ケインの日記
〇の月☓日
初めて顔を合わせた古竜は純白の長い髪に黄金色の瞳がくりくりと丸く大きな、この上なく可愛らしい少女でした。
これは絶対美人になる。となると、今の内からケイン君素敵~とか、ケイン君優しい~とかそういった刷り込みをしておかねばならないと思うわけだ。
ケインの執務机の上に無造作に置かれた本型の日記のページにはそのように書かれており、黒竜隊隊長ヴァンが拾ってきた子猫が、風でそのページが動くのを見てちょいちょいと悪戯を仕掛ける。
〇の月☐日
古竜お披露目とアマリーア姫の誕生日の計画書の提出を忘れて罰が下された!
見た目はとてもうまそうな激マズ料理店メレンテにリーリアちゃんを連れて行って嫌われろとは、鬼畜です総隊長!と叫んだけど…
リーリアちゃんは優しかった。
共にまずい料理を完食したあと、この俺をねぎらうように頭を撫でてくれて褒めてくれたのだ。
あぁ…この優しさが俺だけの為にあったなら…
ついでに、その時の姿はぜひ大人でお願いします。
猫は調子に乗ってちょいちょいとページをめくる。
◇の月〇日
リーリアちゃんといいことがあると暗殺者に狙われる!
でも、あの可愛さは暗殺者と戦う価値ありだと思うんだよ。
今日の昼ごろリーリアちゃんが外で花を咲かせてた。
確か巨木を生やしたりするから使うなって止められてたはずだけど、使いたくなったんだな。キモチはわかる。だが、どうやら失敗したらしい。
庭の片隅で人型になってしまい、蹲っているのを見て慌ててマントを着せに行った。
ちょっと涙目で見上げてきて、お礼を言う姿が可愛過ぎ…。
お持ち帰りしたくなったけど、嫌われたくないから我慢した。俺って紳士だよな。
「何を悪戯してるんだ?」
ケインの執務机はヴァンの執務室に置いてある。
ヴァンは外での仕事を終え、部屋に戻ったところ、悪戯に熱中している猫を見つけ、抱き上げてケインの日記を見下ろした。
欲望願望駄々漏れな日記は、この上なく危険な代物のように見える。
ヴァンは近くのペンをとると、上司としての親切心から、白紙のページに一言、流暢な文字でさらさらと文字を書いた。
「に~」
「あぁ、エサの時間だな」
ヴァンはすり寄ってくる猫に気をとられ、日記はそのままに部屋を出ていく。
そして、入れ替わるように入ってきたのは…
△の月☆日
なんで総隊長なんだー!
あんなに嫌がってたはずなのに、俺はリーリアちゃんが恍惚とした顔で襲われてる姿を見てしまった!
すぐに俺に助けを求めてきたけどっ
飛びついてきた体が柔らかかった~ デヘ
でも、あれはやっぱりそういうことだよな…
リーリアちゃん考え直すんだ!
あの総隊長より俺の方が若いし、将来性あるし、優しい!
選ぶなら絶対俺だと思う!
そうしたら毎日抱きしめて、優しくして、お風呂に入って…
暴走する妄想が赤裸々に綴られ、それを読んでしまった少女が、ヴァンの文字の後に一言書く。
そうしてバタバタと飛び出した彼女の姿を見た最後の一人が、日記に気が付いてペンをとると、さらさらと最後の一言を付け足した。
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「ふんふんふ~ん♪」
用を足して戻ってきた日記の所有者ケインは、執務机の上で日記が開いているのにぎょっとして慌てて飛び付くと、白紙だったページに文字が書かれているのに気が付いてそのページを読んだ。
どれも綺麗な文字だが、書き手が違うようで、文字が違う。
うわ~っ、これ読まれたってことっ?
顔を真っ赤にしながら読んだ3行の文に、ケインの顔は赤から真っ青へと変化する。
『気をつけろ』
これはヴァンが日記の出しっぱなしに気をつけろという意味で書いた言葉である。
『不潔ですわ』
これはおそらくアマリーアだろう。彼女に知られたとなるとリーリアの耳にも入るかもしれない…
ケインはわずかに青ざめる。
そして極めつけの三行目…
『明日が来るとは思うな』
殺される! 絶対殺される!
これは間違いなく総隊長ウィルシスである。
ケインは取る物も取り敢えず脱走を試みることにした。
とにかく2・3日姿をくらましてほとぼりが冷めた頃に戻れば少しはいいはず!
そう思い、部屋の扉を出た瞬間、彼は意識を失った…
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「・・・あいつは何の修業を始めたんだ?」
城のエントランスホールに人だかりができているのを見た青竜隊副官ゼノは、天井のシャンデリアに乗っかるように突っ伏しているケインに首を傾げた。
その足には縄が絡み、吊るされていたとわかる。そして、綺麗な天井には幾本ものナイフが刺さっているとなると…
「吊るされて的にされたか」
ゼノの横にヴァンが現れ、ゼノは何が起きたか思い当ると、「あ~」と声を出した。
「気にするな、あれも修行だ」
ヴァンの言葉に「ですね~」とゼノは同意し、その場を去った。
その後、ケインは城中の女性達から
「不潔よ~!」
と言われ、数日間は逃げられ続けたという…
アマリーア「さぁ、一思いに!」
廊下でケインに出会ったリーリアは、アマリーアとメイド達に言われ、とあるゲームの罰ゲームとして一言『不潔よ!』と言わねばならなかったのだが、だらだらと汗を流し、青ざめるケインに首を傾げて尋ねた。
リーリア「気持ち悪い?」
ケイン「…うっ…うぅっ…」
体調を気づかったのだが、男泣きで走り去られてしまった…
アマリーア「…やるわね」
女達はなぜか感心したように頷く。
ケインはリーリアの気遣いにより、予想以上の大ダメージを負ったのだった…




