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運動の秋 4

 世の中には、決して相容れぬ存在があるのではないかと思います。


「おかあちゃま」


「あらなぁに?」


「クロちゃんを止めていただけませんかね」


「いやよぉ、ケガしちゃう」


 古竜がそう簡単にけがを負うわけないとか、お菓子で義弟のラス君を餌付けしないでくださいとか、皆さんの活躍を応援してあげて下さいとか、色々色々言いたいことはありますが、できれば今のこの惨状を止めてほしいと思うのはきっとここにいる人々の総意だと思うのです。


 リーダー対決が始まった瞬間、まず最初に大きな剣を振り抜いたのはなんとここで一番冷静でいられるのではないかと思っていたレイナです。

 最近肌寒くなってきたのでビキニアーマーではありませんが、お腹が出そうな短いシャツにマイクロミニなパンツをはき、お手製トラック内を縦横無尽にしなやかに駆け巡る姿は女豹のようです。

 

 お色気むんむん過ぎて騎士団の純情青年達が鼻血を噴きだす事態となっております。


 そして、その剣を受け流したのは表情が変わらない赤竜隊隊長レイファスです。

 なんだかぼんやりとレイナを見つめ、そして今襲ってきた相手に気が付いたという顔をしたかと思うと、二度目の剣を受け止め、それを跳ね上げて彼女の腹に速くて重い蹴りを繰り出しました。


「「「ピュキャアアアア~!」」」


 古竜の女性から大ブーイング!


「女の敵よ~!」

「女性に手を上げたわ!」

「サイテー!」


 ぴっきゅっぴっきゅっ(さ・い・てー! さ・い・てー!)古竜達から竜語による非難轟々です。ですが、竜語は血が濃くてもわかる人とわからない人がおり、レイファスにはわからないのか、大勢の声で聞きづらいのか、不思議そうな顔で首を傾げられました。


「…ありがとう?」


 応援されていると取ったらしいレイファスの首を傾げる姿に、古竜の娘達のハートが打ち抜かれ、古竜組は一部バラ色、一部敗北を味わって明暗に分かれました。

 落ち込む古竜達を慰めに走ったのは竜王セルヴァレートです。

 皆を落ち着かせる姿は見た目子供でも王様なんだと感じさせますね。


「王様というのは慰めるのも上手なんですねぇ」


 目の前の現実から少し目を逸らしてうんうんと頷いていると、セルヴァレートが叫びます。


「褒められてる気がしない! それよりあれを何とかしないか!」


 いやですね、忘れていたかったのですよ、この惨状…。





 レイナが吹っ飛ばされた後のトラック内では、クロちゃんとウィルシスが剣を片手に睨みあっております。もうすでに何合か打ち合った後なのですが、その度に衝撃破なるものが発生し、只今トラックは抉れた土でぼこぼこです。


「お前らうちの庭を荒らすな!!」


 勇者です。勇者がいますっ。

 その名も…舌を噛みそうなので言えませんが、国王様です。

 

 主催者側で場所の提供者でもある国王様の叫びに私はお~っと拍手しました。

 しかし、あの二人はギラリと国王様を睨みつけ、国王様は「うっ」と怯んでしまい、あえなく撃沈。すごすごと後ろへ退散して王妃様に慰めてもらっておりました。

 

 頼りになりません!


「グ~レ~ン~」


 この城で頼りになるのは守護竜であり私の心の母とでもいうべき神竜のグレンです。彼ならば竜の姿で二人を止めてくれるはずです。

 期待を膨らませ、グレンの元までぱたたたた~っと羽ばたく私は、その途中で衝撃波に会い、地面に転がり落ちました。


 ごろごろごろっ


 転がり落ちただけでは飽き足らず、さらに地面の上を長距離ローリング!


 おのれぇっとガバリと起きれば、古竜組が点々と転がっております。

 ついに被害者発生です!(主に古竜ですが)


 これは本気で止めねばと二人を見れば、何やら剣を打ち合わせながら話しているようです。

 耳を澄まして聞こえてきた言葉は…


「リーリアは嫁にもらう!」


「誰がお前などにやるか」


 ・・・・・・・・


 ・・・・・・


 ・・・・


 周りの視線が痛い…。


 私ですかっ、私が悪いのですか!? そうはいっても何の能力もない最弱竜の身であれを止められると思いますか!?


