運動の秋 2
「私は頭脳派なのですが」
緑の古竜アイノスさんが、人間の姿でメガネを指で押し上げため息をつきます。
「頭脳派も肉体派も皆まとめて運動の秋です!」
体育の秋とも言いますね。
この日のためにギルドに頼んで玉入れ用の赤白の玉と、玉転がし用の大きな玉を作ってもらったのですよ。
そして、いつもは竜の発着場となる王城右手の草原地帯(半分くらいは芝生)に運動用トラックを作り、準備万端に今日を迎えたのです。
「種族対抗…」
騎士団総隊長ウィルシスと守護竜グレン、強引に引き込んだマイ父魔王のクロちゃんが微妙な顔をしておりますが無視です。
ちなみに組み分けは騎士団、竜族、王族、ギルドの4組です。
王族組にはウィルシスとグレンが。竜族組には竜王セルヴァレートとクロちゃんが、ハンデを補うために割り振られました。
「勝利したチームには幻と謳われるイリューサ・カッツェ作、蕩けて爆発、輝くケーキをプレゼントだ!」
ネーミングだけで何が起こるのかわからないケーキですね…。
「「うおぉぉぉぉぉぉ~!」」
あ、ギルドと騎士団の皆様が俄然やる気になったようなので素晴らしいケーキなのかもしれません。
賞品は任せておけといった王様をかなり疑っていましたが訂正しましょう。
「リーリア」
後ろからバリトンボイスがとんがって頭に刺さりましたっ。イメージですけれど…。
「なんですかクロちゃん」
振り返れば、やはり不機嫌顔のクロちゃんが私を見下ろします。その腕にはちょっと眠そうな義弟のラス君が抱かれ、頭の上には最近その場所がお気に入りらしいピンクの古竜でマイ母のリアーナが乗っかっております。
見た目が面白すぎですよクロちゃん…。
「忙しいんだが」
「たまには息抜きすべきですよっ。それに、あんなお化け屋敷にラス君を閉じ込めていたら健全な精神が育ちませんっ」
すでにラス君はお化け全般平気のへっちゃらなんですっ。
子供は脅えるモノなのですよっ。そして昔から子育てに活用されるものなのですっ。悪いことするとお化けが来るぞぉ~って。
お化けという名の祖先たちを敬わせ、かつ教育を施すという一石二鳥の先人の知恵を無視しないでくださいっ。
それに、このままでは私一人が魔王城で悲鳴を上げることになりかねないではないですかっっ(本音)。
「そうじゃな~。根の詰めすぎはいかんな~」
「ですよね~」
同意してくれたのは、今回竜王セルヴァレートをひっぱり出してきてくれた竜族の長老の一人、イルじーちゃんです。
今回は体力測定を兼ねて人間バージョンの古竜の体力を見たいということだそうです。
「爺さん達は欲望に忠実過ぎだ」
セルヴァレートが諦めたようにため息をつきました。
諦めていただいたならば、さぁ、目指せ優勝ですっ。
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「小手調べはリレーですっ!」
こちらは子供から大人まで参加です。
子供は子供達だけで走りますが、その場合、走るのは竜族からラス君、王族からアマリーア、騎士団から青竜隊のリオン君、ギルドからはギルドのカウンターアルバイトのキールの妹、栗毛のツインテールに青い瞳の7歳になるメイちゃんが参加です!
「お待ちになって! どう考えてもラスが負けるし、リオンが勝つのではなくてっ」
アマリーアが意義ありとばかりに声を張り上げるのに、私が答えます。
「そうだろうと思ってハンデが付きますっ。ラス君は20メートル、メイちゃんとアマリーアは50メートル、リオン君が100メートル走りますっ」
これならば問題はないはずです。
アマリーアが大丈夫かしらという表情をしておりましたが、いざ始めるといい勝負になりました。
ちなみに大人組は300メートル走です。これぐらいならきっと古竜であってもスタミナ切れにはならないだろうと設定させていただきました。
ですが、参加したアイノスさんは頭脳派。見事に200メートル全力疾走後、残り100メートルを全力失速しました。
早っ! スタミナ切れ早すぎですよアイノスさん!
結果はなんとギルド組4点 騎士団3点 竜族2点 王族1点 という意外な結果にっ。
どうやらギルド組はここぞとばかりに足に自信のある人々を出したようですね。後で後悔しても知りませんよ? 競技はまだまだ続くのです。
「続いて綱引きです!」
全員参加型です。全チームと当たって勝ち抜かねばなりません。
ここでもハンデが付きます。騎士団は強いので半分の人数で戦うのですっ。竜の血の混じる人々は驚異的ですからね、こちらに純粋な竜がいても一人二人では勝ち目がないのです。それゆえのハンデ!
「そんじゃあいくかー!」
王様が掛け声をかけます。気合入れというやつですね。
「よーいっ 始め!」
始めの合図と共に王族対騎士団が引っ張り合いました。両者拮抗っ…と思いきやっ、なんと王族側が圧倒的です!
「陛下、負けてはいけませんわ」
いやいや、王妃様、綱を持ってください。綱の横で応援しないでください。
そして王様、デレ顔で綱を引くの止めてくださいっ、気持ち悪いですよ!
「あんなのに負けられるかー!」
王のデレ顔に腹を立てた騎士達が踏ん張ります。
おぉっ、騎士の巻き返しなるかーっ!
・・・・・・・
・・・・
結果は 王族4点 竜族3点 ギルド2点 騎士団1点
どうやら王族は綱引きのコツを掴んでいたようです。そして、騎士団はコツが掴めず惨敗。
「特別訓練追加」
ウィルシスに最後通告のようなものを言い渡され、震えあがっておりました…。




