が浮かんだ瞬間


 ビシビシビシッ


「「きゃああっ」」


 その場に青白い電撃がほとばしり、女性達が痺れたようにその場に蹲りました。

 

 何が起きたのでしょうっ? 若干ウィルシスも痺れたようではありますが、私は全くの無傷ですよっ?


 驚いていると、ウィルシスが輪の中から飛び出てきて私の手を取り走り出しました。


「ウィルシスッ? 何が起きたのですかっ? お姉さん達はっ?」


「黒い人のせいだ」


 黒い人? 黒い人って誰ですか?


 私の知ってる黒い人は一人しか思い当たりませんよ?


 

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