 涙目で同じ古竜達を見やれば、皆すっと目を逸らします。

 ふっ…なんだかんだ言って皆さんも止められるとは思っていないということですよね。


「おぉっと~、この嵐の中ギルドのレイナがゴールです!」


 お祭り好きの方の実況に皆がはっとします。

 どうやらレースは続いていたようです。


 衝撃波の中、レイナがどこからか持ってきた借り物であるステテコを掲げておりました。

 借り物はステテコだったのですね…ですが、一体どこにあったのですかそれ、よもやどなたかが履いていた物ではないですかそれ…。


 同じことを思った者達がギルドと騎士団へ目を向けると、ギルドの一人がパンツ一丁で仁王立ちしてました。

 涙目に見えますので、おそらくレイナに剥かれたのですね…。


「で、レイファス様は何故彼女と一緒にゴールを?」


 実況さんの言うように、実は騎士団の代表レイファスがレイナの方腕を掴んだまま共にゴールのテープを切っていたのです。

 不思議がる審判に、レイファスが借り物を書いた紙を差し出し、審判がそれを見てコクコクと顔を真っ赤にして頷きました。


 なんだなんだと皆が衝撃波にあおられながらも興味津々に見つめれば、審判によって実況に伝えられ、彼は魔法で音声を拡大して叫びました。


「レイファス様の借り物はなんと! 初めての女性!…何が初めてかは聞きませんが、いえ、いいです、言わないで下さいレイファス様!」


 何が初めてか説明しようとしたレイファスから実況と審判が逃げ回り、レイナは口をパか~っと開けて呆然。ギルドと古竜の女性ファンからは悲鳴が上がりました。

 かくいう私も驚きましたよ…。まさか襲われたレイファス様が初めてだったとは…。

 あ、いやいや、デートが初めてだったとかいう話ですね、きっと。


 私は純情、私は純情…


 呪文のように繰り返し、正気に戻ったところでこれまた激しい衝撃波に襲われ、立っている人々は尻餅をつき、古竜は皆吹っ飛びました。


「やり過ぎだ二人とも!」


 さすがにグレンが叫び、私にちらりと視線を向けます。

 

 無理ですよっ、私に止められませんよっ


 ぶんぶんと首を横に振ったところで、がしっと尻尾を掴まれました。


「いやんっ?」


 可愛くいやんでなく、疑問でいやんです。

 何事かと顔だけ振り返れば、そこには黒く聳え立つようなオーラを醸し出した古竜改さん人間バージョン、名前がワカリマセンのお方が私を掴み、ふんっと私を振り回し始めました!


「ブキャ~!」


 本日いつもより転がされる率高いです! これは回されてるというべきかもですがっっ


「止めてこーい!」


 いやぁぁぁぁぁぁ~!


 思いっきり投げ飛ばされました!

 豪速球です!


 私の目の前にウィルシスが映ったと思ったら、その横顔にクリティカルヒット!ついで跳ね返った私はそのままクロちゃんの顔にべしっと勢いよく腹打ちしてしがみ付き、両名とも地面に倒れて声もなく悶絶しました。

 

 私はころりと地面に転がり落ち、トラックの惨状を見てピンと思いつきましたヨ。

 

 草原を取り除いて作られた運動用トラックは今や土が掘り返されたモコモコの状態。そしてそれは直すべきで、ここは外。


 となれば…


 解禁!


 きらりと目を輝かせた瞬間、グレンがいち早く止めに駆け寄る姿が見えましたが、アドレナリン増出中の私に追いつくはずがありませんよ!


「枯れ木に花を咲かせましょ~!」


 秘儀・花咲か爺さん発動!


 王族側から「うあぁぁ~!」と悲鳴が上がりましたが、無視ですよ無視。

 余計なことが起きるから使用禁止と言われていたこれも、ここなら…


 ぽぽぽぽぽぽんっ!


 トラック一面に魔力で具現化した花が…花が?


「あれぇ?」


 クロちゃんとウィルシスの魔力だったせいなのか、皆の頭には普通の花が咲いたのですが、トラック内に咲いた…というか具現化したのは、かぼちゃにサツマイモといった秋の味覚でした。

  

 すぐに収穫大会となり、魔力たっぷり効果を持った秋の味覚は美味しく頂かれることになりました。


 


 ちなみに運動会の結果は、最終票 ギルド4 騎士団4の同点、竜族、王族はゴールできず失格で、総得点は竜族6点、王族3点、ギルド9点、騎士団10点で騎士団優勝となりました。 

 

 そして優勝賞品蕩けて爆発輝くケーキは、そのうまさのあまり騎士達の舌を蕩かせた後、なぜか爆発して皆の姿がすすけてまっ黒に染まったところで、内側からぽわぽわと輝くというケーキ名の通りの現象を起こし、3日間そのままだったそうです。


 幻というか…危険視されてたんじゃないですかね、そのケーキ職人さん…と皆が思ったのは言うまでもない…。 



 



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